虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

文字の大きさ
66 / 110
番外編(高田の話)

「貴女を愛することはない」という年上の次期番頭に玉砕覚悟で告白したら、溺愛されています……? -9

 怜二のいいところの続きを話していいか問う高田を、怜二は「ちょっと待て」と押しとどめた。
そして、あまりにも自分に都合のいい展開に混乱する頭を落ち着かせようと、深呼吸をする。

 こんなに都合のいいことが、自分の人生におこるわけがない。
怜二はそれを自分に思い出させるために、これまでの自分の半生を思い返した。







 俺がはじめて万智子お嬢様に会ったのは、17歳の時だ。
あの時は、いま思い出しても、人生最悪の時だった。

 それまで最悪の時といえば、実家から以前の職場である元之元呉服店に奉公にだされて、あのクソ女と婚約させられた時だった。

 まさかそれを上回る最悪な時があるとはな。
ほんとうに俺の人生はクソすぎると思わされた。

 なにしろ結婚予定で7年もいっしょに暮らしていた女が、他の男の子を妊娠したとか言い出したのだ。
あげくに、以前の許嫁が店にいるのは夫がかわいそうだとか何とか言って、俺を追い出しやがった。

 誰がかわいそうなんだか。
許嫁がいるのに、他の男をくわえこんだ下種女自身か?
それとも俺に敵愾心を抱いて、俺の許嫁を寝取った下種男か?

 ま、それはいい。
 あのクソ女はほんとにクソで、俺といると自分が不細工に思えて腹が立つとか言って、あの店で働き始めた10歳のころは、人目のないところでは俺を殴るの蹴るの、ひどいものだった。

 さすがに俺の身長がにょきにょき伸びて、あの女の父親よりあたまひとつ大きくなったころには、手をあげることはなくなった。
 だが、そのぶん店の使用人たちに無視させたり、妙な噂を流したり、くだらねぇ嫌がらせばっかりしていた。

 言っちゃなんだが、俺はあの呉服店でもいちばん人気のある手代だったんだ。
店のためを思うなら、俺のことはもうちょっとまっとうに扱うべきだし、最低限、妙な噂をたててその価値を下げるようなことはするべきじゃなかった。
そんなことすりゃ、店の価値まで下げるようなもんだ。

 その程度のことも思いつかない女だし、その程度のこともわきまえられないほど商売のことなんてどうでもいいと思っているような女だった。

 あいつの頭にあるのは、いつだって、自分、自分、自分。
自分のことだけ。

 容姿に恵まれなくて、かわいそうな自分。
大きな呉服屋のひとり娘にうまれて、父や母にあまやかして育てられている恵まれた自分。

 ほしいものはなんでも手に入れたい。
わがままはなんでもかなえてほしい。
誰もに、ちやほやしてほしい。
 ただし、綺麗になるための努力をするのもいや、人に好かれるために優しくふるまうのもいや、勉強やお稽古ごとに精をだすのもいや。

 自分はなんにも苦労せず、ありのまま望み、ありのまま叶えられるべきだ。
だって、自分はかわいそうで、だけれど恵まれた娘なのだから。

 そう、あの女はよくうそぶいていた。

 ……いま思い返しても、ほんとうにろくでもない女だな。
あんな女と結婚せずにすんで、寝取ってくれた男に感謝したくなったぞ。
あの男は男で下種だから、感謝なんてしねぇけど。

 けど、あの店を追い出されたのは腹が立った。
いつか自分の店になると思えばこそ、あの女の嫌がらせにもくじけず、店をよくするためにいろいろ手をつくしたり、下の者の面倒みたりしてたが、それも無駄になった。

 ま、俺のつくった土台にあぐらをかいていたあいつらは、数年でその財産を食いつぶし、いまじゃ元之元呉服店の評判はひどいもんだし、出来のいい丁稚はこっちに引き抜けた。
 まだ店がつぶれるほどじゃねぇが、あの夫婦は喧嘩が絶えないそうだし、ふたりして愛人をこしらえているようだしで、勝手に不幸になっているのには笑えたが。

 いや、あいつらのことは、いまはどうでもいい。
今は、万智子お嬢様のことだ。

 万智子お嬢様が、俺のことを好き?

 なるほど。
まぁ、それは気づいていた。
いつだってお嬢さんは、店に来ては俺の顔をじーっと見てたし、目があうと顔を赤らめたり、女の客に愛想をふりまいていたらそわそわしたり、あからさまでかわいいものだった。

 けど、それだけに、お嬢さんの気持ちは子どもの初恋みてぇなものだろうとも思っていた。
初恋は、初雪のようなものだ。
あると思って手をのばし、自分の手につかんだと思った瞬間、溶けて消える。

 だから本気にしないよう、自分に言い聞かせていた。
10歳も年下の、雇い主の娘に想いをよせるなんて、破滅への第一歩をみずから踏み出すようなもんだ。
みょうに熱心に自分を見てくるかわいい女の子にすこし気分がよくなっても、そのことを意識しないようにしていた。

 実際、それは難しいことじゃなかった。
つい最近、万智子お嬢様が変わるまでは。
感想 49

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!

山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」 夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。