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番外編(高田の話)
「貴女を愛することはない」という年上の次期番頭に玉砕覚悟で告白したら、溺愛されています……? -9
怜二のいいところの続きを話していいか問う高田を、怜二は「ちょっと待て」と押しとどめた。
そして、あまりにも自分に都合のいい展開に混乱する頭を落ち着かせようと、深呼吸をする。
こんなに都合のいいことが、自分の人生におこるわけがない。
怜二はそれを自分に思い出させるために、これまでの自分の半生を思い返した。
俺がはじめて万智子お嬢様に会ったのは、17歳の時だ。
あの時は、いま思い出しても、人生最悪の時だった。
それまで最悪の時といえば、実家から以前の職場である元之元呉服店に奉公にだされて、あのクソ女と婚約させられた時だった。
まさかそれを上回る最悪な時があるとはな。
ほんとうに俺の人生はクソすぎると思わされた。
なにしろ結婚予定で7年もいっしょに暮らしていた女が、他の男の子を妊娠したとか言い出したのだ。
あげくに、以前の許嫁が店にいるのは夫がかわいそうだとか何とか言って、俺を追い出しやがった。
誰がかわいそうなんだか。
許嫁がいるのに、他の男をくわえこんだ下種女自身か?
それとも俺に敵愾心を抱いて、俺の許嫁を寝取った下種男か?
ま、それはいい。
あのクソ女はほんとにクソで、俺といると自分が不細工に思えて腹が立つとか言って、あの店で働き始めた10歳のころは、人目のないところでは俺を殴るの蹴るの、ひどいものだった。
さすがに俺の身長がにょきにょき伸びて、あの女の父親よりあたまひとつ大きくなったころには、手をあげることはなくなった。
だが、そのぶん店の使用人たちに無視させたり、妙な噂を流したり、くだらねぇ嫌がらせばっかりしていた。
言っちゃなんだが、俺はあの呉服店でもいちばん人気のある手代だったんだ。
店のためを思うなら、俺のことはもうちょっとまっとうに扱うべきだし、最低限、妙な噂をたててその価値を下げるようなことはするべきじゃなかった。
そんなことすりゃ、店の価値まで下げるようなもんだ。
その程度のことも思いつかない女だし、その程度のこともわきまえられないほど商売のことなんてどうでもいいと思っているような女だった。
あいつの頭にあるのは、いつだって、自分、自分、自分。
自分のことだけ。
容姿に恵まれなくて、かわいそうな自分。
大きな呉服屋のひとり娘にうまれて、父や母にあまやかして育てられている恵まれた自分。
ほしいものはなんでも手に入れたい。
わがままはなんでもかなえてほしい。
誰もに、ちやほやしてほしい。
ただし、綺麗になるための努力をするのもいや、人に好かれるために優しくふるまうのもいや、勉強やお稽古ごとに精をだすのもいや。
自分はなんにも苦労せず、ありのまま望み、ありのまま叶えられるべきだ。
だって、自分はかわいそうで、だけれど恵まれた娘なのだから。
そう、あの女はよくうそぶいていた。
……いま思い返しても、ほんとうにろくでもない女だな。
あんな女と結婚せずにすんで、寝取ってくれた男に感謝したくなったぞ。
あの男は男で下種だから、感謝なんてしねぇけど。
けど、あの店を追い出されたのは腹が立った。
いつか自分の店になると思えばこそ、あの女の嫌がらせにもくじけず、店をよくするためにいろいろ手をつくしたり、下の者の面倒みたりしてたが、それも無駄になった。
ま、俺のつくった土台にあぐらをかいていたあいつらは、数年でその財産を食いつぶし、いまじゃ元之元呉服店の評判はひどいもんだし、出来のいい丁稚はこっちに引き抜けた。
まだ店がつぶれるほどじゃねぇが、あの夫婦は喧嘩が絶えないそうだし、ふたりして愛人をこしらえているようだしで、勝手に不幸になっているのには笑えたが。
いや、あいつらのことは、いまはどうでもいい。
今は、万智子お嬢様のことだ。
万智子お嬢様が、俺のことを好き?
なるほど。
まぁ、それは気づいていた。
いつだってお嬢さんは、店に来ては俺の顔をじーっと見てたし、目があうと顔を赤らめたり、女の客に愛想をふりまいていたらそわそわしたり、あからさまでかわいいものだった。
けど、それだけに、お嬢さんの気持ちは子どもの初恋みてぇなものだろうとも思っていた。
初恋は、初雪のようなものだ。
あると思って手をのばし、自分の手につかんだと思った瞬間、溶けて消える。
だから本気にしないよう、自分に言い聞かせていた。
10歳も年下の、雇い主の娘に想いをよせるなんて、破滅への第一歩をみずから踏み出すようなもんだ。
みょうに熱心に自分を見てくるかわいい女の子にすこし気分がよくなっても、そのことを意識しないようにしていた。
実際、それは難しいことじゃなかった。
つい最近、万智子お嬢様が変わるまでは。
そして、あまりにも自分に都合のいい展開に混乱する頭を落ち着かせようと、深呼吸をする。
こんなに都合のいいことが、自分の人生におこるわけがない。
怜二はそれを自分に思い出させるために、これまでの自分の半生を思い返した。
俺がはじめて万智子お嬢様に会ったのは、17歳の時だ。
あの時は、いま思い出しても、人生最悪の時だった。
それまで最悪の時といえば、実家から以前の職場である元之元呉服店に奉公にだされて、あのクソ女と婚約させられた時だった。
まさかそれを上回る最悪な時があるとはな。
ほんとうに俺の人生はクソすぎると思わされた。
なにしろ結婚予定で7年もいっしょに暮らしていた女が、他の男の子を妊娠したとか言い出したのだ。
あげくに、以前の許嫁が店にいるのは夫がかわいそうだとか何とか言って、俺を追い出しやがった。
誰がかわいそうなんだか。
許嫁がいるのに、他の男をくわえこんだ下種女自身か?
それとも俺に敵愾心を抱いて、俺の許嫁を寝取った下種男か?
ま、それはいい。
あのクソ女はほんとにクソで、俺といると自分が不細工に思えて腹が立つとか言って、あの店で働き始めた10歳のころは、人目のないところでは俺を殴るの蹴るの、ひどいものだった。
さすがに俺の身長がにょきにょき伸びて、あの女の父親よりあたまひとつ大きくなったころには、手をあげることはなくなった。
だが、そのぶん店の使用人たちに無視させたり、妙な噂を流したり、くだらねぇ嫌がらせばっかりしていた。
言っちゃなんだが、俺はあの呉服店でもいちばん人気のある手代だったんだ。
店のためを思うなら、俺のことはもうちょっとまっとうに扱うべきだし、最低限、妙な噂をたててその価値を下げるようなことはするべきじゃなかった。
そんなことすりゃ、店の価値まで下げるようなもんだ。
その程度のことも思いつかない女だし、その程度のこともわきまえられないほど商売のことなんてどうでもいいと思っているような女だった。
あいつの頭にあるのは、いつだって、自分、自分、自分。
自分のことだけ。
容姿に恵まれなくて、かわいそうな自分。
大きな呉服屋のひとり娘にうまれて、父や母にあまやかして育てられている恵まれた自分。
ほしいものはなんでも手に入れたい。
わがままはなんでもかなえてほしい。
誰もに、ちやほやしてほしい。
ただし、綺麗になるための努力をするのもいや、人に好かれるために優しくふるまうのもいや、勉強やお稽古ごとに精をだすのもいや。
自分はなんにも苦労せず、ありのまま望み、ありのまま叶えられるべきだ。
だって、自分はかわいそうで、だけれど恵まれた娘なのだから。
そう、あの女はよくうそぶいていた。
……いま思い返しても、ほんとうにろくでもない女だな。
あんな女と結婚せずにすんで、寝取ってくれた男に感謝したくなったぞ。
あの男は男で下種だから、感謝なんてしねぇけど。
けど、あの店を追い出されたのは腹が立った。
いつか自分の店になると思えばこそ、あの女の嫌がらせにもくじけず、店をよくするためにいろいろ手をつくしたり、下の者の面倒みたりしてたが、それも無駄になった。
ま、俺のつくった土台にあぐらをかいていたあいつらは、数年でその財産を食いつぶし、いまじゃ元之元呉服店の評判はひどいもんだし、出来のいい丁稚はこっちに引き抜けた。
まだ店がつぶれるほどじゃねぇが、あの夫婦は喧嘩が絶えないそうだし、ふたりして愛人をこしらえているようだしで、勝手に不幸になっているのには笑えたが。
いや、あいつらのことは、いまはどうでもいい。
今は、万智子お嬢様のことだ。
万智子お嬢様が、俺のことを好き?
なるほど。
まぁ、それは気づいていた。
いつだってお嬢さんは、店に来ては俺の顔をじーっと見てたし、目があうと顔を赤らめたり、女の客に愛想をふりまいていたらそわそわしたり、あからさまでかわいいものだった。
けど、それだけに、お嬢さんの気持ちは子どもの初恋みてぇなものだろうとも思っていた。
初恋は、初雪のようなものだ。
あると思って手をのばし、自分の手につかんだと思った瞬間、溶けて消える。
だから本気にしないよう、自分に言い聞かせていた。
10歳も年下の、雇い主の娘に想いをよせるなんて、破滅への第一歩をみずから踏み出すようなもんだ。
みょうに熱心に自分を見てくるかわいい女の子にすこし気分がよくなっても、そのことを意識しないようにしていた。
実際、それは難しいことじゃなかった。
つい最近、万智子お嬢様が変わるまでは。
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