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番外編(高田の話)
「貴女を愛することはない」という年上の次期番頭に玉砕覚悟で告白したら、溺愛されています……? -11
そして、今日。
旦那様に呼び出された屋敷に、お嬢様だけがいて。
俺のことを覚悟が決まった目で見てきたとき、あぁ、この時がきたなと思った。
旦那様が、俺のことを目にかけてくれているのはわかっている。
お嬢様が、俺に想いを寄せているのも。
だから、いつかこんな日がくるかもしれないと、考えていた。
旦那様の口から出されるのか、お嬢様の口から出されるのかはわからなかったが、俺の意思を無視した、俺との結婚話が。
「とつぜん呼び出すなんて、なんの用事ですか?」
尋ねた声音は、だからひどく不機嫌だった。
だが万智子お嬢様は、顔を赤らめてもじもじとうつむく。
「どうしたんですか……?」
さっさと言えばいいだろう、と腹立たしく思う。
それが旦那様の意向なら、俺に断るなんて判断はできない。
それで不興を買ってここをくびになったら、この年齢の手代なんて、どこの店で雇ってもらえる?
いや、俺の腕なら雇われることはできるだろうが、足元を見られるのは確実だ。
そして悔しいが、俺も嫌というわけではないのだ。
少なくとも、このお嬢様は俺のことが好きなようだし、結婚すればこの大店の経営者側にまわれる。
してみたいこと、試してみたい案はいくらでもある。
経営者なら、それが簡単に叶えられる。
一度は、もうすぐ手に入れられると思って消えた夢が、手に入る。
欲しくないわけはない。
ただすこしばかり、悔しいだけだ。
どんなに努力しても、その夢を手に入れられるも失うも、女の機嫌ひとつだってことが。
だが、お嬢様はもじもじしたまま、なにも言わない。
どうしたんだ?
お前は、ただそれを口にしさせすれば、俺のことなんて好きに従えられる立場だろうに。
沈黙の長さに不思議を感じ、万智子お嬢様の顔をじっと見る。
憂いを帯びたまなざしをいろどるまつげが、存外に長いことに初めて気づいた。
かっと赤く染まる頬が、恥じらいに染まる耳たぶが、なんとも……。
からみあう視線に、息がとまりそうになる。
いつのまに。
いつのまに、お嬢様は、こんな娘らしい表情をするようになったのか。
真剣に誰かを乞うまなざし。
その先にいるのは、自分……?
馬鹿な。
もしそうだったとしても、それがなんだというのか。
相手は、経営者の娘という絶対的に強い立場で、自分を従えようとしているのだ。
それは感情の種類は違っても、以前の許嫁と変わらないはずだ。
いまは一時的な恋情によって俺を慕っているように見えても、その立場を使って、俺を支配しようとしていることに変わりはないはず……。
揺らぎそうになる気持ちを、以前の許嫁に受けた仕打ちを思い出すことで、抑えようとした。
けれど、お嬢様はふと心の決まった目をしたと思うと、言う。
「わたくしと結婚してくださいませんか。わたくし、あなたのことをお慕いしています。ぜったいに裏切ったりはいたしません。了承してくださるのなら、この店は貴方のものになります」
「は?」
万智子お嬢様の言葉は、予想以上に馬鹿正直だった。
最終的に、そのような話になるのだろうとは思っていたが、交渉の初手から「結婚」「店」の言葉が出るとは予想外だった。
「ずいぶんと急なお話ですね」
このお嬢様はもっと、夢見がちな少女ではなかったか。
なぜだか不快に思いつつ、そういうと、万智子お嬢様は傷ついたように目をふせた。
「お父様は、わたくしが怜二を慕っていることは、怜二も気づいているとおっしゃっていました」
「それは……」
まぁ、そうだが。
旦那様に呼び出された屋敷に、お嬢様だけがいて。
俺のことを覚悟が決まった目で見てきたとき、あぁ、この時がきたなと思った。
旦那様が、俺のことを目にかけてくれているのはわかっている。
お嬢様が、俺に想いを寄せているのも。
だから、いつかこんな日がくるかもしれないと、考えていた。
旦那様の口から出されるのか、お嬢様の口から出されるのかはわからなかったが、俺の意思を無視した、俺との結婚話が。
「とつぜん呼び出すなんて、なんの用事ですか?」
尋ねた声音は、だからひどく不機嫌だった。
だが万智子お嬢様は、顔を赤らめてもじもじとうつむく。
「どうしたんですか……?」
さっさと言えばいいだろう、と腹立たしく思う。
それが旦那様の意向なら、俺に断るなんて判断はできない。
それで不興を買ってここをくびになったら、この年齢の手代なんて、どこの店で雇ってもらえる?
いや、俺の腕なら雇われることはできるだろうが、足元を見られるのは確実だ。
そして悔しいが、俺も嫌というわけではないのだ。
少なくとも、このお嬢様は俺のことが好きなようだし、結婚すればこの大店の経営者側にまわれる。
してみたいこと、試してみたい案はいくらでもある。
経営者なら、それが簡単に叶えられる。
一度は、もうすぐ手に入れられると思って消えた夢が、手に入る。
欲しくないわけはない。
ただすこしばかり、悔しいだけだ。
どんなに努力しても、その夢を手に入れられるも失うも、女の機嫌ひとつだってことが。
だが、お嬢様はもじもじしたまま、なにも言わない。
どうしたんだ?
お前は、ただそれを口にしさせすれば、俺のことなんて好きに従えられる立場だろうに。
沈黙の長さに不思議を感じ、万智子お嬢様の顔をじっと見る。
憂いを帯びたまなざしをいろどるまつげが、存外に長いことに初めて気づいた。
かっと赤く染まる頬が、恥じらいに染まる耳たぶが、なんとも……。
からみあう視線に、息がとまりそうになる。
いつのまに。
いつのまに、お嬢様は、こんな娘らしい表情をするようになったのか。
真剣に誰かを乞うまなざし。
その先にいるのは、自分……?
馬鹿な。
もしそうだったとしても、それがなんだというのか。
相手は、経営者の娘という絶対的に強い立場で、自分を従えようとしているのだ。
それは感情の種類は違っても、以前の許嫁と変わらないはずだ。
いまは一時的な恋情によって俺を慕っているように見えても、その立場を使って、俺を支配しようとしていることに変わりはないはず……。
揺らぎそうになる気持ちを、以前の許嫁に受けた仕打ちを思い出すことで、抑えようとした。
けれど、お嬢様はふと心の決まった目をしたと思うと、言う。
「わたくしと結婚してくださいませんか。わたくし、あなたのことをお慕いしています。ぜったいに裏切ったりはいたしません。了承してくださるのなら、この店は貴方のものになります」
「は?」
万智子お嬢様の言葉は、予想以上に馬鹿正直だった。
最終的に、そのような話になるのだろうとは思っていたが、交渉の初手から「結婚」「店」の言葉が出るとは予想外だった。
「ずいぶんと急なお話ですね」
このお嬢様はもっと、夢見がちな少女ではなかったか。
なぜだか不快に思いつつ、そういうと、万智子お嬢様は傷ついたように目をふせた。
「お父様は、わたくしが怜二を慕っていることは、怜二も気づいているとおっしゃっていました」
「それは……」
まぁ、そうだが。
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完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。