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かくりよでのこと
失恋近衛たちのやけ酒女子会-1
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あやかしの統領・高雄様が帰還された。
このたびの不在は数日とはいえ、とつぜんの異界へのお渡りであった。
高雄様に限って御身の心配などないことはわかっていても、やはりお帰りになったお姿を拝見すると心安らかになる。
ご一緒に異界にお渡りになっていらした四天王様方や近衛たちもぜんいん無事の帰還であり、また異界にて虐げられていた我らが小さき同胞たちも、高雄様達に保護され、こちらへともに来られたという。
なんともめでたいことだ。
めでたいといえば、なにより、高雄様は、おかわいらしい花嫁を連れて帰られたとのこと。
高雄様は、その人間の花嫁をそれはそれは大切に、ご自身の住む宮へお連れになったという。
「なんとも、おめでたいことですわ」
「高雄様が花嫁さまをお迎えになられるなんて、これは大いに祝わなくてはなりませんわね」
話を聞いた人々は、官吏も、近衛も、侍女や侍従から庭師にいたるまで、みな統領の嫁とりを寿いだ。
……就業中は。
「うわあああああああああああああああああああああん! やってられるかぁっ!」
「高雄様が、高雄様がご結婚されるなんてぇええええっ」
「それも、お相手は子どもじゃない? しんっじられない! 高雄様ったら、少女趣味だったの?」
「あー、あの方、あれでも17歳らしいよ……。12歳くらいにしか見えないよね」
「17歳? ほんとに? あんなに小さくて、胸とかもぺたーんとされていたのに? 人間って、そういう生き物なの?」
「いや、ふつうの人間の外見はわたしたちとそう変わらないらしいよ。あの方が特別おさなく見えるだけじゃないかな」
「つまり、高雄様の趣味がそうってこと……」
「いやぁっ! わたくしの高雄様が少女趣味だなんて!」
「いや、17歳なら少女趣味ってほどでもなくない?」
「でも高雄様、24歳じゃない! わたくし、同じ年齢なのにぃ。大人の女も捨てたもんじゃないのにぃ……」
就業中は視線だけで「今日は朝までやけ酒だ!」と示し合わせた女子が8名、酒をもちより、侍女のひとりの部屋に集まって、就業後やけ酒女子会を開催していた。
集まったのは、近衛、侍女、官吏と立場はさまざまながら、全員10代後半から20代後半までの美女(自称)だ。
統領である高雄の近くに勤められるほどには有能で、それだけに全女子が憧れるといわれる統領・高雄への想いも本気度が高いものである。
本気で自分が高雄の妻となれるとは考えないにしても、付き合うくらいなら、逢引くらいなら、と夢みることはある。
執政宮ですれちがっては胸をときめかせ、目があった日は眠れない。
そんな日々を、何年もすごしてきたものもいた。
すこぶる美形で、すこぶる力の強い我らが統領は、けれどふだん顔をあわせれば、親しみやすい青年だ。
年上の女から見れば、火焔たちと笑いあう姿はいたずらっこのようにかわいらしく見える時もあり、年下の女子から見れば頼りになる優しいお兄さんのようでもある。
それでいてこうるさい元老たちさえも認める実力のある統領で。
高雄と同世代のかくりよの女で、高雄様にいちども恋をしたことがないあやかしのほうが稀少なほどだ。
しかも、これまでの高雄はほとんど女っけがなかった。
傍にいるのは、お母上と、祖母のような雪姫様、それに幼馴染でもある樹莉様くらい。
いっときはみな高雄様はいずれ樹莉様とご結婚なさるのではと思っていたのに、その樹莉様はあれよあれよといううちに湖苑様の幼くも熱心な求愛にほだされて、お付き合いをはじめられた。
これぞという女性を周囲から紹介されることは何度もあっても、これまではすべて会う前にお断りされており、その時の台詞はいつも「まだ仕事も慣れないから、女性のことなんて考えられないな」だった。
たしかに高雄様はまだ24歳。
お若いうちに統領の地位につかれたこともあり、強大なお力をお持ちとはいえ、お仕事に慣れられるにはお時間がかかっても仕方がない。
年齢的にも、まだご結婚を急がなくてはならないわけでもないこともあり、周囲も強くは言わないまま、これまで過ごされてきた。
「あー、こんなことなら、火焔さまとお付き合いなさっているっていう噂がほんとうのほうがマシだったかも」
ぐいっと強い酒を一気にあおり、とある女官がつぶやいた。
「あぁ、あれね。でも、火焔様は何人も女性の恋人がいらしたでしょう。高雄様とお付き合いなさっているわけないじゃない」
「でも火焔さまったら、すぐに恋人とお別れなさるし、その原因もだいたい高雄様らしいわよ。以前火焔さまとお付き合いしていた子に聞いたんですけど、火焔さまってばいつもいつも、高雄様と遊びにいくからとか、高雄様が遅くまでお仕事をされていて心配だから一緒にいてやらないととか言って、恋人とのおでかけを断られるんですって。それで別れたって聞いたわ」
「……それは、なんというか、あのおふたりらしいけれど。恋人としてはいやね」
「火焔さまも素敵な方なのに、いつも恋人にふられるとおっしゃっているのが不思議だったけど、それはふられるわよね……」
「でしょう? でも、いまはそれはいいの。高雄様のお相手が、婚約者候補として噂にあがっていた木蓮様のような完璧な女性なら、まだあきらめもつくわ。でも、高雄様がお選びになったのが、あんな幼いごくふつうの少女だなんて……」
このたびの不在は数日とはいえ、とつぜんの異界へのお渡りであった。
高雄様に限って御身の心配などないことはわかっていても、やはりお帰りになったお姿を拝見すると心安らかになる。
ご一緒に異界にお渡りになっていらした四天王様方や近衛たちもぜんいん無事の帰還であり、また異界にて虐げられていた我らが小さき同胞たちも、高雄様達に保護され、こちらへともに来られたという。
なんともめでたいことだ。
めでたいといえば、なにより、高雄様は、おかわいらしい花嫁を連れて帰られたとのこと。
高雄様は、その人間の花嫁をそれはそれは大切に、ご自身の住む宮へお連れになったという。
「なんとも、おめでたいことですわ」
「高雄様が花嫁さまをお迎えになられるなんて、これは大いに祝わなくてはなりませんわね」
話を聞いた人々は、官吏も、近衛も、侍女や侍従から庭師にいたるまで、みな統領の嫁とりを寿いだ。
……就業中は。
「うわあああああああああああああああああああああん! やってられるかぁっ!」
「高雄様が、高雄様がご結婚されるなんてぇええええっ」
「それも、お相手は子どもじゃない? しんっじられない! 高雄様ったら、少女趣味だったの?」
「あー、あの方、あれでも17歳らしいよ……。12歳くらいにしか見えないよね」
「17歳? ほんとに? あんなに小さくて、胸とかもぺたーんとされていたのに? 人間って、そういう生き物なの?」
「いや、ふつうの人間の外見はわたしたちとそう変わらないらしいよ。あの方が特別おさなく見えるだけじゃないかな」
「つまり、高雄様の趣味がそうってこと……」
「いやぁっ! わたくしの高雄様が少女趣味だなんて!」
「いや、17歳なら少女趣味ってほどでもなくない?」
「でも高雄様、24歳じゃない! わたくし、同じ年齢なのにぃ。大人の女も捨てたもんじゃないのにぃ……」
就業中は視線だけで「今日は朝までやけ酒だ!」と示し合わせた女子が8名、酒をもちより、侍女のひとりの部屋に集まって、就業後やけ酒女子会を開催していた。
集まったのは、近衛、侍女、官吏と立場はさまざまながら、全員10代後半から20代後半までの美女(自称)だ。
統領である高雄の近くに勤められるほどには有能で、それだけに全女子が憧れるといわれる統領・高雄への想いも本気度が高いものである。
本気で自分が高雄の妻となれるとは考えないにしても、付き合うくらいなら、逢引くらいなら、と夢みることはある。
執政宮ですれちがっては胸をときめかせ、目があった日は眠れない。
そんな日々を、何年もすごしてきたものもいた。
すこぶる美形で、すこぶる力の強い我らが統領は、けれどふだん顔をあわせれば、親しみやすい青年だ。
年上の女から見れば、火焔たちと笑いあう姿はいたずらっこのようにかわいらしく見える時もあり、年下の女子から見れば頼りになる優しいお兄さんのようでもある。
それでいてこうるさい元老たちさえも認める実力のある統領で。
高雄と同世代のかくりよの女で、高雄様にいちども恋をしたことがないあやかしのほうが稀少なほどだ。
しかも、これまでの高雄はほとんど女っけがなかった。
傍にいるのは、お母上と、祖母のような雪姫様、それに幼馴染でもある樹莉様くらい。
いっときはみな高雄様はいずれ樹莉様とご結婚なさるのではと思っていたのに、その樹莉様はあれよあれよといううちに湖苑様の幼くも熱心な求愛にほだされて、お付き合いをはじめられた。
これぞという女性を周囲から紹介されることは何度もあっても、これまではすべて会う前にお断りされており、その時の台詞はいつも「まだ仕事も慣れないから、女性のことなんて考えられないな」だった。
たしかに高雄様はまだ24歳。
お若いうちに統領の地位につかれたこともあり、強大なお力をお持ちとはいえ、お仕事に慣れられるにはお時間がかかっても仕方がない。
年齢的にも、まだご結婚を急がなくてはならないわけでもないこともあり、周囲も強くは言わないまま、これまで過ごされてきた。
「あー、こんなことなら、火焔さまとお付き合いなさっているっていう噂がほんとうのほうがマシだったかも」
ぐいっと強い酒を一気にあおり、とある女官がつぶやいた。
「あぁ、あれね。でも、火焔様は何人も女性の恋人がいらしたでしょう。高雄様とお付き合いなさっているわけないじゃない」
「でも火焔さまったら、すぐに恋人とお別れなさるし、その原因もだいたい高雄様らしいわよ。以前火焔さまとお付き合いしていた子に聞いたんですけど、火焔さまってばいつもいつも、高雄様と遊びにいくからとか、高雄様が遅くまでお仕事をされていて心配だから一緒にいてやらないととか言って、恋人とのおでかけを断られるんですって。それで別れたって聞いたわ」
「……それは、なんというか、あのおふたりらしいけれど。恋人としてはいやね」
「火焔さまも素敵な方なのに、いつも恋人にふられるとおっしゃっているのが不思議だったけど、それはふられるわよね……」
「でしょう? でも、いまはそれはいいの。高雄様のお相手が、婚約者候補として噂にあがっていた木蓮様のような完璧な女性なら、まだあきらめもつくわ。でも、高雄様がお選びになったのが、あんな幼いごくふつうの少女だなんて……」
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