虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

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かくりよでのこと

樹莉と湖苑が仲良しな話-1

 湖苑は、とうにならんで座った恋人の樹莉の髪をさらりと撫でた。
豊かな緑の髪はつややかで、さわるとなんともいえず手触りがよい。
それ以上に、その髪の持ち主が10年前に初めて出会った時から恋焦がれてやまない恋人のものだと思うと、触れるたびに愛おしさが増す。

「なぁに、ふふ」

 樹莉は、くすぐったそうに身をよじって笑う。
夜、ふたりきりの部屋で、恋人とぴたりと寄り添って触れているのに、樹莉の笑顔はどこまでも無垢に見える。

 かわいい。

 樹莉の笑顔を見るたび、湖苑はぜんしんがしびれるような愛おしさを感じて、なにも言えなくなってしまう。
もとより多言なほうではないが、湖苑が寡黙になりがちなのは、樹莉の傍にいると樹莉がかわいすぎて言葉を失ってしまうためだと思う。
 それほどまでに樹莉はかわいいのだ。
どうしてこんなにかわいいのか、湖苑にはいまだにわからない。
ただ、樹莉がかわいいこと、これだけが真理としてわかっているだけだ。

 七歳年上の樹莉は、初めて出会ったときにはすでに完成された美しさと匂い立つような色気をまとった少女だった。
そして25歳になったいま、その美しさと色気はいっそう増すばかり。

 けれど湖苑には、樹莉はいつだってかわいらしく、愛らしく見える。
その美しさ、色っぽさもわかってはいるが、ふとした表情の純粋なかわいらしさが、たまらなくいとおしい。

 引き寄せられるように、そのふっくらとした唇にくちづける。
続けて、小さな口づけを顔中にふらせると、樹莉は目元を赤く染めた。

「馬鹿……」

 すねたように言う様もかわいらしく、湖苑はむしろ促されたかのように、樹莉を抱きしめて口づけを重ねた。
それが深くなりそうな気配を感じたのか、樹莉は身をよじって湖苑の腕から逃げ、窓辺へと走る。

 湖苑が追いかけると、またするりと身をかわして、樹莉はじっとりと湖苑をにらんだ。

「だめよ。ここは内宮なんだから。あまり親密なふるまいをするのは、だめ」

「べつにかまわないだろう。高雄様は気になさらない」

「そういう問題じゃないの……!」

 ぷいっと樹莉が顔をそむける。
その顔が本気で怒っているようだったので、湖苑はなっとくできないながらも、これ以上の親密なふるまいはしないと約束してしまった。

(どうせ高雄様も、同じようなことをあの少女にしているに違いないのに……)

 それでも、湖苑の約束を信じて、樹莉が自分の腕の中に戻ってきてくれると、まぁいいか、と思ってしまう。

 水龍の父の影響か、湖苑の容姿は性欲などない淡泊な男に見えるらしい。
実際には、湖苑は18歳というお年頃の一般的な男性なみの欲望は持っているので、はげしい愛情を抱いている恋人を抱きしめて手出ししないというのは、なかなかに自制心をためされるのだが。
なんでもないような顔で我慢できるのは、恋人への愛情ゆえだ。

 それをわかってほしいと思いつつ、なにも気づかず樹莉は樹莉の心のままにふるまってほしいとも思う。
いちばんいいのは、樹莉がもっと湖苑へ欲情してくれることなのだが、少女小説を愛好する樹莉は、そのような気配をちらりとも見せない。

 いまも湖苑の腕に抱かれ、とうに座って、つんつんと湖苑の二の腕をつつきながら、安心しきったようにもたれかかり、

「初音様、お部屋でご不自由なく過ごされているかしら」

 などという。

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