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番外編(上村の話)
「結婚しようかな」とつぶやいたところ、幼馴染に求婚されました。ずっと溺愛されてたなんて知りませんっ……!-4
圭司の兄たちにも挨拶をしたところで、お茶が運ばれて来た。
男ばかり6人の中に、上村ひとり女性というのは、知らない人間の集まりであれば気づまりだろう。
けれど、身内と、身内同然の幼馴染ばかりなので、上村は特に気を遣うでもなく、のんびりとお茶を飲む。
ここ最近はそれぞれが忙しく、6人全員が集まるのは、久々だった。
ひととおりの近況を話すだけでも、あちらこちらに話がとび、ささいなことで大きな笑い声をあがる。
珍しく声をあげて笑っていた肇が、お茶をひとくち飲んで「そういえば」と思い出したかのように言った。
「千鶴。このお茶は、修司たちの土産なんだよ。ダージリンのファーストフラッシュだ。さわやかな香りだろう?」
「ええ、とても。修司様、誠司様、素敵なお土産をありがとうございます。春摘みのダージリンなんて、まだ出始めたころでしょう? わたくし、はじめていただきました。貴重なものですのに、ありがとうございます」
言い出すのが遅いと肇をすこし睨んで、千鶴は圭司の兄たちに丁寧に御礼を言う。
肇が教えてくれるのが遅かったので、貴重なお土産の大半をあっさりといただいてしまった。
他のみんながミルクもお砂糖もいれず飲んでいたので、それにならってストレートでいただいていてよかったと、こっそりと胸をなでおろし、カップにふたたび口をつけた。
ダージリン自体は珍しい紅茶ではないが、ファーストフラッシュは3月から4月に収穫されるもので、そんなに多く出回るものではない。
ほとんどが地元の王族か西の大陸の貴族の手に渡り、この国に入荷されることすら稀なことだった。
千鶴は知識としては知っていたが、もちろん飲むのは初めてだった。
味わいは普通の紅茶よりもあっさりしていて、どこか緑茶にも似ている。
あらためて、自分のカップを見つめて、ひとくち飲む。
「美味しいですわ」
しみじみと言えば、修司は笑って応える。
「あぁ。渋みがなくて、新鮮な感じがするだろう? 新茶らしく、飲みやすい。仕事で西の大陸へ行っていたんだけど、帰り道ですこしだけ手に入ったんだ。で、これはぜひ上村家へもっていって、みんなで飲みたいと思ったんだよ」
「まぁ。ありがとうございます。修司お兄様のお心づかいのぶん、ありがたさが増しましたわ」
「なんの。我らがお姫様に喜んでもらえたら光栄です。……ま、わが国ではまだ紅茶でさえ新しい文化だ。その中でも珍しいものをと望まれる方はいらっしゃるけど、そういった方々にこちらをお渡ししても、緑茶に似ていると言われて喜んではいただけない気がしてね。商売にはなりにくいものだけど、珍しいものだから、勉強になるだろう?」
「そうだな。味わいとしては、むしろ一般的に出回っているセカンドフラッシュよりも馴染みやすくて受け入れられそうだが、稀少なものならば初心者向けに売り出すわけにもいかないか。だが、うまいな。めずらかなものだから勉強にもなるが、俺は好きだな」
「俺は、紅茶としてはふだんのダージリンのほうが好きだな。こっちも味は好きだけど、紅茶を飲んでるって気がしない」
兄たちが紅茶の話に盛り上がっているのを聞きながら、上村はもうひとくちお茶を飲む。
そして、目の前に座って、上村をにこにこと眺めている圭司を見た。
「圭司さんは、こちらのお茶のこと、どう思われまして?」
「うん……。美味しいよ」
圭司は、くしゃりと顔を笑みくずして、上村の問いに答えた。
圭司は、子どものころから、いつもこうだった。
上村が話しかければ、嬉しくてたまらないという顔をする。
紅茶の味だって、ほんとうにわかっているのかすら怪しい。
上村が問いかけたから、適当にいい返事をしているだけという可能性のほうが高そうだ。
上村は、落ち着かない心地で、カップを置く。
わかっている。
圭司は、以前のままだ。
なのにそわそわしてしまうのは、圭司が大人っぽく、素敵な男性のような外見になったからだ。
上村は圭司の言葉をこれまでのよう、にかわいい子分が自分を慕っているだけだ、とは思えない。
圭司は、兄たちがの会話など耳に入ってもいなさそうだ。
ただただ、上村ばかりを見ていて、にこにこと笑っている。
その視線にさらされて、上村の心は、くすぐったくて、そわそわしてしまう。
そしてなんだか照れくさくなって、そっと目をふせた。
男ばかり6人の中に、上村ひとり女性というのは、知らない人間の集まりであれば気づまりだろう。
けれど、身内と、身内同然の幼馴染ばかりなので、上村は特に気を遣うでもなく、のんびりとお茶を飲む。
ここ最近はそれぞれが忙しく、6人全員が集まるのは、久々だった。
ひととおりの近況を話すだけでも、あちらこちらに話がとび、ささいなことで大きな笑い声をあがる。
珍しく声をあげて笑っていた肇が、お茶をひとくち飲んで「そういえば」と思い出したかのように言った。
「千鶴。このお茶は、修司たちの土産なんだよ。ダージリンのファーストフラッシュだ。さわやかな香りだろう?」
「ええ、とても。修司様、誠司様、素敵なお土産をありがとうございます。春摘みのダージリンなんて、まだ出始めたころでしょう? わたくし、はじめていただきました。貴重なものですのに、ありがとうございます」
言い出すのが遅いと肇をすこし睨んで、千鶴は圭司の兄たちに丁寧に御礼を言う。
肇が教えてくれるのが遅かったので、貴重なお土産の大半をあっさりといただいてしまった。
他のみんながミルクもお砂糖もいれず飲んでいたので、それにならってストレートでいただいていてよかったと、こっそりと胸をなでおろし、カップにふたたび口をつけた。
ダージリン自体は珍しい紅茶ではないが、ファーストフラッシュは3月から4月に収穫されるもので、そんなに多く出回るものではない。
ほとんどが地元の王族か西の大陸の貴族の手に渡り、この国に入荷されることすら稀なことだった。
千鶴は知識としては知っていたが、もちろん飲むのは初めてだった。
味わいは普通の紅茶よりもあっさりしていて、どこか緑茶にも似ている。
あらためて、自分のカップを見つめて、ひとくち飲む。
「美味しいですわ」
しみじみと言えば、修司は笑って応える。
「あぁ。渋みがなくて、新鮮な感じがするだろう? 新茶らしく、飲みやすい。仕事で西の大陸へ行っていたんだけど、帰り道ですこしだけ手に入ったんだ。で、これはぜひ上村家へもっていって、みんなで飲みたいと思ったんだよ」
「まぁ。ありがとうございます。修司お兄様のお心づかいのぶん、ありがたさが増しましたわ」
「なんの。我らがお姫様に喜んでもらえたら光栄です。……ま、わが国ではまだ紅茶でさえ新しい文化だ。その中でも珍しいものをと望まれる方はいらっしゃるけど、そういった方々にこちらをお渡ししても、緑茶に似ていると言われて喜んではいただけない気がしてね。商売にはなりにくいものだけど、珍しいものだから、勉強になるだろう?」
「そうだな。味わいとしては、むしろ一般的に出回っているセカンドフラッシュよりも馴染みやすくて受け入れられそうだが、稀少なものならば初心者向けに売り出すわけにもいかないか。だが、うまいな。めずらかなものだから勉強にもなるが、俺は好きだな」
「俺は、紅茶としてはふだんのダージリンのほうが好きだな。こっちも味は好きだけど、紅茶を飲んでるって気がしない」
兄たちが紅茶の話に盛り上がっているのを聞きながら、上村はもうひとくちお茶を飲む。
そして、目の前に座って、上村をにこにこと眺めている圭司を見た。
「圭司さんは、こちらのお茶のこと、どう思われまして?」
「うん……。美味しいよ」
圭司は、くしゃりと顔を笑みくずして、上村の問いに答えた。
圭司は、子どものころから、いつもこうだった。
上村が話しかければ、嬉しくてたまらないという顔をする。
紅茶の味だって、ほんとうにわかっているのかすら怪しい。
上村が問いかけたから、適当にいい返事をしているだけという可能性のほうが高そうだ。
上村は、落ち着かない心地で、カップを置く。
わかっている。
圭司は、以前のままだ。
なのにそわそわしてしまうのは、圭司が大人っぽく、素敵な男性のような外見になったからだ。
上村は圭司の言葉をこれまでのよう、にかわいい子分が自分を慕っているだけだ、とは思えない。
圭司は、兄たちがの会話など耳に入ってもいなさそうだ。
ただただ、上村ばかりを見ていて、にこにこと笑っている。
その視線にさらされて、上村の心は、くすぐったくて、そわそわしてしまう。
そしてなんだか照れくさくなって、そっと目をふせた。
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