85 / 110
番外編(上村の話)
「結婚しようかな」とつぶやいたところ、幼馴染に求婚されました。ずっと溺愛されてたなんて知りませんっ……!-10
圭司は、真っ赤な顔で、上村に「お嫁さんになってください」と言う。
ものすごくはやくちで、すこし咬みながらの言葉だった。
上村がいままで見てきたお芝居の中で、求婚の場面はとても浪漫的で、男性はいつも格好良く女性に求婚していた。
圭司の求婚は、お芝居と比べる間でもなく、とても格好よいとはいえず、浪漫的でもない。
けれど、圭司が上村をほんとうに望んでいるのだということは、とてもよく伝わってきた。
きゅっと、上村は胸元で手を握りしめた。
お芝居を見て夢見たような求婚ではない。
けれど、どんなお芝居よりも、圭司の言葉こそが、上村の心をときめかせた。
「け……いじさ、ん……」
圭司に返事をしようとして、上村は自分の声がかすれていることにきづき、こほんと咳ばらいをする。
顔が、熱い。
声も、うまくでない。
心臓が、早鐘のように打っている音が、全身に響き渡るようだ。
手にはじんわりと汗がにじむ。
でも、それは、たぶん、目の前の圭司も同じだろうことは、圭司の真っ赤な顔や、つぎつぎに流れる汗を見れば、一目瞭然だ。
だけど、その格好良いとは言えないはずの圭司の姿が、今まで見た圭司の中でいちばん格好良く見えた。
だから、上村は、自分も気取った言葉や態度をとることなく、ただ自分の心の中に生まれた気持ちを、ていねいに圭司に伝えたいと思う。
「わたくしは、圭司さんのことを、将来の夫として考えたことは、今日までございませんでした。家族のように慕わしく思ってはおりましたが、圭司さんが伝えてくださったような恋情はございません。それに、二年もお会いしていなかった圭司さんに、いまのわたくしも好きだと言われても、どこまで信用してよいのか悩ましく感じます」
「う、ん……」
圭司の表情に、絶望の色がうかぶ。
上村は、あわてて続きを口にした。
「ですが! 圭司さんの気持ちは、嬉しかったです。お応えしたいです……! もちろん、父の了承は必要でしょうが、わたくしからも、圭司さんに嫁ぐことがわたくしの望みなのだと伝えます」
「……っ」
「わたくしを幸せにするためなら、なんでもしてくださるのでしょう? わたくし、結婚してもお芝居が見に行きたいですわ。家にも時々は帰りたいですし、素敵なお洋服やお着物もたくさんほしいです。ほかにもたくさん、お願いはあるのですれけど、それを聞いても、ほんとうにわたくしを妻にしたいとお思いですか?」
上村は、なんだか楽しくなってきた。
まるで、自分がお芝居に登場する絶世の美女のようなことを言っている。
兄たちは完全に呆れ顔だ。
けれど、こんなことを言っても、圭司は受け入れるだろうという確信を、上村は持っていた。
そして、その確信は、もちろんあたっていた。
圭司は、上村の言葉を何度も咀嚼して実感すると、顔を喜色に染め上げて、飛び上がって歓声をあげた。
「もちろん! 千鶴ちゃんと結婚したい! 千鶴ちゃんの望みは、なんでも僕がかなえてあげる! そのくらいお安い御用だし、ほかにもたくさんお願いをしてほしい。僕以外の他の誰も、千鶴ちゃんの望みをかなえられないほどたくさんのお願いを言ってくれたら、他の男に千鶴ちゃんをとられる心配をしなくてすむじゃないか!」
圭司は、目をきらきらと輝かせて大喜びした。
上村は、わがままをいわれて喜ぶなんて、圭司はどれほど上村のことを好きなのかとあきれながら、また胸がときめくのを感じた。
男性に愛されるというのが、こんなにも幸せな気持ちになることだと、上村も知らなかった。
家族や友人たちからも愛されているし、それも、とても幸せな気持ちを与えてくれる。
けれど、圭司から与えられる愛は、また別の、胸がくすぐったくなるような、幸福だった。
上村は、はずむ気持ちのまま、言葉を続ける。
「……では、もっとわたくしに会いにきてください。それが無理なら、お手紙をください。たくさん会って、お話をして、いまのわたくしをもっと知って、もっと愛してください。そして、いっしょに未来のことを考えましょう」
「未来……」
「ええ。圭司さんと結婚したら、わたくしは圭司さんといっしょに暮らすのでしょう? どんなお仕事をなさいたいか、外国へ行くのかなど、気になることはたくさんございますもの」
「いっしょに、暮らす……」
上村の言葉を、ぼうぜんと繰り返して、圭司はおおきな深呼吸をした。
そして、おもむろに上村の足元にひざまづき、手を取った。
「必ず、幸せにします」
そう告げた圭司の顔は、先ほどまでの醜態が嘘のように凛々しく、決意に満ち溢れていた。
上村は、いまだって幸せだ。
圭司に幸せにしてもらわなくても、たくさんの人とともに、幸せな生活をつくっている。
けれど、それはそれとして、こんなふうに言ってもらえるのは、嬉しかった。
まるで自分がお姫様にでもなったようだ。
だから上村は、とびきり綺麗にほほ笑んで、圭司に言った。
「嬉しいわ」
すると圭司は、また泣き出してしまった。
凛々しかったのは、つかの間だけだった。
けれど、上村は、そんな圭司を見て、嬉しくなる。
上村だって、圭司のことを幸せにしたい、そう思うから。
まずは、父に報告をしよう、と上村は思った。
ものすごくはやくちで、すこし咬みながらの言葉だった。
上村がいままで見てきたお芝居の中で、求婚の場面はとても浪漫的で、男性はいつも格好良く女性に求婚していた。
圭司の求婚は、お芝居と比べる間でもなく、とても格好よいとはいえず、浪漫的でもない。
けれど、圭司が上村をほんとうに望んでいるのだということは、とてもよく伝わってきた。
きゅっと、上村は胸元で手を握りしめた。
お芝居を見て夢見たような求婚ではない。
けれど、どんなお芝居よりも、圭司の言葉こそが、上村の心をときめかせた。
「け……いじさ、ん……」
圭司に返事をしようとして、上村は自分の声がかすれていることにきづき、こほんと咳ばらいをする。
顔が、熱い。
声も、うまくでない。
心臓が、早鐘のように打っている音が、全身に響き渡るようだ。
手にはじんわりと汗がにじむ。
でも、それは、たぶん、目の前の圭司も同じだろうことは、圭司の真っ赤な顔や、つぎつぎに流れる汗を見れば、一目瞭然だ。
だけど、その格好良いとは言えないはずの圭司の姿が、今まで見た圭司の中でいちばん格好良く見えた。
だから、上村は、自分も気取った言葉や態度をとることなく、ただ自分の心の中に生まれた気持ちを、ていねいに圭司に伝えたいと思う。
「わたくしは、圭司さんのことを、将来の夫として考えたことは、今日までございませんでした。家族のように慕わしく思ってはおりましたが、圭司さんが伝えてくださったような恋情はございません。それに、二年もお会いしていなかった圭司さんに、いまのわたくしも好きだと言われても、どこまで信用してよいのか悩ましく感じます」
「う、ん……」
圭司の表情に、絶望の色がうかぶ。
上村は、あわてて続きを口にした。
「ですが! 圭司さんの気持ちは、嬉しかったです。お応えしたいです……! もちろん、父の了承は必要でしょうが、わたくしからも、圭司さんに嫁ぐことがわたくしの望みなのだと伝えます」
「……っ」
「わたくしを幸せにするためなら、なんでもしてくださるのでしょう? わたくし、結婚してもお芝居が見に行きたいですわ。家にも時々は帰りたいですし、素敵なお洋服やお着物もたくさんほしいです。ほかにもたくさん、お願いはあるのですれけど、それを聞いても、ほんとうにわたくしを妻にしたいとお思いですか?」
上村は、なんだか楽しくなってきた。
まるで、自分がお芝居に登場する絶世の美女のようなことを言っている。
兄たちは完全に呆れ顔だ。
けれど、こんなことを言っても、圭司は受け入れるだろうという確信を、上村は持っていた。
そして、その確信は、もちろんあたっていた。
圭司は、上村の言葉を何度も咀嚼して実感すると、顔を喜色に染め上げて、飛び上がって歓声をあげた。
「もちろん! 千鶴ちゃんと結婚したい! 千鶴ちゃんの望みは、なんでも僕がかなえてあげる! そのくらいお安い御用だし、ほかにもたくさんお願いをしてほしい。僕以外の他の誰も、千鶴ちゃんの望みをかなえられないほどたくさんのお願いを言ってくれたら、他の男に千鶴ちゃんをとられる心配をしなくてすむじゃないか!」
圭司は、目をきらきらと輝かせて大喜びした。
上村は、わがままをいわれて喜ぶなんて、圭司はどれほど上村のことを好きなのかとあきれながら、また胸がときめくのを感じた。
男性に愛されるというのが、こんなにも幸せな気持ちになることだと、上村も知らなかった。
家族や友人たちからも愛されているし、それも、とても幸せな気持ちを与えてくれる。
けれど、圭司から与えられる愛は、また別の、胸がくすぐったくなるような、幸福だった。
上村は、はずむ気持ちのまま、言葉を続ける。
「……では、もっとわたくしに会いにきてください。それが無理なら、お手紙をください。たくさん会って、お話をして、いまのわたくしをもっと知って、もっと愛してください。そして、いっしょに未来のことを考えましょう」
「未来……」
「ええ。圭司さんと結婚したら、わたくしは圭司さんといっしょに暮らすのでしょう? どんなお仕事をなさいたいか、外国へ行くのかなど、気になることはたくさんございますもの」
「いっしょに、暮らす……」
上村の言葉を、ぼうぜんと繰り返して、圭司はおおきな深呼吸をした。
そして、おもむろに上村の足元にひざまづき、手を取った。
「必ず、幸せにします」
そう告げた圭司の顔は、先ほどまでの醜態が嘘のように凛々しく、決意に満ち溢れていた。
上村は、いまだって幸せだ。
圭司に幸せにしてもらわなくても、たくさんの人とともに、幸せな生活をつくっている。
けれど、それはそれとして、こんなふうに言ってもらえるのは、嬉しかった。
まるで自分がお姫様にでもなったようだ。
だから上村は、とびきり綺麗にほほ笑んで、圭司に言った。
「嬉しいわ」
すると圭司は、また泣き出してしまった。
凛々しかったのは、つかの間だけだった。
けれど、上村は、そんな圭司を見て、嬉しくなる。
上村だって、圭司のことを幸せにしたい、そう思うから。
まずは、父に報告をしよう、と上村は思った。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。