虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

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番外編(上村の話)

「結婚しようかな」とつぶやいたところ、幼馴染に求婚されました。ずっと溺愛されてたなんて知りませんっ……!-10

 圭司は、真っ赤な顔で、上村に「お嫁さんになってください」と言う。
ものすごくはやくちで、すこし咬みながらの言葉だった。
 上村がいままで見てきたお芝居の中で、求婚の場面はとても浪漫的で、男性はいつも格好良く女性に求婚していた。

 圭司の求婚は、お芝居と比べる間でもなく、とても格好よいとはいえず、浪漫的でもない。
けれど、圭司が上村をほんとうに望んでいるのだということは、とてもよく伝わってきた。

 きゅっと、上村は胸元で手を握りしめた。
お芝居を見て夢見たような求婚ではない。
けれど、どんなお芝居よりも、圭司の言葉こそが、上村の心をときめかせた。

「け……いじさ、ん……」

 圭司に返事をしようとして、上村は自分の声がかすれていることにきづき、こほんと咳ばらいをする。
顔が、熱い。
声も、うまくでない。
心臓が、早鐘のように打っている音が、全身に響き渡るようだ。
手にはじんわりと汗がにじむ。

 でも、それは、たぶん、目の前の圭司も同じだろうことは、圭司の真っ赤な顔や、つぎつぎに流れる汗を見れば、一目瞭然だ。

 だけど、その格好良いとは言えないはずの圭司の姿が、今まで見た圭司の中でいちばん格好良く見えた。
だから、上村は、自分も気取った言葉や態度をとることなく、ただ自分の心の中に生まれた気持ちを、ていねいに圭司に伝えたいと思う。

「わたくしは、圭司さんのことを、将来の夫として考えたことは、今日までございませんでした。家族のように慕わしく思ってはおりましたが、圭司さんが伝えてくださったような恋情はございません。それに、二年もお会いしていなかった圭司さんに、いまのわたくしも好きだと言われても、どこまで信用してよいのか悩ましく感じます」

「う、ん……」

 圭司の表情に、絶望の色がうかぶ。
上村は、あわてて続きを口にした。

「ですが! 圭司さんの気持ちは、嬉しかったです。お応えしたいです……! もちろん、父の了承は必要でしょうが、わたくしからも、圭司さんに嫁ぐことがわたくしの望みなのだと伝えます」

「……っ」

「わたくしを幸せにするためなら、なんでもしてくださるのでしょう? わたくし、結婚してもお芝居が見に行きたいですわ。家にも時々は帰りたいですし、素敵なお洋服やお着物もたくさんほしいです。ほかにもたくさん、お願いはあるのですれけど、それを聞いても、ほんとうにわたくしを妻にしたいとお思いですか?」

 上村は、なんだか楽しくなってきた。
まるで、自分がお芝居に登場する絶世の美女のようなことを言っている。
兄たちは完全に呆れ顔だ。
 けれど、こんなことを言っても、圭司は受け入れるだろうという確信を、上村は持っていた。

 そして、その確信は、もちろんあたっていた。
圭司は、上村の言葉を何度も咀嚼して実感すると、顔を喜色に染め上げて、飛び上がって歓声をあげた。

「もちろん! 千鶴ちゃんと結婚したい! 千鶴ちゃんの望みは、なんでも僕がかなえてあげる! そのくらいお安い御用だし、ほかにもたくさんお願いをしてほしい。僕以外の他の誰も、千鶴ちゃんの望みをかなえられないほどたくさんのお願いを言ってくれたら、他の男に千鶴ちゃんをとられる心配をしなくてすむじゃないか!」

 圭司は、目をきらきらと輝かせて大喜びした。
上村は、わがままをいわれて喜ぶなんて、圭司はどれほど上村のことを好きなのかとあきれながら、また胸がときめくのを感じた。

 男性に愛されるというのが、こんなにも幸せな気持ちになることだと、上村も知らなかった。
家族や友人たちからも愛されているし、それも、とても幸せな気持ちを与えてくれる。
けれど、圭司から与えられる愛は、また別の、胸がくすぐったくなるような、幸福だった。

 上村は、はずむ気持ちのまま、言葉を続ける。

「……では、もっとわたくしに会いにきてください。それが無理なら、お手紙をください。たくさん会って、お話をして、いまのわたくしをもっと知って、もっと愛してください。そして、いっしょに未来のことを考えましょう」

「未来……」

「ええ。圭司さんと結婚したら、わたくしは圭司さんといっしょに暮らすのでしょう? どんなお仕事をなさいたいか、外国へ行くのかなど、気になることはたくさんございますもの」

「いっしょに、暮らす……」

 上村の言葉を、ぼうぜんと繰り返して、圭司はおおきな深呼吸をした。
そして、おもむろに上村の足元にひざまづき、手を取った。

「必ず、幸せにします」

 そう告げた圭司の顔は、先ほどまでの醜態が嘘のように凛々しく、決意に満ち溢れていた。
 
 上村は、いまだって幸せだ。
圭司に幸せにしてもらわなくても、たくさんの人とともに、幸せな生活をつくっている。
 けれど、それはそれとして、こんなふうに言ってもらえるのは、嬉しかった。
まるで自分がお姫様にでもなったようだ。

 だから上村は、とびきり綺麗にほほ笑んで、圭司に言った。

「嬉しいわ」

 すると圭司は、また泣き出してしまった。
凛々しかったのは、つかの間だけだった。

 けれど、上村は、そんな圭司を見て、嬉しくなる。
上村だって、圭司のことを幸せにしたい、そう思うから。

 まずは、父に報告をしよう、と上村は思った。


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