虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

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2巻

2-2

 四人の側近たちの期待のこもった表情を見て、高雄は迷いを捨てるように大きく息を吐いた。そして初音の顔を覗きこみ、そっと頰を指で撫でる。

「初音。急なことだが、皆に紹介してもよいだろうか。そなたが俺の婚約者で、誰よりも愛しい女性だと」

 真剣なまなざしで見つめられて、初音の胸は高鳴った。
 すぐに言葉を返せなかった初音に懇願するように、高雄が続ける。

「かくりよの者たちに初音を紹介するのは、初音がこの世界に馴染んでからにするつもりだった。だがここから俺が出るまで、集まった者たちは動かぬだろう。先に俺が出て、彼らを別の場所に誘導してもよいが、集まったあやかしたちすべてが俺に好意的な者ばかりとは言い切れぬ。ここにそなたを残していくのも不安だし、初音を隠さねばならない者のようにこそこそと連れ出すのも嫌だ。俺の我儘わがままで申し訳ないが、俺はそなたを永遠に離す気はない。そうみなに宣言させてくれないか」

 真剣な顔で高雄に問われて、初音の体は緊張でこわばった。
 扉の向こうからは、多くの声がする。大勢の前に出るのは、苦手だ。けれど初音のことを隠したくないと言ってくれた高雄の気持ちに応えたかった。
 高雄が初音を永遠に離すつもりはないと言ってくれたように、初音だって高雄のそばから離れるつもりはない。どうせいつかは、かくりよのあやかしたちにも顔を見せて挨拶しなくてはいけないだろう。それが早いか遅いかだけの違いだ。

「お願いします、高雄様。高雄様の婚約者として、皆様みなさまにご挨拶させてください」

 覚悟を決めて初音が言うと、高雄は感極まったように初音の両手を引き、抱き寄せた。
 火焔は面白がるような笑みを消し、感心したように初音を見る。樹莉は「きゃぁっ」と歓声を上げた。

「さすがですわ、初音様。お心を決めるのがお早い。尊敬いたしますわ」

 美しい頰を薄桃色に染めて樹莉が手を叩くと、樹莉の隣に立つ湖苑はいつも通り無表情のまま、同意を示すようにこくりとうなずいた。

「さっそく初音様のお披露目というわけじゃな。わくわくするのぅ」

 雪姫は、両手をぐっと胸の前で握り締める。それから、初音へと目を向けて、穏やかに笑った。

「いろいろな人間がおるように、あやかしもいろいろおる。じゃが、なにがあっても、我は全面的に初音様にお味方すると約束しよう」
「わたくしも、なにがあっても、誰がなんと言おうとも、初音様のお味方をすると誓いますわ」

 雪姫に続いて、樹莉も言う。その口調の真剣さに、初音は戸惑とまどいを感じた。
 けれど初音がそれに考えを巡らせる前に、高雄が初音の顔を覗き込んで、言う。

「もちろん、言うまでもないことだが、俺も初音の味方だ。……俺が愛し、重んずるのは、永遠に初音だけだ。そのことを、これからみなにも聞いてもらおう」

 高雄はそう言っていとおしげに目を細めると、初音の額に口づけた。
 かっと顔が熱くなって、初音は両手で顔をおおった。
 すると高雄はさっと初音を抱き上げて、先ほどと同じように横抱きにする。初音は慌てて高雄の胸元をつかみ、「下ろしてください」と言った。
 だが高雄はもう一度初音の額に口づけると、「それはできぬ」と微笑み、まっすぐ前を見据えた。

「行くぞ」

 高雄が言うと、火焔が扉の前に立ち、雪姫と樹莉がそれに続く。扉の向こうの歓声はやむどころか、どんどん大きくなっていた。
 初音は、ふるりと身を震わせた。
 それに気づいたのか、高雄の腕にぎゅっと力がこもる。その力強さとあたたかさは初音の心を力づけてくれるようだった。
 どうやら高雄は、初音を下ろしてくれる気はないようだ。かくりよでは、これも普通のことなのだろうか。それならば、初音も受け入れるべきだろうか。
 初音は覚悟を決めて高雄に抱きかかえられたまま、高雄と同じように前を向く。
 火焔は小さくうなずくと、正面の木の扉を開いた。

みなの者、静まれ! 統領、高雄様のご帰還である!」

 重厚な、けれど狭い間口の木の扉が開き、火焔が外へ出る。すると一瞬の静寂ののち、さらに大きな歓声が沸き上がった。

「やれやれ。静まれと火焔が言うておるのにのう」
「仕方ありませんわ。かくりよに住むものならば、統領の不在に不安を覚えずにはいられませんもの。それに、高雄様は皆に愛されていますから。無事の帰還を祝わずにはいられないのでしょう」

 ふふっと樹莉は笑い、雪姫とともに部屋を出た。また大きな歓声が沸く。

「さて、次は俺たちの番だ。初音」
「はい……!」

 やはり抱きかかえられたまま、この扉の間を出るらしい。部屋の外から響く歓声に声をうわずらせて初音がうなずくと、高雄は初音に笑いかけて大股で扉へと向かった。

「行こう」

 高雄は、開け放たれた木の扉をくぐる。その後に湖苑と、近衛たちが小鬼たちを誘導しながら続いた。
 最後の小鬼が扉をくぐると、木の扉は閉じた。
 その音を背中で聞いた初音は、覚悟を決めて伏せていた顔を上げ、歓声のほうへ目を向けた。
 扉の外は、広い廊下が続いていた。廊下は扉の間と同じような白い漆喰しっくいで塗りこめられて左右の視界をさえぎっているが、廊下の向こうには大勢の人が集まる殿舎が見えた。
 高雄はこの城をうつしよの御所に似せて作られたと言っていたが、朱の柱のせいか、初音の目には大きな神宮のように映った。けれど大きな殿舎には、あやかしたちがひしめいている。
 初音が彼らの姿を目にした時、集まったあやかしたちも高雄が現れたことに気づいた。
 いちだんと大きな、体に響くような大歓声が起きる。その場に集まっているあやかしは、年齢も、性別もさまざまで、人とは異なる見た目のものもいた。白いひげを蓄えた年配の男性も、色鮮やかな衣をまとった鱗のある年若い女性も、そろいの黒い衣に身を包んだ壮年の男女も、兵らしき人もいた。
 ただひとつ共通しているのは、その喜びに満ちた視線が、一心に高雄へ注がれているということだけだ。

「お帰りなさいませ、高雄様!」
「ご帰還をお待ちしておりました、統領!」

 口々に上がる喜びの声に、初音の胸は締めつけられるようだった。

(高雄様は、こんなにも多くの者に慕われているんだ……)

 高雄があやかしの統領であることは、知っていた。
 初音にとって強者の象徴であった父や校長先生だけでなく、政府の要職に就く者や皇族ですら、彼を自分たちよりずっと上位の者として扱っているのも目の当たりにしていた。
 だから高雄の立場はわかっていたはずなのに、このかくりよで多くのあやかしが彼の帰還に目を輝かせているのを見て、改めて自分に求婚してくれた高雄の立場を思い知らされた気がした。
 初音は、高雄の隣で、彼を愛し、愛されて生きると決めて、ここに来た。
 けれど、ここに集まった彼らは、高雄の隣に立つ者として、初音を認めてくれるだろうか。
 高雄はゆったりと廊下を歩く。やがてあやかしたちが集まる殿舎のすぐ近くまで来たところで、足を止めた。火焔たちが、すばやく高雄の周囲を固める。
 高雄は、集まったあやかしたちをぐるりと見まわすと、すっと片手を上げた。
 するとこれまで歓声に包まれていた場は、しんと静まり返る。あやかしたちは、期待のこもった眼差しを高雄へ向けた。

「今、帰った」

 高雄は静かな、けれどよく響く声で告げた。

「お帰りなさい、統領!」
「お帰りなさいませ!」

 一瞬の後、あやかしたちは前にもまして大きな歓声を上げた。
 高雄はそれに鷹揚な笑みを返したものの、あやかしたちを鎮めるために上げていた手をおろし、ひととき片手で抱いていた初音を大切そうに抱えなおした。
 集まったあやかしたちは、前にいた者から順々に、高雄が抱きかかえる初音に気づいた。
 歓声は、戸惑とまどいの声に変わっていく。

「統領……?」
「その腕に抱えていらっしゃるものは……まさか、それ……人間、ですか?」

 誰かがこわごわつぶやいた声が、ざわめきの中に響いた。

「人間?」
「人間って、うつしよに住んでいるっていう……?」
「実在したんだ……」
「いや、けど、なんで人間がかくりよにいるんだ……!」

 先ほどまでただ高雄の帰還を喜んでいたあやかしたちが、初音の存在に気づいたとたん、困惑の声を上げ始めた。

(大丈夫。すぐに歓迎してもらえるなんて思っていなかったもの……)

 胸は痛むが、これは予想の範囲内だ。それよりも、彼らがいちばん反応したのが初音が「人間だ」ということであったのに、初音は驚いていた。
 扉の間を出る時、初音が覚悟したのは、高雄と釣り合わない初音への侮蔑。あるいは統領たる高雄に抱きかかえられて姿を現した女への憎悪だった。
 高雄は、このあやかしの世界で彼らのいちばん上に立つあやかしだ。見た目も麗しく、寛容で温厚な性格も誰もが好ましく思うだろう、と初音は思う。権力を欲してその妻の座を自身や娘にと狙う者も多いだろうし、純粋に高雄にかれている女性も多いだろう。
 降って湧いたように現れた、特に取柄もなく美しくもない女が、歓迎されるとは思えなかった。
 けれど、高雄の帰還に気づいて集まった者たちの実際の反応は、そのどちらでもなかった。
 彼らはただ、「人間」という未知の種族への戸惑とまどいだけを浮かべていた。それは初音個人に対する感情ではない。

(怖い……)

 これまで初音が暮らしていた世界では、「人間」は世界のおもだった構成員だった。初音の血縁も、友人も、教師も、使用人も、皆人間だった。人間であることは当たり前で、ただ人間だというだけで、こんなふうに奇異の目で見られることになるなんて考えたこともなかった。
 虐げられ、蔑まれることとはまた異なる、異物を見る目。
 彼らの目に嫌悪の色はなかったが、それが逆に自分が異物なのだと初音に感じさせた。

「怖ければ、目を閉じていてもいい」

 萎縮する初音の耳に唇を寄せて、高雄がささやいた。

「こんなに早く、多くの者たちの前にそなたを連れ出す気はなかったのだ。初音は人目にさらされることに慣れておらぬのに、すまぬ。顔を見せたくなければ、俺のほうへ顔を向けておけばよい。そうすればあちらからは見えぬ」

 その小さな声は、初音の耳からすとんと胸に落ちた。

「だから下ろしてくださらなかったんですね……」

 高雄に抱きかかえられたままの初音は、ぽつりと言った。
 高雄はやや強引だが、初音が嫌だと言ったことを聞き入れてくれないことはあまりない。
 抱きかかえられたまま人前に出たのは恥ずかしかったが、この観衆の前で異物として見られるのは怖く、自分を抱く高雄の腕がたのもしかった。高雄は、あやかしたちの反応を予想していたから、初音を彼らの目から隠すために抱きかかえていたのかと、初音は思った。
 覚悟は決めたはずなのに、情けない。初音が唇を噛むと、高雄は「いや」と気まずそうにささやく。

「ただの俺の我儘わがままだ。みなに初音のことを俺の婚約者だときちんと紹介したいと思いながらも、同時にそなたを誰にも見せたくないと思う。もし初音が望んでくれるのなら、このまま内宮の俺の自室に初音を閉じ込めてしまいたい、俺以外の誰にも会わせず、生涯俺だけを見て生きてほしいとさえ望んでしまう……」

 真剣な顔で、高雄が言う。
 その顔がなんだか幼い子どものように頑是がんぜなく、かわいらしく見えて、初音は緊張がほぐれるのを感じた。
 集まった者たちには、ささやき合う初音たちの声が聞こえないのだろう。顔を寄せ合って言葉を交わす様子を見つめられている。いつしか、ざわめきもおさまってきた。
 初音は目を閉じて、深呼吸を二回した。心が落ち着いていく。
 先ほど感じた怖さがなくなったわけではない。
 ここは、かくりよ。
 初音がこれまで暮らしてきた、人間があまたいる世界ではない。きっとこれからも、初音はここで異物として見られ続けるのだろう。
 けれど、それでも、初音はここで暮らしていくと決めたのだ。ここに、高雄がいるから。

「下ろしてください」

 初音は高雄の目を見て、きっぱりと言った。

「高雄様のお言葉で、勇気が出ました。皆様みなさまに、きちんとご挨拶いたします。私は、高雄様の花嫁になるのですから」

 高雄の顔がみるみる赤くなった。
 高雄は初音を丁寧に下ろすと、その肩を抱くように半歩後ろに下がる。
 初音は、すっと姿勢をただし、まっすぐに背を伸ばす。そして、居並ぶ者たちへ視線を向けた。
 彼らの注目が、自分に集中しているのを感じる。初音の心臓はどきどきと大きな音を立てた。
 初音はできるだけ優雅な笑みを浮かべ、口を開いた。
 けれど初音が話すよりも少し早く、真っ赤に色づいた顔の高雄が、集まった面々に宣言した。

「出迎え、ご苦労。みなに紹介しよう。……うつしよから来てもらった。俺の花嫁となる人の子、初音だ」

 高雄の声は、誇らしげだった。高雄がどれほど初音を大切に思っているのかをうかがわせる声音だった。
 そのことに力を得て、初音は足元に落ちそうになる視線をまっすぐ前に固定した。
 真っ向から、集まったあやかしたちを見る。
 姿は人とそう異ならない、けれど「人間」である初音を戸惑とまどいの目で見ている彼らは、高雄の言葉がまだ呑み込めていないようだった。

「はじめまして。西園寺初音と申します。高雄様と結婚するために、かくりよへ参りました」

 こんなにすぐに大勢の前で挨拶することになるとは思っていなかったので、用意した言葉もない。
 初音が思いつく挨拶の言葉は、新婚の花嫁が夫へ贈る言葉としてよく耳にした、庶民的な、素朴な台詞せりふだった。
 立場ある者の妻として、集まった者たちに言うには軽すぎる台詞せりふだ。
 けれど立派な挨拶など思いつけなかったので、そのぶん所作には気を付けて、できる限りの優雅さで頭を下げ、礼をとった。
 いち、に、さん。
 下げた頭の向こうで、「は、花嫁……?」とようやく事態を把握したらしい者たちの驚く声が耳に入る。
 胸を打つ鼓動は速く、大きくなりすぎて、もう初音の耳には広間のどよめきさえも聞こえなくなりそうだ。
 けれど。

(……大丈夫)

 初音は、ゆっくりと顔を上げた。
 背後に立つ高雄は、初音の背をそっと支えてくれる。
 その近くには雪姫や樹莉、火焔や湖苑の気配もある。高雄たちとともにうつしよに来ていた近衛たちの気配も。
 皆に守られている。相対するあやかしたちの反応はわからないけれど、この場には初音の味方もいっぱいいる。

(それに、誓ったもの)

 初音は、胸元に入れた鈴の根付をそっと押さえた。
 先ほど頭を下げた時、この鈴が小さな音を立てたのが聞こえた気がした。高雄との婚約を機に友誼ゆうぎを結んだうつしよの友がくれたものだ。
 うつしよからかくりよへと移る時、初音はこの鈴と友人たちに誓ったのだ。きっと幸せになると。
 まずは、その第一歩。
 高雄の帰還を喜び集まった者たちへ、はじめましてのご挨拶をしよう。

「私は人間ですが、高雄様の妻として、このかくりよの一員となることを望みます。ふつつかものですが、どうか末永くよろしくお願いいたします」

 初音が口にできるのは、素朴な言葉だけだった。
 けれど真摯しんしな態度が認められたのか、最前列にいた困り顔の金色の髪の青年が、表情をゆっくりと笑みに変え、ぱちぱちと手を叩いてくれた。
 すると他にも手を叩く者が現れ、その歓迎の音は次第に大きくなる。

「おめでとうございます……!」

 祝福の言葉がひとりの口から漏れると、後は次々に「おめでとうございます!」の連呼が響く。

「ありがとうございます……!」
「ああ、ありがとう!」

 感極まった初音が涙交じりに言うと、高雄は初音の肩を抱いて礼を述べた。
 場はさらに盛り上がり、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

(よかった……)

 この場にいる全員に認められたとは、初音も思わない。
 前列にいる若い娘のひとりが、顔色を蒼白にして両手で顔をおおう姿も見えた。林檎りんごのような赤髪の華やかな顔立ちの娘は、高雄の腕に抱かれた初音に気づいたとたん顔色を失い、高雄が初音を自分の花嫁だと紹介すると目に涙を浮かべていた。

(あの子はきっと、高雄様のことが好きだったんだろう)

 他のあやかしたちが東の大陸風の着物を着ている中、西の大陸風の赤いドレスを身にまとった彼女はとても目立っていたから、初音もその表情に気づいた。
 けれど、あのたくさんいるあやかしたちの中にはきっと他にも同じように、初音の存在に傷ついた娘がいるだろう。
 今ここで笑顔で手を叩いてくれている者の中にも、その場の雰囲気に流されているだけの者も、高雄の顔色をうかがって本心を隠しているだけの者もいるだろう。
 けれど、純粋に祝福してくれている者もいるはずだ。
 懸念けねんばかり数えても仕方がない。まずは、第一歩。無事に踏み出せたと考えよう。
 高雄の花嫁としての、はじめましてのご挨拶。
 かくりよでの初音の生活は、すべてここから始まるのだから。



 帰還の挨拶と初音の紹介が終わると、高雄は集まったあやかしたちに早々に解散を命じた。
 集まったあやかしたちは名残なごり惜しそうにしながらも、命じられるままにその場を後にした。
 けれど、うつしよに来ていた面々以外にも、その場から下がらなかった者が三名いた。

「……場を移すか」

 高雄は、その三名には戻るようにとは言わなかった。逆に彼らを気遣うように、落ち着いて話せる場所へ移動しようかと尋ねる。
 誰だろう、と初音は不思議に思った。
 残った三名は、年配の男女だった。年齢は五十代から七十代くらいだろうか。見るからに高級そうな衣装に身を包んでいることと、威厳のある態度は共通していた。
 高雄の言葉に、真ん中に立っていた男性が「そうですね。さすがにこの場で立ち話というわけにはいきますまい」といかめしい表情で言う。
 高雄は一瞬眉をひそめたが、すぐにうなずいた。

「この顔ぶれなら、扉の間でいいだろう」

 高雄は今出てきたばかりの部屋へ、初音の手を取って戻る。
 背後から、威圧感のようなものを感じる。初音はぎゅっと高雄の手を握り返して、遅れないように足を動かした。
 全員が扉の間へ入ると、高雄は年配のあやかしたちに向き合った。

「……言いたいことはあるだろうが、まずは初音に紹介しよう。初音、この三名は元老だ。俺のお目付け役のようなものだな。左から、紫水しすい昆明こんめい崔亮さいりょうという」

 高雄が名を呼ぶと同時に、それぞれが初音に礼をとる。
 紫水と呼ばれたのが最年長に見える小柄な女性で、大柄な昆明、怜悧れいりな雰囲気の崔亮と年齢順に並んでいるようだった。
 三名は高雄にも頭を下げた。が、すぐに顔を上げ、崔亮が代表して口を開いた。

「お初にお目にかかります、初音様。ご紹介にあずかりました、崔亮と申します。我らは高雄様の元老を務めております」

 崔亮は初音に丁寧に頭を下げる。紫水と昆明も同時に丁寧な礼を初音に示してくれた。
 初音は、慌てて自分も頭を下げた。そして三名に挨拶をしようと口を開きかけたが、その前に昆明が一歩前に出て、高雄にわざとらしい笑みを向けた。

「さて、失礼かとは存じますが、先に高雄様にお話がございます。高雄様……、まずはご無事にお戻りになられたことを心からお慶び申し上げます。突如、我らの祖先がかくりよに渡って以来閉ざされてきた七の扉を開け、高雄様が扉をくぐったと聞いた時には、心臓がつぶれるかと思いました。いやはや、大胆なことをなさいますな。これで高雄様がお戻りにならなければ、この昆明の心臓は張り裂けてしまったかもしれません」

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