虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

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2巻

2-3

 昆明の口調は慇懃いんぎんながら、とげがあった。だが、高雄に向ける表情は明るく、優しい。
 初音は失礼にならないようにそっと彼を観察した。
 昆明は大柄で、がっしりとした体躯たいくと浅黒い肌を持つ、いかにも頑健そうな男だ。黒い髪はざっくりと手櫛てぐしでまとめており、顎には短いひげがまばらに残っている。威厳はあるが人好きのする雰囲気で、大柄な男性も声の大きな男性も苦手な初音でも、怖いと感じなかった。
 この大袈裟な物言いも、とげとげしい口調も、高雄との親しさゆえのものなのかもしれない。
 昆明の言葉を受けて重々しくうなずく高雄の瞳が楽しげに輝いているのに気づいて、初音はそう思った。
 高雄はにやりと笑って、昆明に謝罪した。

「昆明の心臓ならば、つぶれても自力で復活しそうだな。だが、まぁ、なんだ。心配をかけたことは、悪かったと思っている」
「本当にそうお思いですか? 我らに連絡のひとつもなく、急に飛び出していかれた上、花嫁連れでご帰還なさったのに……! まったく年寄りを驚かせるのもたいがいにしてください」

 昆明は、東の大陸風の着物の袖を目じりに当て、出てもいない涙をぬぐうふりをする。

「仕方あるまい。急な出立になったのは、七の扉の向こうに無視できない強大な力を感じたからだ。七の扉の力も弱まっていて、あちらとこちらの境目も揺らいでいた。力の主と扉の確認は、早急に対応すべきことだろう? 扉の管理は、統領の最も優先すべき任務だからな」

 昆明が口にした「花嫁」という言葉をわざと聞かなかったふりをして、高雄はそう口にした。
 昆明は、むぅと眉を寄せて、しぶしぶうなずいた。

「確かに、扉の管理は統領の最も大切なお仕事ですが……。しかし我々に連絡もできぬほど急ぐ必要があったのか、と」
「お前たちに連絡できなかったのは確かに悪かった。だが、先代統領である父や、先々代統領の万葉かずは様には、連絡を入れた。おふたりは、留守は預かると請け合ってくださった。なにか問題があったか? おふたりに対処できないような事態があったとなれば、大問題だ。火急に対応せねばならぬ。さっそくおふたりにお伺いしなければならないが……」

 高雄がしれっと言うと、昆明はますます眉間のしわを深くした。

「ええ、まぁ。おふたりのご助力のおかげで、万事平穏でしたよ。最近は、幻獣の活動も活発ですし、きな臭いドラゴン族どもの動きも気がかりですしな。先代・先々代のご助力がなければ、面倒なことになっていたかもしれません」

 昆明は顎のひげをひと撫でして、悔しそうにうなずいた。

「……わかりました、我らへの連絡よりも先代・先々代への連絡を優先されたことは気に食いませんが、手段としては有効だったと認めましょう。我らへの連絡もなしに急に七の扉をくぐられたことについては、これ以上苦言は申しますまい。たとえ統領の急なやり方が普段の統領らしくなく、まるで初恋に溺れた青年のようだと思ったとしても、口には出しますまい。ですが、不思議ですなぁ。なぜ任務で世界を渡った統領が、花嫁を連れ帰って来ることになったんでしょうな?」
(私のことだ……)

 わからない話を一生懸命に聞いていた初音は、急に自分の話が出たことにどきりとした。
 昆明は、どんな顔をして「花嫁」と言ったのだろう。うかがうように初音は昆明の顔を見たが、昆明の顔には、高雄をからかうような笑みが浮かんでいるだけだった。

(拒絶されてはいないみたい……?)

 高雄と親しげな男の顔には、少なくとも拒絶の色はない。ちらりと初音へ向けた昆明の表情は、むしろ優しげに見えた。
 高雄にとっては、昆明は気やすい相手なのだろう。「花嫁」という言葉が出たとたん、ぞんぶんに自分の気持ちを聞いてもらおうというように前のめりで語り始めた。

「驚いただろう? 俺も我がことながら、驚いている。……七の扉をくぐったのは、先ほど言った通り、あちらの世界に放置できない大きな力があるのに気づいたからだ。だが、そこで初音と出会った。すると、どうだ。一目見た瞬間、この娘こそが俺の花嫁だと思った。絶対に、なにがあってもこの娘を逃してはならない、この娘に愛情を返してもらえなければ、俺は一生後悔を抱えて生きていかねばならないだろうと……。それで、その場で初音に求婚した」
「ひ、一目で……?」
「出会ってすぐ、その場で、求婚……?」

 高雄をからかっていた昆明は、高雄の堂々たる惚気のろけ呆気あっけにとられたようだった。昆明の両隣にいたふたりも、高雄の台詞せりふに目を丸くする。
 高雄は、晴れ晴れとした表情で、きっぱりと宣言した。

「そうだ。なにしろ一目見た瞬間、この娘が俺の生涯唯一の相手だとわかったからな。逃したり、誰かに先を越されたりするわけにはいかぬ。今は、初音のことを知ったぶん想いが深まってはいるが、気持ちは変わらぬな。……本当に、自分でも驚いている。出会った瞬間に恋に落ちるなど、お伽話だけかと思っていたからな。まさか自分が一目で誰かに恋をするなどと考えたこともなかった。だが、運命とはそのようなものなのだろう」

 恥ずかしげもなく、高雄は言った。
 しかし言われた三名は、困惑して顔を見合わせた。

「これまで、どんな美しい娘に言い寄られても、笑って受け流しておられた高雄様が……」
「色恋沙汰とは無縁なのかと思っておりましたが。変わるものですな」

 三名の視線は、高雄の隣に立つ初音に集まる。まじまじと見つめられて、初音は目を伏せた。
 高雄の言葉は、嬉しかった。
 けれど、高雄のような美丈夫が一目で恋に落ちた相手が、自分のような貧相な娘だなんて、高雄のありあまる愛情表現を一身に受けている初音自身にだって、信じがたく思える時もあるのだ。
 この数日、雪姫や樹莉が手をかけてくれたおかげで少しましになったとはいえ、長年の栄養不足ゆえにがりがりに痩せた小さな体も、目ばかりがぎょろりと目立つ顔も、日に焼けたまま手入れの行き届かぬ肌も、世間一般で言われる美しさとはかけ離れていると知っている。

(高雄様は、私のことを綺麗だと言ってくださるけど……)

 卑屈になるのは、やめると決めた。けれど、初音は誰かの心を一目で奪えるような美しい娘ではない。それは卑下ではなく、ただの事実だ。
 三名の中で真っ先に気を取り直したのは、昆明だった。

「まぁ、女性に興味もなさそうだった高雄様が、いとおしいと思える花嫁を見つけられたことは喜ばしいことです。初音様が今ここにいらっしゃるということは、初音様の了承は得られたのですね?」
「あぁ。初音も、俺との結婚を望んでくれた。俺のことを大好きだと……。それで、だな。七の扉はそうそう開けられぬゆえ、あちらで結納ゆいのうもすませてきた。こちらでは、結婚の儀式を執り行うつもりだ。できる限り早く行いたいのだが……」

 喜色満面で、高雄が言う。
 すると呆気あっけにとられて聞いていた崔亮が「お待ちください!」と声を上げた。

「高雄様は、本当にこの少女とすぐにご結婚なさるおつもりですか? 冷静に、落ち着いて、ご返答ください!」
「俺は落ち着いているし、冷静だ。そのうえで、初音と結婚すると言う。何度でも。崔亮、お前は俺の決定に不満があるのか?」

 高雄は、冷ややかな目で、目の前の男をにらむ。
 だが崔亮も高雄ににらまれても一歩も引かず、もともと吊り上がり気味のまなじりをきりきりと吊り上げた。
 崔亮は元老の三名の中ではいちばん年齢が若く、五十代の半ば。高雄が生まれる前から、紫水や昆明とともに、先代統領である高雄の父の側近として仕えていた。
 統領としての高雄のことは認め、敬しているが、言うべきだと思ったことを言うのにひるむはずもなかった。

「ございます! 高雄様がお心を寄せられるお相手と出会われたこと、お互いに想いを通じられたことは、この崔亮もとても嬉しく、おめでたいことと存じます。そしてお互いに想いが通じ合ったお若い方々が、早々にご結婚なさりたいお気持ちも察することはできます。ですが、ですが……! この方は、おいくつですか? 人間は、鬼神きしん族と同じような外見年齢だと聞いています。とすればまだ十二、三歳ほどでしょう? 高雄様、今一度、冷静にお考えください。わたくしは元老の一員として、統領が年少の少女とご結婚されるのを見過ごすわけにはいきません!」

 そう言うと崔亮は、一歩前に出て、初音の隣に立ち、高雄をにらんだ。
 一瞬怒りを見せた高雄は、崔亮の言い分を聞き終わると、くすりと笑った。

「……崔亮。初音は、十七歳だ。確かに俺よりは七歳も年少だが……、このくらいの年の差がある夫婦は珍しくはないだろう?」
「十七歳……?」

 崔亮は、目をみはる。そして、もう一度まじまじと初音を見て、頭を深く下げた。

「申し訳ございません……。人間の外見年齢は、我々鬼神きしん族と変わらないと思っておりましたので……。てっきり十二歳くらいかと思ってしまいました。龍族の雪姫様がずっとご年少のままの外見でいらっしゃるように、人間もお若く見えるものなのですね。大変失礼いたしました。まぁ、十七歳で結婚というのもいささか早いかと思いますが、世間的には適齢期に入りますか……」

 深々と下げられた崔亮の頭を、初音はおろおろと見つめた。高雄たち鬼神きしん族と人間は、その霊力の種類と大きさ以外、ほとんど違いはないと雪姫から聞いていた。初音が幼く見えるのは、単に栄養不足で体が小さいからだろう。けれどそれにしても十二歳の少女と間違えられたことはこれまでなく、胸が痛む。

(私、それほど子どもっぽいかしら……。高雄様とは、不釣り合いなほど?)

 心底申し訳なさそうな崔亮をとがめるつもりはなかったが、悲しい。けれどこの場にいるあやかしたちは、大柄なものが多い。きっとそのせいで自分は余計に小さく見えたのだと心を慰めた。
 まだ申し訳なさそうな崔亮に「気になさらないでください」と微笑むと、崔亮の隣に立つ昆明が取りなすように笑った。

「崔亮のとこの孫は、下の子が初音様と同じくらいの年齢だったか。先ほど集まった者たちの中にいたのぅ。しばらく会わんうちにすっかり娘らしくなっていたから驚いたわ」
花葵はなあおいのことですね。あれは、十六歳になります。初音様よりも年下ですし、まだほんの子どもです」

 しぶい表情でうなずく崔亮を見て、紫水がにやにやと笑った。昆明は、しみじみとした表情で顎を撫でる。

「おお。よその子どもの成長はあっという間に感じるな。確か、上の孫は高雄様のひとつ年下だったよな。そうか、お前のところの孫も適齢期……」
「結婚なぞ、したい時が適齢期なんです! うちの子たちには、まだ早い……!」

 昆明の言葉を、崔亮はぴしゃりとさえぎった。続きを言わせてなるものかという迫力だ。

「いや、結婚はしたい時にすればいいと思うがよ。上の孫は二十三歳だろ? 早すぎるってことはねぇんじゃねぇか?」

 昆明が呆れたように言うと、紫水は心配そうな顔になった。

「崔亮のところは、娘夫婦が早くに亡くなってしまったからな。手元で育てた孫がかわいいのはわかるが、あんまり祖父馬鹿をこじらせると、孫にうっとうしがられるぞ。そもそもお前もお前の娘も、十六歳かそこらで結婚していただろうが」

 案じるような同僚の言葉を、崔亮は聞こえないとばかりに顔をそらす。

木蓮もくれんも花葵も、まだまだ子どもですから。結婚など、まだまだまだまだ考えられないでしょう。……それより、高雄様のことです。初音様が十七歳ならば、わたくしはおふたりのご結婚を喜んで賛成させていただきます」

 自身の孫の結婚話から話をそらすようにではあるが、崔亮は初音と高雄の結婚に賛意を示してくれた。
 続いて昆明も、両手を挙げた。

「俺ももちろん賛成だ。高雄様が望んだ縁なのだからな。よき関係を築かれるよう、微力ながらお力になろう」

 そして、昆明と崔亮は、紫水を見た。
 紫水は、うむ、とうなずいた。

「わしもじゃ、と言いたいところじゃが。その前に、きちんと聞いておきたいのぅ」

 そう言って、紫水は、初音の前に立つ。
 紫水は、小柄な初音と同じくらいの背丈の、ほっそりとした女性だった。矍鑠かくしゃくとしているが、七十歳はとうに過ぎているだろう。だが、大柄でがっしりとした昆明や、すらりと背が高く隙のない雰囲気の崔亮と比べても遜色そんしょくがない威厳があった。なにもかもを見透かすような空色の瞳は、銀色の長い髪やしわ深い顔とあいまって、人の心の奥底から畏怖さえ呼び起こすようだった。
 けれど紫水は、初音と目を合わせて、にこりと笑った。そのとたん空色の瞳は、慈愛に満ちて、初音の緊張を溶かしていく。

「のう、初音様。高雄様は、初音様も望んでこちらへ嫁いできたのじゃとおっしゃっているが。初音様の本当のお心を聞かせてもらえるかの? もしも、高雄様のお力を恐れて無理をしているのじゃとすれば、この婆にこっそり聞かせておくれ。なぁに、この婆はこう見えて、なかなか強いからの。初音様のご返答次第では、高雄様じゃって蹴散らしてお守りいたそうぞ」

 冗談めかして、紫水が言う。けれどその目は真剣で、初音のことを気遣ってくれているように見えた。
 おかげで、初音もひるむことなく、はっきりと答えられた。

「ありがとうございます、紫水様。お言葉にあまえて、私の心からの気持ちをお話しさせてください。……私は、高雄様のことを、心からお慕い申し上げています。初めてお目にかかった時からずっと、高雄様はお優しく、私を大切にしてくださいました。これから先もずっと高雄様のおそばにいたいと思っています」

 紫水は、高雄に近しい人だろう。初音は、自分の気持ちが伝わるようにと心をこめて語った。
 初音は、このかくりよで誇れるようなものはなにも持っていない。
 初音はうつしよでは発揮できなかった強い力を持っていると、高雄たちは言ってくれた。初音の力はうつしよの人間としては珍しい種類の力で、うつしよではうまく発揮できなかった。だがかくりよでなら、絶大な力を発揮できるはずだと。
 だが、初音はそうとは信じ切れなかった。元いた世界ではかろうじて誇れた侯爵家の令嬢という身分も、人間の存在すら珍しがられるこの世界では、なんの価値もないだろう。その他のなにか、例えば美しさや才智や教養などでも誇れるものがあればよいのだが、誇れるほど優れたものはなかった。
 初音が自信を持てるものがあるとすれば、高雄への想いくらいだ。
 高雄とともにありたいという気持ちひとつ。それだけを抱いて、この見知らぬ世界にともに来た。
 これまで初音の人生は、諦めてばかりの人生だった。物心つくころから虐げられ続けてきた初音は、自分の望みは叶わないのが当たり前なのだと、身に沁みている。だが高雄とともにありたいというこの気持ちだけは、諦めたくなかった。

(まだ出会って数日しか経っていないのに……。こんなふうに感じるなんて、不思議ね)

 初めに初音に手を差し伸べたのは、高雄だ。高雄は初音のことを愛していると言い、それが初音の心に種をまいた。
 高雄は初音への愛情を隠すことなく示してくれるから、初音もその気持ちを疑うつもりはない。そして高雄が初音の心にまいた種は芽吹いて根を張り、初音の心で大きく花開いていた。
 なにも持たなかった初音に、高雄はふんだんに愛情を与えてくれた。おかげで初音はこれまで心を閉ざしていた周囲の人々に目を向け、一歩踏みこめるようになった。高雄の側近である雪姫たちにも優しくされて勇気を育み、おそるおそる伸ばした初音の手を取ってくれたうつしよの同級生たちと友になれた。
 踏み出そうという勇気を与えてくれたのは、高雄のあふれんばかりの愛情のおかげだ。

(きっと今、私の心と高雄様のお心を天秤てんびんにかけてみたら、私が高雄様を想う気持ちのほうが、高雄様が私を想ってくださるお心よりも重いかもしれない)

 それは初音にとって、悲しむことではなく、誇らしいことだった。
 だから高雄の大切な人にも、この気持ちを伝えたいと願う。高雄にもらった勇気ごと、高雄への愛情をこめて、紫水と、ともに耳を向けている昆明や崔亮に伝えたい。
 紫水は、じぃっと初音と目を合わせて、深々とため息をついた。

「……そうか。ならばよかった」

 かすかに微笑む紫水の顔は、やがて満面の笑みに変わった。

「納得したか、紫水」

 高雄は、初音の答えを確信していたというように、自信たっぷりに言う。だがその顔は赤く染まっており、平静を装いつつも頰が緩んでいた。
 紫水は吹きだして、肩を揺らした。

「ええ、まぁ。どこかのわんぱく坊主が、好いた女子おなごには優しくできているようで安心しましたわい」
「そうですな……。いやぁ、なんというか、今のやりとりを拝見して、あぁ高雄様はご自身の伴侶をお見つけになったのだと実感いたしました。あんなにお小さかった高雄様が、自分の嫁を大切にする大人の男になられたのだなぁと思いますと、いやはや感慨深いですなぁ……」

 昆明がしみじみと言うと、崔亮もこくりとうなずいた。

「高雄様はご結婚の話題になると、まだ早いだの、統領の仕事に慣れてからだのと逃げてばかりで、聞く耳も持ってくださいませんでしたが、お相手次第だったということですね。女性に言い寄られても避けてばかりいらっしゃるから、ご結婚などまだまだ先のことだろうと思っていましたが」

 ほがらかに笑って「まるで運命ですね」と崔亮が言う。すると昆明がすばやく口を挟んだ。

「なるほど、つまりお前のところの孫娘たちも……」
「ですから、あの子たちにはまだ結婚なぞ早いと言っているでしょう! 木蓮も花葵も、まだまだ結婚などしません!」

 からかうような昆明の言葉を、崔亮は即座にさえぎった。

「お前たちも相変わらずじゃのぅ」

 呆れたように、雪姫が口を挟んだ。
 崔亮と昆明は、苦笑して居ずまいを正す。

「つい十日前にもお会いしたではありませんか。七百歳をとうに超えていらっしゃる雪姫様には小童こわっぱに見えるかもしれませんが、我も崔亮も老境にさしかかった年齢ですぞ。そう簡単には変わりますまい」
「さようでございます。それより、雪姫様もご健勝そうでなによりです。久々の七のうつしよはいかがでしたか?」
「我が七のうつしよにおったのは、七百年も前じゃからの。ずいぶんと変わっておったよ」
「おお、それは興味深い。いろいろとお話を伺いたいものですな」
「そうですね。七のうつしよは、うつしよの中でも特別ですからね。なにしろ我らの先祖の出身の世界でありながら、それ以来ずっと扉が閉ざされてきた未知の世界です」

 崔亮と昆明が身を乗り出して、雪姫に尋ねた。好奇心に目を輝かせるふたりを見て、紫水はため息交じりに雪姫に言う。

「雪姫様も、外見はお若くてもご老体なんじゃから、あまり無理はなさらないでくだされよ」
「紫水も相変わらずじゃのう。ま、若い者の無茶を手助けするのは年長の者の仕事じゃからの。それに、無理をした甲斐かいはあった。じゃろ?」

 紫水の苦言を笑い飛ばして、雪姫は隣に立つ樹莉たちをうながした。

「ええ、とても。意義深い三日間だったと思いますわ」

 樹莉が唇をほころばせてうなずくと、湖苑も静かにうなずいた。

「最愛の者との出会いは、誰にとっても至上の喜びです。高雄様が最愛の方となる初音様と出会われたことは、僕たち高雄様の配下の者にとっても大きな喜びです。あの時、うつしよに行ってよかったです」
「ってのが、俺たちの総意だ。なぁ?」

 火焔は、ともにうつしよに行った近衛たちに笑いかけた。
 そろいの黒い服に身を包んだ近衛たちは、ひとり、またひとりとうなずいた。
 近衛たちが全員うなずいたのを確かめて、火焔は挑戦的な笑みを浮かべて元老たちを見る。

「で、元老も全員、高雄様と初音様のご結婚に賛成ってことでいいんだよな?」

 答えを確信しているかのように尋ねる火焔に、昆明はにやりと笑ってうなずいた。

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