7 / 14
7
しおりを挟む
ハルは「そうなのか?」と首をかしげて、
「海野は知っているかもだけど、一応紹介しとくな。法学部の二回生の、梶明良先輩」
「どうも」
ハルが大きいほうの学生を手で示すと、男はにっこりと笑みをうかべた。
(梶先輩……。かっこいいし、すごく優しい感じなのに、なんか怖い……?)
笑っているのにどこか油断がならない梶の笑顔に、知花はどぎまぎする。
ハルは、次にひょろりとした学生を示した。
「こっちは友達の音羽伊月! 伊月は同じ一回生だよ」
伊月は眉間に皺をよせたまま、無言ですこし頭をさげる。
愛想のない態度なのに、なぜか知花はほっとした。
「で、こっちが俺と一緒の英語の講義とっている久保知花さんと海野瑠奈。海野は中学からの持ち上がり組だから知ってる?」
「うん」
「絵のコンクールで何度も入賞していた子だよね。校長室の前に飾られていた絵も覚えているよ。大きな壺に紅梅と白梅がたっぷり生けられている絵。色使いが鮮やかで、すごく印象的だった」
「え……。ありがとうございます」
ハルが瑠奈を紹介すると、伊月は小さくうなずいただけだったが、梶はにこにこ笑いながら瑠奈が描いた絵の話をした。
うさんくさそうに梶を見ていた瑠奈は、梶からの称賛が意外だったらしい。
目をまるくして、ぺこりと梶に頭を下げた。
伊月も梶の言葉を聞いて「へぇ」と驚きの声をあげ、瑠奈を見た。
「俺もその絵、見たことあるかも。白っぽい壺に赤っぽいピンクの梅とクリーム色の梅がいっぱい入っている絵だよね。すごくシンプルなのに迫力あって、廊下を通るたび見てた。あれ、描いたの海野さんだったんだ」
「うん……。なんか照れる。ありがと」
「伊月、絶賛じゃん。そういや海野、絵とかデザインとかでちょいちょい表彰されていたよな」
ハルは小さくうなずき、瑠奈の隣の知花を手でしめした。
「で、こちらが久保さん。俺と英語の講義が一緒なんだ。……それで、さっき気づいたんだけど。なんかちょっとへんな気配を感じるんだよ。訊いてみたら、怪異に巻き込まれているみたいでさ。俺はその場をしのぐので精いっぱいだったけど、ふたりならなんとかできるかもって」
ハルは伊月たちに説明すると、今度は知花に言う。
「このふたり、小学校のときから京都守護大学附属なんだ。で、ふたりしてそのころから霊感あってさ。性格も落ち着いていて頼りがいがあるんで、小さいころから大人たちの信頼もあつくて、俺たちの世代ではベテラン中のベテラン。ほんとすげーんだ!」
ハルの目は、きらきら輝いている。
友人たちをストレートに褒めるハルを見て、知花はほっこりした気分になった。
とはいえ褒められた男子学生ふたりは、苦笑いだ。
おたがいの顔を見合わせると、伊月はため息をつき、梶は不敵な笑みをうかべた。
「ハルはほんっとかわいいねー」
梶は大きな手で、ぐりぐりと容赦なくハルの頭を撫でまわす。
「あっ、梶先輩っ、やめてください! 力、強すぎです! 背が縮みそう……」
ハルは慌てて、梶の手から逃げようとした。
それでも梶はハルを離してやらず、大きな手でハルの頭をぐりぐりと撫でる。
ふたりがばたばたとじゃれあっていると、伊月がため息をついた。
「アキ、やめて。ハルも、じゃれてないで。久保さんの話をするんでしょ」
「ごめん」
ハルは慌てて頭を下げる。
梶は「はいはい」と肩をすくめて、知花に「ごめんね」と笑いかけた。
「俺たちは怪異とか慣れっこになっているけど、知花ちゃんは怖かったよね?」
「あ、はい……」
背の高い梶は身をかがめて、知花の目を覗き込む。
(顔、近い……っ。それに「知花ちゃん」って。距離感、近すぎじゃない……?)
女の子相手なら気にならない距離も、相手が異性だとどきどきする。
それが普通の反応なのか、自分が男子に慣れなさすぎて過剰反応してしまっているのかもわからず、知花は顔を赤くした。
けれど、ちょうど良いタイミングだと思い、知花は梶と伊月に頭を下げた。
「奇妙なことが起こるようになったのは、ここ数日のことなんですけど、すごく怖くて……。だからハルくんが声をかけてくれたのが、すごく嬉しくて……。あの、ご迷惑だとは思いますが、助けていただけないでしょうか。お願いします!」
知花は深々と頭を下げながら、祈るようにふたりの返事を待った。
ハルが声をかけてくれてから、赤い封筒への怖さは軽減していた。
他の人にも見えるとわかったことも、対処の方法がわかったことも、大きい。
そのハルが頼りになるという梶と伊月には、どうしても期待してしまう。
なんのゆかりもない相手の怪異なんて、関わりたくないに決まっている。
迷惑なのは承知だが、それでもお願いするしかない。
ずっと頭を下げたままの知花に、梶は頭をあげるように言った。
そして気まずげに額を押さえながら、知花に謝罪した。
「こっちこそ、ごめん。ほんとに。マジで怪異に慣れすぎてて、軽く考えすぎてたわ。そんな頭とか下げなくても、俺たちにできることなら協力するから」
「アキはすぐ調子に乗る。その知花ちゃん呼びも、やめて。久保さん、戸惑っているだろ」
「え。ちゃん呼びもまずい?」
「馴れ馴れしすぎ」
「マジか。ごめん」
伊月に指摘されて、梶はもう一度、知花に謝った。
「いえ、そんな。だいじょうぶです」
梶の距離の詰めかたに戸惑いはあったものの、嫌というほどではなかった。
大人びてかっこいい梶に近づかれると、どきどきする。
けれど、梶にとっては他意のない言動なのだろうと、異性とのやりとりに慣れていない知花でさえ察せられるほど、梶には下心や虚栄心が感じられなかった。
そのせいか、嫌な気分もない。
それに、これからお世話になる相手に、そんなことで真剣に謝罪されるのも申し訳ない。
知花が笑って言うと、伊月はまた眉間の皺を深くした。
「どうかしたのか、伊月?」
梶に向いていた伊月の視線は、知花の背後へ向いている。
なにもない空間を睨む友人に気づいたハルが尋ねると、伊月はちらりと知花の顔色を伺い、口を濁した。
「……なんでもない。それより学食に行かない? 夏山ももう待っているんじゃない?」
「あ、そうだな。久保さん、海野。もう一人、よく一緒につるんでいる夏山ってやつがいて、そいつも学食に呼び出したんだ。先に合流していい?」
知花と瑠奈は、うなずく。
ハルたちがいつも昼食をとっているのは、A地下といわれるA校舎の地下にある学食だそうだ。
構内にいくつかある学食の中でも、いちばん広くて席数もある学食だ。
メニューも安くて定番なものが多いから、ここを使う学生は多かった。
「久保さんたちも、A地下でよかった?」
勝手に決めてごめんな、とハルは言う。
知花と瑠奈は同時に「うん」と返した。
あまりにも声が重なったので、知花は瑠奈と顔を見合わせて笑う。
「海野は知っているかもだけど、一応紹介しとくな。法学部の二回生の、梶明良先輩」
「どうも」
ハルが大きいほうの学生を手で示すと、男はにっこりと笑みをうかべた。
(梶先輩……。かっこいいし、すごく優しい感じなのに、なんか怖い……?)
笑っているのにどこか油断がならない梶の笑顔に、知花はどぎまぎする。
ハルは、次にひょろりとした学生を示した。
「こっちは友達の音羽伊月! 伊月は同じ一回生だよ」
伊月は眉間に皺をよせたまま、無言ですこし頭をさげる。
愛想のない態度なのに、なぜか知花はほっとした。
「で、こっちが俺と一緒の英語の講義とっている久保知花さんと海野瑠奈。海野は中学からの持ち上がり組だから知ってる?」
「うん」
「絵のコンクールで何度も入賞していた子だよね。校長室の前に飾られていた絵も覚えているよ。大きな壺に紅梅と白梅がたっぷり生けられている絵。色使いが鮮やかで、すごく印象的だった」
「え……。ありがとうございます」
ハルが瑠奈を紹介すると、伊月は小さくうなずいただけだったが、梶はにこにこ笑いながら瑠奈が描いた絵の話をした。
うさんくさそうに梶を見ていた瑠奈は、梶からの称賛が意外だったらしい。
目をまるくして、ぺこりと梶に頭を下げた。
伊月も梶の言葉を聞いて「へぇ」と驚きの声をあげ、瑠奈を見た。
「俺もその絵、見たことあるかも。白っぽい壺に赤っぽいピンクの梅とクリーム色の梅がいっぱい入っている絵だよね。すごくシンプルなのに迫力あって、廊下を通るたび見てた。あれ、描いたの海野さんだったんだ」
「うん……。なんか照れる。ありがと」
「伊月、絶賛じゃん。そういや海野、絵とかデザインとかでちょいちょい表彰されていたよな」
ハルは小さくうなずき、瑠奈の隣の知花を手でしめした。
「で、こちらが久保さん。俺と英語の講義が一緒なんだ。……それで、さっき気づいたんだけど。なんかちょっとへんな気配を感じるんだよ。訊いてみたら、怪異に巻き込まれているみたいでさ。俺はその場をしのぐので精いっぱいだったけど、ふたりならなんとかできるかもって」
ハルは伊月たちに説明すると、今度は知花に言う。
「このふたり、小学校のときから京都守護大学附属なんだ。で、ふたりしてそのころから霊感あってさ。性格も落ち着いていて頼りがいがあるんで、小さいころから大人たちの信頼もあつくて、俺たちの世代ではベテラン中のベテラン。ほんとすげーんだ!」
ハルの目は、きらきら輝いている。
友人たちをストレートに褒めるハルを見て、知花はほっこりした気分になった。
とはいえ褒められた男子学生ふたりは、苦笑いだ。
おたがいの顔を見合わせると、伊月はため息をつき、梶は不敵な笑みをうかべた。
「ハルはほんっとかわいいねー」
梶は大きな手で、ぐりぐりと容赦なくハルの頭を撫でまわす。
「あっ、梶先輩っ、やめてください! 力、強すぎです! 背が縮みそう……」
ハルは慌てて、梶の手から逃げようとした。
それでも梶はハルを離してやらず、大きな手でハルの頭をぐりぐりと撫でる。
ふたりがばたばたとじゃれあっていると、伊月がため息をついた。
「アキ、やめて。ハルも、じゃれてないで。久保さんの話をするんでしょ」
「ごめん」
ハルは慌てて頭を下げる。
梶は「はいはい」と肩をすくめて、知花に「ごめんね」と笑いかけた。
「俺たちは怪異とか慣れっこになっているけど、知花ちゃんは怖かったよね?」
「あ、はい……」
背の高い梶は身をかがめて、知花の目を覗き込む。
(顔、近い……っ。それに「知花ちゃん」って。距離感、近すぎじゃない……?)
女の子相手なら気にならない距離も、相手が異性だとどきどきする。
それが普通の反応なのか、自分が男子に慣れなさすぎて過剰反応してしまっているのかもわからず、知花は顔を赤くした。
けれど、ちょうど良いタイミングだと思い、知花は梶と伊月に頭を下げた。
「奇妙なことが起こるようになったのは、ここ数日のことなんですけど、すごく怖くて……。だからハルくんが声をかけてくれたのが、すごく嬉しくて……。あの、ご迷惑だとは思いますが、助けていただけないでしょうか。お願いします!」
知花は深々と頭を下げながら、祈るようにふたりの返事を待った。
ハルが声をかけてくれてから、赤い封筒への怖さは軽減していた。
他の人にも見えるとわかったことも、対処の方法がわかったことも、大きい。
そのハルが頼りになるという梶と伊月には、どうしても期待してしまう。
なんのゆかりもない相手の怪異なんて、関わりたくないに決まっている。
迷惑なのは承知だが、それでもお願いするしかない。
ずっと頭を下げたままの知花に、梶は頭をあげるように言った。
そして気まずげに額を押さえながら、知花に謝罪した。
「こっちこそ、ごめん。ほんとに。マジで怪異に慣れすぎてて、軽く考えすぎてたわ。そんな頭とか下げなくても、俺たちにできることなら協力するから」
「アキはすぐ調子に乗る。その知花ちゃん呼びも、やめて。久保さん、戸惑っているだろ」
「え。ちゃん呼びもまずい?」
「馴れ馴れしすぎ」
「マジか。ごめん」
伊月に指摘されて、梶はもう一度、知花に謝った。
「いえ、そんな。だいじょうぶです」
梶の距離の詰めかたに戸惑いはあったものの、嫌というほどではなかった。
大人びてかっこいい梶に近づかれると、どきどきする。
けれど、梶にとっては他意のない言動なのだろうと、異性とのやりとりに慣れていない知花でさえ察せられるほど、梶には下心や虚栄心が感じられなかった。
そのせいか、嫌な気分もない。
それに、これからお世話になる相手に、そんなことで真剣に謝罪されるのも申し訳ない。
知花が笑って言うと、伊月はまた眉間の皺を深くした。
「どうかしたのか、伊月?」
梶に向いていた伊月の視線は、知花の背後へ向いている。
なにもない空間を睨む友人に気づいたハルが尋ねると、伊月はちらりと知花の顔色を伺い、口を濁した。
「……なんでもない。それより学食に行かない? 夏山ももう待っているんじゃない?」
「あ、そうだな。久保さん、海野。もう一人、よく一緒につるんでいる夏山ってやつがいて、そいつも学食に呼び出したんだ。先に合流していい?」
知花と瑠奈は、うなずく。
ハルたちがいつも昼食をとっているのは、A地下といわれるA校舎の地下にある学食だそうだ。
構内にいくつかある学食の中でも、いちばん広くて席数もある学食だ。
メニューも安くて定番なものが多いから、ここを使う学生は多かった。
「久保さんたちも、A地下でよかった?」
勝手に決めてごめんな、とハルは言う。
知花と瑠奈は同時に「うん」と返した。
あまりにも声が重なったので、知花は瑠奈と顔を見合わせて笑う。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
なおこちゃんの手紙【モキュメンタリー】
武州青嵐(さくら青嵐)
ホラー
ある日、伊勢涼子のもとに、友人の優奈から「三沢久美の相談にのってあげてほしい」と連絡が入る。
三沢久美は子どもが持って帰ってきた「なおこちゃんの手紙」という手紙をもてあましていた。
その文面は、
「これは、なおこちゃんからの手紙です。
なおこちゃんは、パンがすきなおんなの子です。
かくれんぼをしています。ときどき、みつからないようにでてきます。
おともだちをぼしゅう中です。
だから、この手紙をもらったひとは、10日いないに、じぶんのともだち5人に、このなおこちゃんからの手紙をだしてください。文めんはおなじにしてください。
もし手紙をださなかったり、文めんを変えたら、なおこちゃんがやってきて、かくれんぼをするぞ。」
というもの。
三沢はこの手紙を写真に撮り、涼子にメールで送りつけてから連絡を絶つ。
数日後、近所の小学校でとある事件が発生。5人の女児がパニックを起こして怪我をする、というものだった。
その女児たちはいずれも、「なおこちゃんの手紙」を受け取っていた。
趣味で怪談実話をカクヨムで掲載している涼子は、この手紙を追っていくのだが……。
その彼女のもとに。
ひとりの女児が現れる。
※モキュメンタリー形式ですので、時系列に物語が進むわけではありません。
同名タイトルでカクヨムにも掲載
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる