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自信満々に言う瑠奈を、梶と伊月はあっけにとられたように見た。
どちらの話も全く知らなかった知花は、ハルや夏山の反応をうかがう。
夏山は知花と同じように、話を知らないのだろう。
不思議そうな顔で瑠奈を見ている。
けれど、ハルは心当たりがあったらしい。
「あっ! そういえば、女子の間で流行ってたよな。オカルト研究会でも、中学生の女子が何人かやっていたよ。クリスマスまでに彼氏欲しいって。けっきょく彼氏はできなかったらしくて、すぐ飽きたみたいだけど」
「でしょー!! もともとはpikpuekで流行していたみたいなんだけど、友達も一緒にやったら成功率あがるっていう噂が出てから、友達に勧める子も増えてさ。私も何人もに一緒にやろって誘われたもん」
pikpuekは短い動画がメインのSNSだ。
文字媒体を愛している知花はあまり使っていないが、それでも時々は見ている。が。
「知花も知ってるっしょ?」
瑠奈にとうぜんのように問われて、知花は苦笑いをうかべた。
「ごめん、瑠奈。ぜんぜん知らない……。そのころ受験勉強で必死だったから」
京都守護大学は、全国的にみても名門校だ。
知花の学力では、かなり勉強しないと合格は難しかった。
去年の年末は、ほんとうに必死で勉強ばかりしていたし、周囲の友人もそうだった。
もしかすると内部進学した友人は知っていたかもしれないが、そんな話を知花たち受験組に話しかけられる雰囲気ではなかったと思う。
「あっ、そうか。そうだよね」
京都守護大学付属高校出身の瑠奈は、大学受験はしていない。
それなりに日々の勉強はかかさないので、成績も上位のため、希望の学部への入学もそうそうに決まっていた。
高校三年生だった去年は、高校生活も最後だからと、友人たちといつも以上に学生生活を楽しんでいた覚えがある。
制服でテーマパークに行く、みたいなイベントごとだけじゃなく、放課後に教室に残ってくだらない遊びに熱中するのも、めちゃくちゃ楽しかった。
「冥婚のおまじない」と言われていたそれに瑠奈が何度も誘われたのも、教室に流れる「この教室でくだらないことで盛り上がれる時間は残り少ない」という雰囲気に押されてのこともあったのかもしれない。
「瑠奈は、そのおまじないをしたの?」
赤い封筒にまつわることは、知花にとって怖いものになっていた。
こわごわ瑠奈に尋ねると、瑠奈はあっさりと首を横にふった。
「しない、しない。なんかさぁ、他人の名前を書いたものを持ち歩くって、気軽にする気になれなくて。ま、好きな人もいなかったし。つきあいで一緒におまじないしてもいいけどさ、適当な男の名前を書いて、落としたら最悪じゃん」
「それはそうだよね」
「おまじないとか信じてなかったから、適当な相手とでも『冥婚のおまじない』すること自体は抵抗なかったんだけど。……さっきからの不思議現象の話を聞いていると、なんとなくでしなくてよかったって思ったわ」
「あー……、ま、気休めっていうか実際の効果はなくても、それで勇気を得て行動できたり、安心したりできるならまったく効果がないとも言えないけどね。ごくまれに強い効力がある呪いもあって、そういうのに限って暴走っていうか、へんな効果を発揮したりするから、安易には手をださないのが正解かもな」
梶はひとつうなずいて、
「しっかし、海野さんが言ってる話は、俺が知っていた話とはぜんぜん違うんだね。詳しく聞いていい?」
「どうぞー。さっきは決めつけられて、ちょっとイラっとしたけど、知花のためだもん。なんでも聞いて」
意地悪そうな笑みをうかべて瑠奈がいうと、梶は気まずそうに頬をかいた。
「ごめん。悪かった」
「俺も、ごめん」
伊月も、しゅんとして頭を下げた。
「いや、ガチで謝らなくていいから。で、聞きたいことって、なに?」
ふたりの謝罪をからからと笑い飛ばして、瑠奈が尋ねた。
「うーん。こまかいやり方とか、教えてもらえる?」
「おっけ。でもさっき言ったとおりだよ。赤いカードと封筒を用意して、そこに片思いの相手と自分の名前を黒のペンで書く。カードに書いた名前は誰かに見られたら効力がなくなるから、誰にも中を見られないように持ちあるかなくちゃいけない。そしたら、ご先祖さまが応援してくれて、両想いになれるってやつ」
さっくりと説明する瑠奈に、伊月がうなずいた。
「恋愛の成就か。効果はメジャーどころだね。片想いの相手と自分の名前を書いて持ち歩くのも、よくありそう。赤い封筒は、ちょっと珍しいかも? 起源とか、あるのかな。赤って色と縁結びなら、赤縄のほうがそれっぽいのに」
「月下老人が縁結びのために持ち歩いているやつか。でも恋愛成就のおまじないに、赤い縄ってのは流行りそうにないよな。赤い縄を持ち歩いているのを片想いの相手に見られたら、恋愛成就から遠のきそうだ」
「っていうか、一般的には赤縄より、赤い糸のほうが有名だと思う」
まじめな顔で赤い縄について話し合う伊月と梶に、ハルがつっこんだ。
ふたりは赤い糸というもっとメジャーな縁結びアイテムは思いつかなかったらしく、驚いたように目を丸くする。
「封筒に、封はしてはいけないって決まっているんっすか?」
これまでずっと黙っていた夏山が、急に口をはさんだ。
瑠奈もぱちりと目をまたたいたが、すぐにうなずいた。
「うん。封筒に封をしちゃうと、ご先祖様が相手の名前を見られなくなるからだめなんだって」
「あー、なるほど。ってことは、ますますそのおまじないと、この赤い封筒は一致しているってわけか」
梶は、伊月と目くばせをして、うなずきあった。
どちらの話も全く知らなかった知花は、ハルや夏山の反応をうかがう。
夏山は知花と同じように、話を知らないのだろう。
不思議そうな顔で瑠奈を見ている。
けれど、ハルは心当たりがあったらしい。
「あっ! そういえば、女子の間で流行ってたよな。オカルト研究会でも、中学生の女子が何人かやっていたよ。クリスマスまでに彼氏欲しいって。けっきょく彼氏はできなかったらしくて、すぐ飽きたみたいだけど」
「でしょー!! もともとはpikpuekで流行していたみたいなんだけど、友達も一緒にやったら成功率あがるっていう噂が出てから、友達に勧める子も増えてさ。私も何人もに一緒にやろって誘われたもん」
pikpuekは短い動画がメインのSNSだ。
文字媒体を愛している知花はあまり使っていないが、それでも時々は見ている。が。
「知花も知ってるっしょ?」
瑠奈にとうぜんのように問われて、知花は苦笑いをうかべた。
「ごめん、瑠奈。ぜんぜん知らない……。そのころ受験勉強で必死だったから」
京都守護大学は、全国的にみても名門校だ。
知花の学力では、かなり勉強しないと合格は難しかった。
去年の年末は、ほんとうに必死で勉強ばかりしていたし、周囲の友人もそうだった。
もしかすると内部進学した友人は知っていたかもしれないが、そんな話を知花たち受験組に話しかけられる雰囲気ではなかったと思う。
「あっ、そうか。そうだよね」
京都守護大学付属高校出身の瑠奈は、大学受験はしていない。
それなりに日々の勉強はかかさないので、成績も上位のため、希望の学部への入学もそうそうに決まっていた。
高校三年生だった去年は、高校生活も最後だからと、友人たちといつも以上に学生生活を楽しんでいた覚えがある。
制服でテーマパークに行く、みたいなイベントごとだけじゃなく、放課後に教室に残ってくだらない遊びに熱中するのも、めちゃくちゃ楽しかった。
「冥婚のおまじない」と言われていたそれに瑠奈が何度も誘われたのも、教室に流れる「この教室でくだらないことで盛り上がれる時間は残り少ない」という雰囲気に押されてのこともあったのかもしれない。
「瑠奈は、そのおまじないをしたの?」
赤い封筒にまつわることは、知花にとって怖いものになっていた。
こわごわ瑠奈に尋ねると、瑠奈はあっさりと首を横にふった。
「しない、しない。なんかさぁ、他人の名前を書いたものを持ち歩くって、気軽にする気になれなくて。ま、好きな人もいなかったし。つきあいで一緒におまじないしてもいいけどさ、適当な男の名前を書いて、落としたら最悪じゃん」
「それはそうだよね」
「おまじないとか信じてなかったから、適当な相手とでも『冥婚のおまじない』すること自体は抵抗なかったんだけど。……さっきからの不思議現象の話を聞いていると、なんとなくでしなくてよかったって思ったわ」
「あー……、ま、気休めっていうか実際の効果はなくても、それで勇気を得て行動できたり、安心したりできるならまったく効果がないとも言えないけどね。ごくまれに強い効力がある呪いもあって、そういうのに限って暴走っていうか、へんな効果を発揮したりするから、安易には手をださないのが正解かもな」
梶はひとつうなずいて、
「しっかし、海野さんが言ってる話は、俺が知っていた話とはぜんぜん違うんだね。詳しく聞いていい?」
「どうぞー。さっきは決めつけられて、ちょっとイラっとしたけど、知花のためだもん。なんでも聞いて」
意地悪そうな笑みをうかべて瑠奈がいうと、梶は気まずそうに頬をかいた。
「ごめん。悪かった」
「俺も、ごめん」
伊月も、しゅんとして頭を下げた。
「いや、ガチで謝らなくていいから。で、聞きたいことって、なに?」
ふたりの謝罪をからからと笑い飛ばして、瑠奈が尋ねた。
「うーん。こまかいやり方とか、教えてもらえる?」
「おっけ。でもさっき言ったとおりだよ。赤いカードと封筒を用意して、そこに片思いの相手と自分の名前を黒のペンで書く。カードに書いた名前は誰かに見られたら効力がなくなるから、誰にも中を見られないように持ちあるかなくちゃいけない。そしたら、ご先祖さまが応援してくれて、両想いになれるってやつ」
さっくりと説明する瑠奈に、伊月がうなずいた。
「恋愛の成就か。効果はメジャーどころだね。片想いの相手と自分の名前を書いて持ち歩くのも、よくありそう。赤い封筒は、ちょっと珍しいかも? 起源とか、あるのかな。赤って色と縁結びなら、赤縄のほうがそれっぽいのに」
「月下老人が縁結びのために持ち歩いているやつか。でも恋愛成就のおまじないに、赤い縄ってのは流行りそうにないよな。赤い縄を持ち歩いているのを片想いの相手に見られたら、恋愛成就から遠のきそうだ」
「っていうか、一般的には赤縄より、赤い糸のほうが有名だと思う」
まじめな顔で赤い縄について話し合う伊月と梶に、ハルがつっこんだ。
ふたりは赤い糸というもっとメジャーな縁結びアイテムは思いつかなかったらしく、驚いたように目を丸くする。
「封筒に、封はしてはいけないって決まっているんっすか?」
これまでずっと黙っていた夏山が、急に口をはさんだ。
瑠奈もぱちりと目をまたたいたが、すぐにうなずいた。
「うん。封筒に封をしちゃうと、ご先祖様が相手の名前を見られなくなるからだめなんだって」
「あー、なるほど。ってことは、ますますそのおまじないと、この赤い封筒は一致しているってわけか」
梶は、伊月と目くばせをして、うなずきあった。
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