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聖女の婚約破棄とその事情
10:王子はもう、夢は見ない 1 (痛い表現あり)
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ヒジリは、サン・マリーを見下ろした。
美しい赤い髪の、美しい女だった。
幼いころから知った娘だった。
ずっと、ヒジリと結婚したいと言っていた少女だった。
いつもいつも美しく着飾り、髪も、肌も、爪も、表情さえも、美しく整えた令嬢だった。
今は、皮をはがれた獣のように全身に傷を負い、意識を失い、ヒジリの足元に転がっている。
ヒジリは手近にある桶に入った氷水を、サン・マリーの顔にかけた。
「うぐぅ……っ」
「起きろ。まだお前は死なせはしない」
ヒジリの言葉に、サン・マリーの絶望はまた一段と深くなった。
いまやサン・マリーにとって、望みはたったひとつだった。
(殺して……、今すぐ殺して、楽にして……)
サン・マリーと一緒に捕らえられた盗賊団の男たちは、みんなもう死んでしまった。
もうこのような痛みと無縁の場所に、逃れられた。
なんてうらやましいことか。
サン・マリーは、いまだこの痛みから逃れられる「死」という恩寵を与えられていないのに。
(殺して……、今すぐ殺して、楽にして……)
なんども、なんども、祈るように、心の中でくりかえす。
まともな意味を持つ言葉は、もう口にできない。
サン・マリーの口に、歯は残っていない。
すべて、抜かれてしまった。
あの時の痛みで、死ねればよかったのに。
つい先日までは、サン・マリーは、熱過ぎる紅茶を出されれば、一口飲んでカップを投げ、そのメイドを紹介状ももたさずに解雇した。
紹介状なしでの解雇では、次の職場など見つからないことを承知の上だった。
自分の舌にやけどを負わせたのだから当然だと、サン・マリーは思っていた。
あるいは、髪を整える際、髪をひっぱりすぎて、サン・マリーに痛みを与えたメイドがいた時は、メイドを鞭打ちすることを命じた。
自分に痛い思いをさせたのだから当然だと、サン・マリーは思っていた。
だけど、あんなのは痛みのうちに入らなかった、と今のサン・マリーは思う。
歯は、抜かれた。
爪も、残っていない。
脚は1本折られた。
あと、脚は1本、手は2本、指もまだぜんぶ折られてもなければ、切り落とされてもいない。
鼻も、目も、耳も残っている。
いまから、それも折られたり、そがれたりするのだろう。
あの盗賊団の男たちがされたように。
いっそ気が狂ってしまいたい、と思う。
気を失っている間に、死なせてもらえればいいのに、と願う。
けれど、それは許されない。
意識を失えば、意識を取り戻すまで、水や熱湯をかけられる。
お前を殺したい、とヒジリはサン・マリーの拷問が始まる前に言っていた。
けれどじゅうぶんに苦しめるまでは、死なせない、と。
美しい赤い髪の、美しい女だった。
幼いころから知った娘だった。
ずっと、ヒジリと結婚したいと言っていた少女だった。
いつもいつも美しく着飾り、髪も、肌も、爪も、表情さえも、美しく整えた令嬢だった。
今は、皮をはがれた獣のように全身に傷を負い、意識を失い、ヒジリの足元に転がっている。
ヒジリは手近にある桶に入った氷水を、サン・マリーの顔にかけた。
「うぐぅ……っ」
「起きろ。まだお前は死なせはしない」
ヒジリの言葉に、サン・マリーの絶望はまた一段と深くなった。
いまやサン・マリーにとって、望みはたったひとつだった。
(殺して……、今すぐ殺して、楽にして……)
サン・マリーと一緒に捕らえられた盗賊団の男たちは、みんなもう死んでしまった。
もうこのような痛みと無縁の場所に、逃れられた。
なんてうらやましいことか。
サン・マリーは、いまだこの痛みから逃れられる「死」という恩寵を与えられていないのに。
(殺して……、今すぐ殺して、楽にして……)
なんども、なんども、祈るように、心の中でくりかえす。
まともな意味を持つ言葉は、もう口にできない。
サン・マリーの口に、歯は残っていない。
すべて、抜かれてしまった。
あの時の痛みで、死ねればよかったのに。
つい先日までは、サン・マリーは、熱過ぎる紅茶を出されれば、一口飲んでカップを投げ、そのメイドを紹介状ももたさずに解雇した。
紹介状なしでの解雇では、次の職場など見つからないことを承知の上だった。
自分の舌にやけどを負わせたのだから当然だと、サン・マリーは思っていた。
あるいは、髪を整える際、髪をひっぱりすぎて、サン・マリーに痛みを与えたメイドがいた時は、メイドを鞭打ちすることを命じた。
自分に痛い思いをさせたのだから当然だと、サン・マリーは思っていた。
だけど、あんなのは痛みのうちに入らなかった、と今のサン・マリーは思う。
歯は、抜かれた。
爪も、残っていない。
脚は1本折られた。
あと、脚は1本、手は2本、指もまだぜんぶ折られてもなければ、切り落とされてもいない。
鼻も、目も、耳も残っている。
いまから、それも折られたり、そがれたりするのだろう。
あの盗賊団の男たちがされたように。
いっそ気が狂ってしまいたい、と思う。
気を失っている間に、死なせてもらえればいいのに、と願う。
けれど、それは許されない。
意識を失えば、意識を取り戻すまで、水や熱湯をかけられる。
お前を殺したい、とヒジリはサン・マリーの拷問が始まる前に言っていた。
けれどじゅうぶんに苦しめるまでは、死なせない、と。
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