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選挙活動 ~senkyo katsudo ➀

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早速わたしは生徒会執行部への立候補の為、担任に申請の書類を提出した。

申請自体はとても容易で誰でも出来る。
後は校内に貼る選挙ポスターの制作をすればいいだけだった。

まず学年と氏名は必須。
後は新しい校則のマニフェストなんだけど…

さて、何にしようか。
別に元々生徒会には興味なんてなかった。生徒会長になるのは、あくまでも桐生珪を見下す為。
だから全校生徒が満足するようなマニフェストを用意しないと、選挙で桐生珪に負けてしまうんだ!

全校生徒が満足するような校則…

テストの難易度を下げてもらう…とか?

制服をもっとおしゃれにする…とか…?

学校の休日を増やす…

…我ながらバカバカしいマニフェストだ。
うぅーん。こうやって改めて考えると、案外難しいものかもしれない…。




__放課後
部活動は何もやってないわたしは1人で早々と帰宅し、選挙ポスター制作の続きをした。

部屋のデスクにつき、ポスター用紙を前ににらめっこをする。

あー…何て書こう。
せめてインパクトのあるものにしたい。
桐生珪もビックリするようなスゴいマニフェスト………


その時、

_コンコン

「っ!?」

ママがドアをノックしてわたしの部屋に入って来たので、慌ててデスクに置いたポスター用紙を隠そうとした。


「千歳、ママお買い物に行くから……あら?
何をしてたの?」

いきなり挙動不審になったわたしに不信感を抱いたママは、わたしのデスクに近付いてきた。

「あ あのママ、これは…っ
…生徒会選挙のポスターを書こうと、思って…」

進学に関係ない事はするなって言われるかもしれない。
だって、わたしはあくまでも桐生珪を見下す為だけに生徒会に立候補しただけだもん。

「あら。
千歳、生徒会長になるの?
いいんじゃない?」

「え…」

ところが、意外にもママは生徒会に対して好印象を持っていたようだった。

「生徒会長なら内申的にもプラスになるものね。
いい選択したわねぇ」

内申的…。
そう、そうよね。あくまでも進学に有利な事をすればいいって意味なんだ。
ママの考えそうな事だったわ。

わたしは何を考えていたのよ。進学を有利にする為に生徒会に入らなきゃいけなかったのよね。
桐生珪を見下すだなんて、そんな事は眼中にある方が間違ってたんだわ…。


「うん…。
生徒会長になれるように、わたし頑張るね…」

「えぇ。千歳ならきっと出来るわ!頑張ってね」

そう言ってママは上機嫌でわたしの部屋を出て行った。

進学の為。
内申の為。
…うん、頑張ろう…。




__翌日
早速わたしは校内に、自分の選挙ポスターを貼った。

結局書いたのは、学年と氏名。
それからマニフェストは…

「あれ?
榊さんも生徒会執行部に立候補したんだ」

わたしが自分のポスターを見ていると、またしても後ろから聞き覚えのある声をかけられた。

…桐生珪だ。

相変わらず余裕の表情でわたしを見るその目。
認めたくはないけど、整った顔立ちにそのムカつく目はサマにはなっている。

「…桐生君。
そうよ、生徒会執行部になるという事は、結果自分にプラスになるもの」

きっかけはアンタを見下す為…だったなんて、もちろん言えないんだけどねっ

すると桐生珪はわたしの側に並び、わたしの貼った選挙ポスターを見た。


「“…わたしが生徒会長になったら、より勤勉に励みやすい環境の提案をします”…か。
榊って勉強、本当に好きなんだね」

わたしが勉強を好きですって?
何も知らないクセに!

わたしが勉強頑張ってんのはママの為。
わたしが生徒会に立候補したのもママの為。
わたしは…自分を押し殺してまで頑張ってんのに、それを勉強を好きだなんて…!

余計なお世話なのよ!!
…て言葉をグッと堪え、唇を噛む。


「…ま、生徒会長になる人物を決めるのは生徒たちの清き1票だ。
お互い頑張ろーぜ」

好きな事を言うだけ言って、桐生珪はまたわたしをあざ笑うように去って行った。

…やっぱり、ムカつく!
絶対わたしが当選して桐生珪を見下してやる!
一応の目的が内申点であろうとしても、桐生珪を見下す事は絶対にしてやるんだから!


「…だけど…」

アイツ、わたしのマニフェストを見てもちっとも驚かなかった。勤勉に励みやすい環境なんて、インパクトが小さかったのかな…。
桐生珪は、一体どんなマニフェストを考えているのよ…っ






__それから数日

生徒会選挙の日が近付くにつれ、選挙ポスターを興味深く見る生徒が増えてきた。
新しい校則を作るという事もあり、誰に1票を入れるか生徒たちもやたら熱が入るんだ。

だから、個人的な要求としか思えないマニフェストを書いているポスターでさえも、やたらチェックは入れられている。

それに対して真面目一徹みたいなわたしのマニフェストはウケが悪いかと思いきや、ここはバリバリの進学校。本気で進学を目指す生徒たちからすれば、人気も少なくない。

…なのに。

なのになのに!

名前しか書いていない桐生珪のポスターには必ずと言っていい程、生徒が集まっている。
…特に女子が。


「あたし絶対、桐生君に1票入れるー!」

「私もー!
桐生クン応援しちゃうなぁ!」

…ちょっと顔がイケメンだからって、それだけで生徒会長になんかなれない事、わたしが教えてあげるんだから!






授業が終わり放課後になると、部活動をしている生徒は各々の場所に散り、帰宅部の生徒は皆帰路に着く。

わたしはまっすぐ帰る前に、校舎3階の一番奥にあるらしい生徒会室の方へ行ってみた。

基本的に生徒会室は一般生徒の入室は禁止されている。階段を上がり廊下の先に進んだ所で、今のわたしには生徒会室の鍵のかかったドアしか見る事が出来ない。


「…ここが、生徒会室…」

ドアだけとは言え、生徒会室に足を運ぶ事さえ今までなかったのだから、一応入学して初めて見るドアだ。

何の変哲もない、他の教室と変わらないドア。
…わたしが本当に生徒会長になったら、ここに来る事になるんだ。

中がどうなっているのかは知らない。
もし見れる日が来るとすれば、当選して生徒会長になれたその時だ。

なんだか…これはこれで、わたしも楽しみになってきたかもしれない。

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