4 / 52
②
しおりを挟む
10月に入ってすぐ、いよいよ選挙当日になった。
この日の授業は一切無く、午前中丸々を使って立候補者の演説会を行い、昼休みを挟んだ午後に一般生徒たちによって総選挙が行われる。
選挙が終わると、立候補者と一般生徒は下校になり部活動もない。
そして残った現生徒会の執行部が開票をするわけだ。
開票の結果、当選者…つまり次の新しい生徒会長に選ばれた生徒の発表は翌日の朝に学校内に張り出されるようになる。
全校生徒300人程度のうちの高校で、生徒会に立候補したのは23人。
1時間目の時間帯。
一般生徒たちは各教室にて立候補者のリストを確認し、わたしたち立候補者は体育館に集まり、演説の順番をくじ引きで決める。
わたしの順番は…22番目。
最後から2番目だ。
小休憩を挟み2時間目の時間帯になると一般生徒たちも体育館に集まり、いよいよ演説会が始まる。
クジで1番を引いた生徒から順番に演説を開始した。
「2年A組の石丸始です!
僕が目指す生徒会は、毎日の学校生活が楽しく円滑に過ごせるように…」
他の立候補者が演説している最中は、体育館の舞台裏で控える。
演説中の声はマイクで喋るから、舞台裏までよく聞こえてくる。それを聞いている立候補者もいれば、自分の演説用に用意したメモを読み返している者もいた。
わたしはと言うと…
狭い舞台裏に集まる立候補者の中に壁にもたれるように立って腕を組んでいる桐生珪、彼の事が気になって何度も見ていた。
目をつむり、すました顔で順番を待つ桐生珪。
立候補者はお互いの順番を知らない。
アイツは何番目なのかしら…?
「1年A組、三原太です。
えっと、俺が生徒会長になったら、まずは体育の授業を改善したいです!
現在の体育授業は、何故か男女別々という理不尽な形態を取っています。
この世には男と女しかいないというのに、そのたった2種類の生き物を別々に……」
1人5分程度の演説が次々と行われていく。
時折、演説を聞いた生徒たちから「おぉーっ」という歓声が聞こえてくる。それは立候補者の演説に共感を得た証とも言える声だろう。
一応聞いていたわたしからすれば、本っっ当にくだらないと心の中で思うばかりだ。
それは桐生珪も同じなのか、全く微動だにする事なく静かに順番を待っていた。
…ただのバカではないみたいね。
そういえば、この日まで結局コイツのマニフェストはわからないままだった。
どんな演説をしてくるつもりなのか、是非聞いてやるんだからっ
次々と立候補者が演説を進める。
2時間目にあたる時間帯が終了し、小休憩を挟んだ後はまた3時間目の時間帯から演説の続きは始まった。
ある者は笑いで一般生徒からのウケを取ったり、ある者は堅苦しい真面目な演説をしたり。
だけれども、どれを取ってもパッとするような演説を聞く事はなかった。
しかも肝心の桐生珪の演説も未だ回ってこない。
そうして退屈でつまらない演説はどんどんと終わりに向かっている。
やがて3時間目にあたる時間帯が終わり、小休憩の後いよいよ最後の4時間目の時間帯になった。
順番は巡り、わたしの出番も近付いてきた。
何事にも動じないつもりのわたしだったが、さすがに緊張してくる。
必ず当選して生徒会長になってやる…!
汗ばむ拳をグッと握りしめ、わたしは自分の順番を待った。
わたしの前の順番である21番が演説に向かった。
…あれ?
今まで桐生珪の演説はなかった。
次はわたし。
…て事は、わたしの次が桐生珪の番だったって事?
「……以上で、私の演説を終わります。
皆さまの清き1票、宜しくお願いします!」
21番の立候補者の演説が終わった。
次はいよいよわたしの番だ!
わたしは舞台に向かう途中、チラッと後ろにいる桐生珪を見た。
「……………!」
ずっと目のつむって順番を待っていた桐生珪が、目を開けてわたしを見ていたのだ。
目が合った瞬間、フッとわたしに意地悪そうな笑みを見せた桐生珪。
何よ!
アンタにだけは、絶対負けないんだからっ
わたしの演説を聞いて驚けばいいわ!
わたしはフンと鼻をならすと、舞台に向かって歩いた。
全校生徒から注目を浴びる体育館の舞台上。
演説台の上にはマイクが置かれているだけ。
一般生徒の側には教師たちも並んで聞いている。
演説台に立ち、ゴクリと唾を飲む。
わたしが生徒会長になる為の貴重な舞台。
高校受験の面接の時よりもずっと緊張しているかもしれない。
心臓がドクドクと響いて止まない。
失敗するわけにはいかない演説タイム。
内申の為。
ママの為。
そして、桐生珪を見下してやる為…!
わたしは一度唇を舐めると、マイクに向かって口を開いた。
「…1年A組、榊千歳です。
わたしが提案するマニフェストは、ポスターにあったように勤勉に励みやすい環境の提案をしたいと思います。
その具体的な内容として………」
マイク越しに聞いているだろう桐生珪。
わたしのマニフェストを聞いて驚きなさい!
この日の授業は一切無く、午前中丸々を使って立候補者の演説会を行い、昼休みを挟んだ午後に一般生徒たちによって総選挙が行われる。
選挙が終わると、立候補者と一般生徒は下校になり部活動もない。
そして残った現生徒会の執行部が開票をするわけだ。
開票の結果、当選者…つまり次の新しい生徒会長に選ばれた生徒の発表は翌日の朝に学校内に張り出されるようになる。
全校生徒300人程度のうちの高校で、生徒会に立候補したのは23人。
1時間目の時間帯。
一般生徒たちは各教室にて立候補者のリストを確認し、わたしたち立候補者は体育館に集まり、演説の順番をくじ引きで決める。
わたしの順番は…22番目。
最後から2番目だ。
小休憩を挟み2時間目の時間帯になると一般生徒たちも体育館に集まり、いよいよ演説会が始まる。
クジで1番を引いた生徒から順番に演説を開始した。
「2年A組の石丸始です!
僕が目指す生徒会は、毎日の学校生活が楽しく円滑に過ごせるように…」
他の立候補者が演説している最中は、体育館の舞台裏で控える。
演説中の声はマイクで喋るから、舞台裏までよく聞こえてくる。それを聞いている立候補者もいれば、自分の演説用に用意したメモを読み返している者もいた。
わたしはと言うと…
狭い舞台裏に集まる立候補者の中に壁にもたれるように立って腕を組んでいる桐生珪、彼の事が気になって何度も見ていた。
目をつむり、すました顔で順番を待つ桐生珪。
立候補者はお互いの順番を知らない。
アイツは何番目なのかしら…?
「1年A組、三原太です。
えっと、俺が生徒会長になったら、まずは体育の授業を改善したいです!
現在の体育授業は、何故か男女別々という理不尽な形態を取っています。
この世には男と女しかいないというのに、そのたった2種類の生き物を別々に……」
1人5分程度の演説が次々と行われていく。
時折、演説を聞いた生徒たちから「おぉーっ」という歓声が聞こえてくる。それは立候補者の演説に共感を得た証とも言える声だろう。
一応聞いていたわたしからすれば、本っっ当にくだらないと心の中で思うばかりだ。
それは桐生珪も同じなのか、全く微動だにする事なく静かに順番を待っていた。
…ただのバカではないみたいね。
そういえば、この日まで結局コイツのマニフェストはわからないままだった。
どんな演説をしてくるつもりなのか、是非聞いてやるんだからっ
次々と立候補者が演説を進める。
2時間目にあたる時間帯が終了し、小休憩を挟んだ後はまた3時間目の時間帯から演説の続きは始まった。
ある者は笑いで一般生徒からのウケを取ったり、ある者は堅苦しい真面目な演説をしたり。
だけれども、どれを取ってもパッとするような演説を聞く事はなかった。
しかも肝心の桐生珪の演説も未だ回ってこない。
そうして退屈でつまらない演説はどんどんと終わりに向かっている。
やがて3時間目にあたる時間帯が終わり、小休憩の後いよいよ最後の4時間目の時間帯になった。
順番は巡り、わたしの出番も近付いてきた。
何事にも動じないつもりのわたしだったが、さすがに緊張してくる。
必ず当選して生徒会長になってやる…!
汗ばむ拳をグッと握りしめ、わたしは自分の順番を待った。
わたしの前の順番である21番が演説に向かった。
…あれ?
今まで桐生珪の演説はなかった。
次はわたし。
…て事は、わたしの次が桐生珪の番だったって事?
「……以上で、私の演説を終わります。
皆さまの清き1票、宜しくお願いします!」
21番の立候補者の演説が終わった。
次はいよいよわたしの番だ!
わたしは舞台に向かう途中、チラッと後ろにいる桐生珪を見た。
「……………!」
ずっと目のつむって順番を待っていた桐生珪が、目を開けてわたしを見ていたのだ。
目が合った瞬間、フッとわたしに意地悪そうな笑みを見せた桐生珪。
何よ!
アンタにだけは、絶対負けないんだからっ
わたしの演説を聞いて驚けばいいわ!
わたしはフンと鼻をならすと、舞台に向かって歩いた。
全校生徒から注目を浴びる体育館の舞台上。
演説台の上にはマイクが置かれているだけ。
一般生徒の側には教師たちも並んで聞いている。
演説台に立ち、ゴクリと唾を飲む。
わたしが生徒会長になる為の貴重な舞台。
高校受験の面接の時よりもずっと緊張しているかもしれない。
心臓がドクドクと響いて止まない。
失敗するわけにはいかない演説タイム。
内申の為。
ママの為。
そして、桐生珪を見下してやる為…!
わたしは一度唇を舐めると、マイクに向かって口を開いた。
「…1年A組、榊千歳です。
わたしが提案するマニフェストは、ポスターにあったように勤勉に励みやすい環境の提案をしたいと思います。
その具体的な内容として………」
マイク越しに聞いているだろう桐生珪。
わたしのマニフェストを聞いて驚きなさい!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる