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カギのかかっていた生徒会室。
今わたしが開けたから当然誰もいないものだと思った。

だけど目の前には、桐生珪が既に長机のイスに着いていた。


「ビッ…クリした…。
何してるのよ、桐生君」

「…ここさぁ、一般生徒は入って来れないだろ?
執行部だって、カギがないと開けられない。
つまり…オレたちには一番自由を感じる空間だと思わない?」

いつもの意地悪そうな表情とは違う…どこかしら気の緩んだ顔。
桐生珪のこんな顔を見るのは、初めてだ。


「…いつから、ここにいたの?」

「ん?さっき来たばかりだよ。
当たり前だろ」

「そっか…」

わたしは手に持ったファイルを机に置くと、昨日と同じように桐生珪の隣に座った。


一番自由を感じる空間…
まさかそんな事を言ってくるなんて思わなかったな。何だか調子狂う。

「あの。
この資料、とりあえず読んできたわ」

「え、全部?
すげぇな。オレだってまだ半分くらいしか読んでないよ」

ふぁぁとあくびをしながら桐生珪は返した。
何よ、こっちは気合い入れて読んで来たってのに!


「今日は何を話すの?
やっぱり総会に向けての校則の件?」

「あぁ、そうだよ。
総会で決定すれば、翌日からいよいよ決行だ。
この学校もやっと恋愛の自由が取り戻せるってものだね」


恋愛禁止令の解除なんて、本当にするつもりなんだ!
でも総会で決定が決まるなら、まだ変える事だって出来るわけよね。
だったら…

「ねぇちょっと。
やっぱりそんなふざけた事を校則にするなんて勿体無いと思わない?
せっかく校則を生徒で作る事が出来るのよ。もっと意味のある事の方が良いと思う」


あくまでも冷静に。
言ってる事はもっともだけども、わたしとしては桐生珪の思い通りにさせたくないって思いの方が大きかった。
もちろんそれはバレないようにだけど。

「え?
榊は恋愛の自由は反対なの?」

「ちょ…っ」

え?
何コイツ、いきなりわたしを榊って呼び捨てなの?
自分の事を本当に生徒会長さまなんて思ってんのかしらっ


「れ、恋愛なんて!
今のわたしたちには恋愛よりも勉強の方が大事でしょ?
そもそもわたしは反対だわっ」

あーっ、ムカつく!
こうなったらとことん反対してやるわ!
…地が出ない程度にね。


「何で?恋愛だって大事だと思うよ。
榊には好きな人とかいないの?」

「いないわよ!
好きな人なんて、必要ないもの」

何より勉強の妨げになるものは、ママが許さない。
恋愛なんか…いっそ禁止されてる方が、余計な事考えなくて済むから楽に違いない。


「必要ない…か」

桐生珪の言葉に、わたしは無視をした。
今日の話し合いでは、とことんコイツのマニフェストを反対してやるんだから!

そうよ、たった2票の差なんだ。
他の3人を説得すれば、わたしのマニフェストを押し通す事ぐらい出来るかもしれないもんね。


「榊…。
榊は校則違反を犯した生徒がどんな始末を受けるか、知ってるか?」

「…え?」

急に何を言い出すんだろう。
桐生珪は座っていたイスから立ち上がり、隣のわたしの方を向いた。


「…知らないわよ。
だいたい校則違反なんて、わたしには関係な……んんっ」

ファイルに目を向けたまままだ喋っていた口が急に塞がれ、わたしは言葉を遮られた。

急に肩を掴まれた感覚があったかと思った矢先の事だった。
だからわたしには、何が起こったのかすぐにはわからなかったんだ。

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