秘密の生徒会室 君とふたりきり

むらさ樹

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叶さんは持っていた通学カバンを開けて、ガサガサと何か白い封筒のような物を取り出した。

「あのね、榊さん。一生のお願いがあるんだけどー。
まだ桐生クンが生徒会室にいるんなら、これ渡してほしいの!」

いくら友情も恋愛もないわたしにだって、ピンときた。
ラブレターって奴だ。


「だけど、今はまだ恋愛禁止になってるじゃない?
校則違反になっちゃうよ」

校則違反なんて言葉を口にして、ドキッとする。
本当に校則違反したのは、わたしの方なんだから。


「大丈夫大丈夫!
あたしが榊さんに手紙託すのも、榊さんが桐生クンに手紙渡すのも恋愛行為じゃないでしょ?
返事は校則が決まった翌日にしてもらうように書いてるから、誰も違反にならないのー」


そんな風に言われてしまうと、わたしも断る事が出来なくなってしまった…。

「じゃあこれね。渡してくれるだけでいいから。
あ、他の女子とかには内緒だよ!
ありがと、じゃあねーっ」


まだロクに返事もしてないのに、叶さんはほぼ無理やりわたしに手紙を手渡すと、そそくさと帰って行った。

「ぁ、ちょっと…っ」

なんて言った時には既に視界の向こう。

こんな時に限って、面倒な事を頼まれてしまった…。
一応手紙だから、わたしが勝手に処分するわけにもいかない。あの勢いじゃあ、今更叶さんに返す事も出来そうにないし…。

だとすると…これは桐生珪に渡すしかないのか…。



今泣きながら飛び出しちゃったから、本当は今日はもう会いたくはない。
明日にしようか…。

だけど、もう明日から生徒会室にも行かないつもりだったし…。

ま、渡すだけでいいからって言ってたもんね。
さっさと渡して帰れば、問題ないかな…。


「……………あぁもう!」

もう一度上靴に履き替え、さっき下りた階段をまた上がった。


桐生珪はまだ生徒会室にいるかしら。
それとも、一応やる事はみんな済んでるわけだし、もう家に帰ってるかな。

…いっそ帰ってくれてた方が、わたしとしても都合が良い。
出来れば会いたくないもんね。


3階まで上がり、長い廊下を歩いてその突き当たりにある生徒会室のドアの前で止まる。

…中の照明がついたままになっている。
桐生珪は、まだ居るんだ。

気まずい。
気まずいんだけど、とりあえず預かった手紙だけは渡さなきゃ…。

2~3回深呼吸をした後ドアに手をかけると、ゆっくりとなるべく音を立てないようにして生徒会室のドアを開けた。

「…………………」

そっと中の様子を見てみると、机の上にはメンバーたちと書き上げた書類。

そして桐生珪は………
机には着いておらず、カーテンの閉めてある窓辺から少し覗くように窓の外を見ていた。

生徒会室の中に身体を滑らせると、また同じようにドアをゆっくりと閉めた。
桐生珪はずっと窓の外を見ているから、多分まだわたしが来ている事に気付いていないのかも。

このまま机の上にそっと手紙を置いて、黙って帰ろう。
ここに置いておけば、気付くわよね。

一応本人のもとに渡ればいいんだから、わたしはこれで約束を果たした事になる……


「郵便配達、ご苦労様」

「っ!」

背を向けたまま、桐生珪は言った。
まさか気付いていたなんて知らなくて、驚いて全身がビクっと震えた。

「どうして、それを…」

「上から見てたんだよ。ここから昇降口出た辺りは見えるからな。
榊が帰る所を見ようと思ってたら、余計なものまで見えたんだよ」

あ…。
確かに、位置的に生徒会室の窓なら昇降口は見えるのかも。

「…アンタに渡してって頼まれたから、それで仕方なくよ。
ここ置いといたから。じゃあね…」


長机の、揃えられた書類の上に預かった手紙を置いた。
そしてそのまままっすぐ、生徒会室を出ようとした。

「榊…」

やっぱり呼び止められた。

わたしは別に話す事なんてない。
頼まれた仕事をこなしただけだ。
呼び止められた所で、何も話す事なんて…

だけど、呼ばれたその続きを聞こうと、わたしの足は桐生珪の方を向いていた。


「…やっぱりなんでもない」


返ってきた言葉に、少しだけがっかりした。
別に何を期待してたってわけじゃないんだけど。


「…あそう。
じゃあね」

そう言って、わたしはまた生徒会室のドアを開けて出た。


何を言おうとしてたんだろう。
すごく気になったけど…それを聞く事が、わたしには出来なかった……。




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