25 / 52
本音 ~honne ➀
しおりを挟む「へぇ~、榊は医者になるんだ。
すげぇな!」
__鍵のかかった生徒会室。
仮に教員の誰かが来たとしても急にドアを開けたりは出来ないから、今は本当に密閉されたふたりだけの空間。
わたしは桐生珪と隣同士で座ると、ゆっくりと自分の事を話した。
「なるっていうか、ならされるのよ。
わたしは別になりたいわけじゃないもの。
パパがドクターやってるから、ママはわたしもドクターにしたいのよ」
「榊ん家って開業してんの?」
「そういうわけじゃないんだけどね。
全部ママのワガママよ」
そう、その為にわたしには普通の女子学生らしい生活は送っていなかった。学校行って勉強して、家に帰っても勉強して。また朝には学校行って…。
楽しい事なんて何にもない。ま、頭の悪い友だちなんか欲しいとも思ってないんだけども。
「だから勉強頑張ってたんだな」
「まぁね…」
とはいえ、誰かにそうやって理解をしてもらえると、何だか勉強に対して重く感じてたものが少しだけ軽くなったような気がした。
こんな事を誰かに話したの、初めてだからかな。
「で?桐生君は何の為に勉強頑張ってんの?」
「オレ?
オレは単に天才なの」
「アンタねぇ」
「冗談だよっ
オレは助成金の為。ここで良い成績残すのを条件に、タダで高校行かせてもらってんの!」
助成金?
タダ?
確かに、そんな制度を聞いた事はある。
だけどよっぽど貧乏かよっぽど頭が良い生徒とかじゃないとそんな事…
「オレん家、兄弟はいるけど親はいないんだ」
「えぇっ」
「だから、国から支給されてるお金は殆ど生活費に回してて、学費はこうしないと高校も行けないわけ。
あ、誰にも言うなよ?生徒会長が貧乏で親無しだなんて、絶対ネタにされるもんな」
「わ、わかってるわよ…っ」
まさか桐生珪に、そんな秘密があったなんて知らなかった。もちろん、そんな秘密を知る由もなかったんだけど。
だけど…両親ともいなくて兄弟だけって…。
普段そんな素振りは全く見せなかったのに、桐生珪にもこんな事情があったなんてね…。
「でも家に両親がいないって…おじいちゃんとかおばあちゃんとかは…?」
「一応母方のじーさんに世話してもらってたんだけど、そのじーさんもこの間死んじゃったからなぁ」
あ…。
先週、忌引で休んでたっけ。
じゃあ頼れる人とかは、誰もいなくなっちゃった…?
「だから…桐生君は勉強も頑張ってるし、生徒会長にもなったのね」
うちはお金で苦労するなんてないから、桐生珪のそんな苦労なんてちっとも気付いてあげられなかった。
わたしの事も、自分に無いものを持ってるって言ってたけど、そういう意味だったんだ。
「榊、それは一部違うぞ」
「え、何が?」
「生徒会長になるのは別に条件じゃない。
この学校の、生徒会長になったら校則を作れるって話に乗っただけだ」
「あ…そうなんだ…」
でもコイツのマニフェストは恋愛の自由化。
しかもせっかく生徒会長になって校則の案を提出する権利を得たってのに、それもわたしの案に変えちゃったり。
これじゃあ意味をなさないんじゃない?
「じゃあどうして…わたしの案に譲ってくれたのよ。
恋愛したくて恋愛禁止令を解除する予定じゃなかったの?」
「あぁ、そうだったよ。
だけど禁止されてた方がいいんだ。そうすりゃ誰もオレや榊に声をかけてこれなくなるもんな」
「…ねぇ、意味わかんないんだけど。
結局アンタは何がしたかったのよ」
それじゃあ恋愛したいんだかしたくないんだかわかんないじゃないっ
恋愛したいのに声をかけてこれなくなるのがいいわけ?
「…榊。
お前まだわからねぇの?
頭良いんだか悪いんだか、それこそわかんねぇな」
「な、なによっ
アンタの考えてる事なんか誰だってわかるわけないでしょ!!」
「…好きなんだよ。
榊の事が」
「…………は……?」
桐生珪の言葉は、わたしには未だ理解出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる