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脅迫 ~kyo‐haku ➀

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あれだけイライラしていたのに、ウソみたいにそんな気持ちがなくなった。

勝手にライバル視してた筈なのに、今はそんな風に思えなくて。努力したり苦労してたり、そんな共通点があるって知ってからは、何だかお互いが共感し合えるの。

この学校に入って試験で抜かれたあの時から、桐生珪に対しては打ち負かすことしか考えてなかった。
見下してやる事がわたしの目標だった。

でも、今は違う。

一緒にいて心地いい。
この特別な空間、生徒会室で桐生珪と一緒にいる時間は、わたしにとって唯一本当の自分に戻れる時。

だから…次第にわたしは、そんな時が待ち遠しくさえなってきたんだ。

……これから、それを打ち壊すような出来事が起こるなんて事も知らないで。










「…できたっ」

学校にいる時間だけでは足りなくて、また持って帰って書いた教師選択化の案。

予め掲げた教師たちの授業時間を、生徒は自分で選んでその教室に行って授業を受けるようにする。
受けなきゃならない授業数ほど、生徒は自分で日課を組み立てて受けるようにするのだ。

ただし1教室に着ける席の数は決まっているから、人気の教師には生徒が集中するので早めに席をキープしなければならない。
席から漏れた生徒はもちろん授業が受けられないから、その時間帯は違う教室で違う教科の授業を受ける事になる………

何だか大学や自動車学校に近いシステムかな。
うん、とりあえずレポート用紙にまとめた清書を明日提出する事にしよう。一応学校からの許可がないと、実行にはならないだろうし。

生徒会の仕事も、もちろんこれで終わりではなく次は11月の文化祭の企画を立てないといけない。まぁだいたい去年と同じ事をする形になるので、今回みたいに頭を捻るような事にはならないと思うけど。

ようやく終わった新しいシステムの提案書をクリアファイルにしまうと、部屋のドアをノックしてママが入ってきた。

「千歳、頑張ってる?」

「ママ。
うん、やっと提案書を書き上げたところ」

「すごいわよね、生徒会長は学校のシステムまで変えちゃうんだから」

「あ…うん…」

些細な勘違いとは思うんだけど、これをいつママにちゃんと言うべきかと思う。
いや、言う必要ないって言えばないんだけど。


「あら、これ生徒会の広報誌?
見せてもらっていい?」

ママはわたしのデスクに置いていた広報誌を見つけて、ペラペラとページをめくり始めた。

11月の文化祭さえ終わったら、後はしばらく忙しい活動はないだろうな。学期に1度あるクラスマッチだとか、小さな行事も生徒会が企画する形になってるから何もする事がないわけじゃないんだけど、去年の真似事なので毎日メンバーが集まる必要はない。

必要は、ないんだけど…生徒会室に行って桐生珪と会うだけでもわたしには価値がある。

会いたいなんて直接言えないけど、理由なんていくらでも作れるよね。だいたい桐生珪の方から会いたいって言ってくれるんだから…。


「…ねぇ千歳、これ間違ってるんじゃない?」

「え?」

会報誌をめくっていたママの手が止まった。

一応メンバー全員が目を通してから印刷をしたんだから、そうそう全員が見落とすような誤字脱字はないはず。
そう思いながらママの指差す箇所を覗いてみた。
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