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アンタなんか、顔も見たくないくらい嫌いよ!
桐生珪なんか、見下してやるわ!
いつもいつも頭の中に現れて、いい迷惑してるのよ!

…て、思っていた。
だけど、こんなにも夢中になってしまっていたのは事実。

わたしに安らぎの場を与えてくれた桐生君。
わたしなんかを好きになってくれた桐生君。
今までこんなにヒドい事を言ったりしてきたのに、それでもわたしを好きって言ってくれる。


「………き……」

じわじわと目頭が熱くなり、はらはらと涙が頬を濡らしていく。

「…すき…
わたしは桐生君が…好き…っ」

そんな顔して訊かれたら、もうウソなんて言えないじゃない。

グッと堪えてた本音が口からこぼれた瞬間、ブワッと胸の奥まで熱くなっていった。


「…バカ。
言えって言ったら言わないクセに、言わなくていいって言ったら言うんだな」

桐生君は…そんなわたしをギュっと抱きしめてくれた。


「…よかった…
本当によかった…」

抱きしめたわたしの耳元で、桐生君はそう囁いた。

更科に聞かれていないかとずっと心配していたけど、こうやってまた桐生君に抱きしめられていると、今だけ全ての嫌な事が頭から消えてしまっていた。


ギュっと身体を包まれる安心感。
ドキドキが聞こえそうなくらいの密着に、あったかい桐生君のぬくもりが伝わる。

ずっと、こうしていられたら…。


「榊。
じゃあ…キスしてもいい?」

「でも、そんな事したら…」

「大丈夫、音なんてたてたりしないから。
榊も声出すなよ」

「そうじゃな……ん…っ」

違うよ。
わたしが心配したのは…キスなんかしちゃったら、もう桐生君から離れられなくなっちゃうから!

…て、もう遅いんだからね。








「ねぇ桐生君、次の総会って…」

包まれた腕の中で、わたしは桐生君に訊いた。

「何で臨時総会なんて開くの?
他のメンバーたちもよく知らないみたいだったけど。
わたしの案、やっぱりおかしい所あった?」

鼻に桐生君の肩があたって、桐生君のにおいがする。
嫌いじゃない、むしろわたしの好きなにおい…。


「そんなんじゃないよ。
さっきの榊の話聞いて、やっぱり決心したんだ。
悪いけど、榊のあのマニフェストは変えてもいいか?」

「え?
それはいいけど…。
わたしの話って?」


桐生君がわたしの提案書を持ってたから、何かあるんだと思ってた。
だけど、それがわたしの話と何の関係が?


「ははっ
それは、次の総会でわかるよ」

桐生君は笑っただけで、結局その答えは言わなかった。




ふたりきりの特別な空間
生徒会室。

やがて、昼休みの終わるチャイムが鳴った。

「わ。
早く戻らないとっ」

身体を起こそうとするわたしに、桐生君は腕に力を入れて離さなかった。


「大丈夫さ、次は授業じゃなくて総会なんだから。
他の生徒が体育館に集まるのに時間かかるし、何よりオレたちは執行部だ。
ちょっとくらい遅れたって言い訳できる」

「そう…かな」

「だからさ。
もう少しだけ、こうしてようよ」


総会前に生徒会室に集まるなんて話はなかったから、チャイムが鳴っても更科がドア付近をうろついてるなどはないだろう。

だから___

「…うん」

わたしたちはもうしばらくこの空間で、ふたりきりの時間に浸っていた。





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