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歪んだ愛のプロローグ
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_______
________
________…
1年以上も経つというのに、どうして彼女の事だけは忘れられないのだろうかと思う。
星の数ほどの女性を相手にしてきた僕だけど、それでもこんなに恋い焦がれたのは彼女だけだった。
今では他の男のものになってしまい、早く忘れなくてはならないのに。
だからこそ僕は仕事に打ち込む事で、彼女を忘れようと努力していた。
…の、だけど___
神様はそんな僕にささやかな安らぎを与えようとしたのか、或いは意地悪な悪戯をしようというのか。
__『ねぇ陸君、もしかして…お姉さんいる?』
__『えぇっ?
よくわかりましたね!
はい、うちには姉貴が1人いますけど…』
偶然にも彼女の実弟がうちのホストクラブにバイト面接に来たんだ。
__23時47分
お客の引いてきた閉店間際。
「RIKU☆、後で僕の部屋に来てくれるかな。少し話したい事があるんだ。
…特別手当て、つけるから」
「えっ マジですか!?
了解でーすw」
RIKU☆の返事を確認すると、僕はブドウジュースのボトルを1つ冷蔵庫から取り出して自分の部屋へと向かった。
RIKU☆がアルコールを飲めないのは、面接の際に聞いていた。
そんなとこまで彼女と似ていると、ますます僕はRIKU☆と彼女を重ねて見てしまう。
…それが普通じゃないって思っていても、それでも僕はとうとう行動に出てしまったんだ。
自分でもどうかしてるって、わかってたのに…。
部屋に着いて仕事用デスクの前に立つと、僕はまず持ってきたブドウジュースの口を開けた。
ソフトドリンクとはいえ、このホストクラブで扱ってる商品だ。質は良く、銘柄もしっかりしている。
そんなブドウジュースの口を開けると…
僕はデスクの引き出しから粉末の薬を取り出して、サラサラとそのブドウジュースのボトルの中に入れた。
「………………」
おかしな薬なんかではない。
僕が処方してもらっている、睡眠薬だ。
効果は短いが、早く眠りにつけるのがこの薬のいい所でもある。
…もっとも、この使い方自体は非常にアブノーマルかもしれないけどね。
再びキャップを閉めると、僕は椅子に座って待った。
彼女の実弟である、RIKU☆を。
…いくら僕でも、別にRIKU☆に妙な事をするつもりはない。
ただ…
ほんの少しでいい、一緒にいたいんだ。
眠ったRIKU☆を彼女に見立て、その寝顔を見ていたい。
…この僕がそんな馬鹿な真似、自分でも驚く。
だけど
止められなかったんだ。
「優………」
もうこれで、彼女の名前は二度と口にしない。
今度こそ、けじめをつけよう。
だからこそ最初で最後のこの歪んだ愛を、実弟であるRIKU☆で満たそうと思ったんだ。
…まったく、我ながら馬鹿げてるよ。
__ピリリリリ…
「!」
突如、ジャケットに入れておいた携帯電話が、着信音を鳴り響かせた。
僕はその携帯電話を取り出してディスプレイを確認すると、その相手に舌打ちした。
「…やれやれ。
こんな時間に来るなんて、相変わらず非常識な医者だ」
僕はため息をつきながら部屋から出ると、スタッフ用の控え室から通用口の方へと向かった。
掛かり付けの医者から定期的に見せに来いと言われているのだが、忙しくてなかなか行けないと断っている。
すると時間外でも往診に来てくれると言うのだが、それがいつもこんな時間だ。
ま、そうでもしないと、医者になんてかかれないんだけどね。
僕はスタッフ用通用口の前に着くと、そのドアを開けて主治医であるドクターを招いた。
「やぁ、今晩は。
あれから調子はいかがかな?」
「………どうも」
うちの某ホストではないが、頭のてっぺんから足の先まで真っ黒な風貌のドクターは、僕の顔を見るとニッと口角を上げた。
見ただけだと、医者にはまるで見えないから妙な気分だ。
「来週分の薬を持ってきた。明細書は中に一緒に入れてある」
「そう。
それじゃあ、どうもご苦労さ…」
「まだ、診察はすんでいないよ」
「…っ」
薬の入った包みを受け取った僕は、すぐに通用口のドアを閉めようとした。
しかし、全身真っ黒のドクターは僕のその手を掴むと、グッと引っ張った。
「…薬もちゃんと飲んでいるし、別に具合も悪くない。
診てもらう必要なんてないさ」
「それは君ではない、医者である私が決める事だ」
…このドクター。
腕は間違いないのだが、ある事だけは注意が必要な、くせ者でもある。
特に今夜だけは、邪魔されたくはない。
ここは何としても、今は帰ってもらおう。
「毎日休みなく仕事に没頭するのもいいが、身体は悲鳴をあげている。
その為にも、定期的に診せないといけないと言った筈だ」
「…それはわかっている。
しかし__」
ホストも見た目以上に身体の負担が大きい仕事で、みんなにも自己管理はするようによく言っている。
中には肝臓を患って、そのまま引退した知り合いも昔いたものだが、僕はそんなドジはしない。
「悪いけど、今日は時間が取れそうもないんだ。
診察は必ず受ける。でも、またの機会にしてもらうよ」
何にしても、僕の計画はもう進行中なんだ。
今夜だけは、必ず遂行させてもらう。
「薬代は、明日にでも振り込んでおくから」
僕は掴まれた腕を振り払うと、強引にドアを閉めてドクターを追いやった。
…これも全ては、僕の中の彼女への気持ちを整理する為なんだ。
「…………………ふぅ」
ドアを閉めた僕は一度息をつくと、すぐに自分の部屋へと足を向けた。
RIKU☆を部屋に呼んでいるんだ。
早く戻ろう。
「…………………!」
ところが。
いざ部屋に戻ってみると、既にRIKU☆は僕のいない間に来てしまっていた。
しかも、それが何故かソファの上で、グゥグゥと寝息をたてている。
…どういう事だ?
だがどちらにしても、どのみち目的は同じである事には変わらない。
彼女に見立てた彼と、しばらく一緒にいたい。
それを叶えようと思ったら、初めから眠っていてくれた方がRIKU☆に余計な事を知られずにすむからな。
「…やっと、また会えたね。
でも、これが最後だ…」
僕はゆっくりとソファで眠る彼女へと近寄ると、けじめの為の愚かな妄想を開始した。
…の、だが。
「時間が取れないと言うから、さぞ忙しいのだろうと思っていたら。
…君もそういう仕事があったんだね」
「___っ!!」
僕の許可なしには誰も入れる筈がないと思って油断していたが、まさかそんな型破りな奴がいるなんて!
そんな奴がうちのスタッフにいるわけが…
そう思いながら声のした方を振り向いて見ると、今まさに追い返した筈の真っ黒なドクターがいて僕は飛び上がるほど驚いた。
「そんないつの間に!?
しかも、どうしてここに……っ」
それに、バイトのRIKU☆を姉である彼女に見立てようとした所を、まさか見られた…?
「気にする事はない。アルコールを多量に摂取すると、人は時に正常でいられなくなる事があるものだからね。
君の仕事は、本当に身体を酷使しているようだよ」
「………………っ」
変な所を見られてしまった。
何とか言い訳してごまかさないと。
「…彼はこの仕事の経験も浅く、若いバイトホストだ。案の定無理をしているようだから、休ませてあげているだけだよ」
僕はRIKU☆から離れると、仕事用デスクの椅子に腰掛けた。
「それに僕は経営者だからね。まだこの後も仕事は残っているんだ。
とてもじゃないが、ドクターの診察を受けている時間はない」
なんて偉そうに言いつつも、デスクに置いたままにしたブドウジュースが真面目な空気を壊す。
まいったな。
忙しいと言いながら、まるで僕が飲もうとしてるみたいに見られてたりな。
「……では、診察ではなく仕事だったらいいのかな?」
しまった!
そう思った時には、もうドクターは僕の目の前にいた。
「眠っている少年と部屋に2人。何をしようとしていたのかな?」
チラリ
ドクターはソファで寝ているRIKU☆を見ながら、妖しい笑みをこぼしながら僕に言い寄った。
「……っ、………っ」
…やっぱり、バレていたのか!
だがそれは誤解で、僕はRIKU☆に対してしようとしていたわけじゃあない。
あくまでも、RIKU☆の向こう側の彼女に対してなんだ。
しかしそんな事をドクターに言った所で信じるわけはなく、またそれはそれで言うわけにもいかない。
クソッ、どうすれば…っ
「…心配しなくていい。私は君の面子を傷付ける気はない。
ただ私もまた、君に仕事として依頼したいだけだ」
ドクターはその手を僕の首に伸ばすと、指先で触れた。
「ま、待てっ
僕は男性のお客は取るつもりは……っ」
「…血液検査をすれば、大抵の病はすぐに見つかる。
だからこそ、定期的に検査を受ければ早期発見に繋がり、大事には至らなくてすむのだ」
雰囲気は医者らしくはなくとも、腕だけはまともなドクターだ。
しかし、男の癖にそのやたら色気のある容姿に発言は、時折ゾクリとさせられる。
コイツは一体何なんだ。
「だから、診察はまた今度受けるって……」
「だがこうして私の手にかかれば、医療費なんて発生させずに病を見つける事ができる。
例えば、こんな風に……」
「____っ」
そう言ってドクターが僕の首筋に顔を寄せると同時に、何かを突き立てられたような感触を感じた。
なな、何だっ
僕はドクターに、噛みつかれたのか!?
椅子に座ったままの姿勢でグッと肩を掴まれていて、身動きが取れない。
そして僕の首筋に顔を埋めたドクターから、ゴクリと水音が喉を通る音が聞こえた。
(何だっ
僕に何をしているんだ、コイツはっ)
抵抗しようにも、体勢が悪くて力が入らない。
いやむしろ、だんだんと力が抜けていくような…っ
僕は力の限り手を伸ばし、ドクターを振り払おうとばたつかせた。
その時____
「!」
デスクに置いていたブドウジュースのボトルに当たってしまったらしく、ボトルはカタンと音を立てながら倒れ、床にと落下した。
「…………………っ」
さっき睡眠薬を入れた際にキチンと口を閉めなかったのか、倒れた衝撃で開いてしまった。
そして中のブドウジュースはピシャリと飛び散り、トクトクとカーペットに血のようなシミを広げていった。
やがて、そっと僕の首筋から離れたドクターが顔を上げた。
するとその唇は血のように赤く染まっていて、ドクターはそんな唇をペロリと舐めた。
あれはまさか…僕の血!?
「…ふむ、何ともアルコールの満ちた血液だ。そんな事ばかりしては、やはり身体には良くないよ」
「ド クターっ
僕に…な にを…っ」
何故か次第に視界はかすみ、身体の力は抜けて倦怠感だけが残る。
瞼は重く、目も今にもつぶれそうだ。
「今のところ君の血液からは病は感じなかった。
処方した通り、増血剤と胃薬だけはしっかり飲むといい」
今まで貧血なんて起こしはしなかったのに、このドクターに関わってからはやたらと目眩がする事が増えた。
慢性的な貧血だなんて、一体何が原因なんだ!
「……っ、……っ
…………____」
急激な倦怠感に、いよいよ僕の意識も限界に達してきた。
身体は椅子の背もたれに預け、首にも力が入らずガクンと空を見上げる。
「…誰か来るな。
では、今回の支払いは君の口座に振り込ませてもらうよ。
ごちそうさま…」
「待…っ………………」
ニヤリと笑うその赤く染まったドクターの唇から、やたら鋭い犬歯が見えた気がした。
それはまるで、昔の映画に出て来たようなヴァンパイア…!
…んなわけ、ない か…………。
最後の力も抜け、僕は椅子にもたれながら手もダラリと宙に垂れた。
男の癖に僕に妙な真似をして、あのドクター…
一体何なんだ…………っ
「紫苑さん、お疲れ様です!
売り上げデータを持ってきましたー」
ホストクラブ“shion”殺人事件w
*華麗に完結(笑)*
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1年以上も経つというのに、どうして彼女の事だけは忘れられないのだろうかと思う。
星の数ほどの女性を相手にしてきた僕だけど、それでもこんなに恋い焦がれたのは彼女だけだった。
今では他の男のものになってしまい、早く忘れなくてはならないのに。
だからこそ僕は仕事に打ち込む事で、彼女を忘れようと努力していた。
…の、だけど___
神様はそんな僕にささやかな安らぎを与えようとしたのか、或いは意地悪な悪戯をしようというのか。
__『ねぇ陸君、もしかして…お姉さんいる?』
__『えぇっ?
よくわかりましたね!
はい、うちには姉貴が1人いますけど…』
偶然にも彼女の実弟がうちのホストクラブにバイト面接に来たんだ。
__23時47分
お客の引いてきた閉店間際。
「RIKU☆、後で僕の部屋に来てくれるかな。少し話したい事があるんだ。
…特別手当て、つけるから」
「えっ マジですか!?
了解でーすw」
RIKU☆の返事を確認すると、僕はブドウジュースのボトルを1つ冷蔵庫から取り出して自分の部屋へと向かった。
RIKU☆がアルコールを飲めないのは、面接の際に聞いていた。
そんなとこまで彼女と似ていると、ますます僕はRIKU☆と彼女を重ねて見てしまう。
…それが普通じゃないって思っていても、それでも僕はとうとう行動に出てしまったんだ。
自分でもどうかしてるって、わかってたのに…。
部屋に着いて仕事用デスクの前に立つと、僕はまず持ってきたブドウジュースの口を開けた。
ソフトドリンクとはいえ、このホストクラブで扱ってる商品だ。質は良く、銘柄もしっかりしている。
そんなブドウジュースの口を開けると…
僕はデスクの引き出しから粉末の薬を取り出して、サラサラとそのブドウジュースのボトルの中に入れた。
「………………」
おかしな薬なんかではない。
僕が処方してもらっている、睡眠薬だ。
効果は短いが、早く眠りにつけるのがこの薬のいい所でもある。
…もっとも、この使い方自体は非常にアブノーマルかもしれないけどね。
再びキャップを閉めると、僕は椅子に座って待った。
彼女の実弟である、RIKU☆を。
…いくら僕でも、別にRIKU☆に妙な事をするつもりはない。
ただ…
ほんの少しでいい、一緒にいたいんだ。
眠ったRIKU☆を彼女に見立て、その寝顔を見ていたい。
…この僕がそんな馬鹿な真似、自分でも驚く。
だけど
止められなかったんだ。
「優………」
もうこれで、彼女の名前は二度と口にしない。
今度こそ、けじめをつけよう。
だからこそ最初で最後のこの歪んだ愛を、実弟であるRIKU☆で満たそうと思ったんだ。
…まったく、我ながら馬鹿げてるよ。
__ピリリリリ…
「!」
突如、ジャケットに入れておいた携帯電話が、着信音を鳴り響かせた。
僕はその携帯電話を取り出してディスプレイを確認すると、その相手に舌打ちした。
「…やれやれ。
こんな時間に来るなんて、相変わらず非常識な医者だ」
僕はため息をつきながら部屋から出ると、スタッフ用の控え室から通用口の方へと向かった。
掛かり付けの医者から定期的に見せに来いと言われているのだが、忙しくてなかなか行けないと断っている。
すると時間外でも往診に来てくれると言うのだが、それがいつもこんな時間だ。
ま、そうでもしないと、医者になんてかかれないんだけどね。
僕はスタッフ用通用口の前に着くと、そのドアを開けて主治医であるドクターを招いた。
「やぁ、今晩は。
あれから調子はいかがかな?」
「………どうも」
うちの某ホストではないが、頭のてっぺんから足の先まで真っ黒な風貌のドクターは、僕の顔を見るとニッと口角を上げた。
見ただけだと、医者にはまるで見えないから妙な気分だ。
「来週分の薬を持ってきた。明細書は中に一緒に入れてある」
「そう。
それじゃあ、どうもご苦労さ…」
「まだ、診察はすんでいないよ」
「…っ」
薬の入った包みを受け取った僕は、すぐに通用口のドアを閉めようとした。
しかし、全身真っ黒のドクターは僕のその手を掴むと、グッと引っ張った。
「…薬もちゃんと飲んでいるし、別に具合も悪くない。
診てもらう必要なんてないさ」
「それは君ではない、医者である私が決める事だ」
…このドクター。
腕は間違いないのだが、ある事だけは注意が必要な、くせ者でもある。
特に今夜だけは、邪魔されたくはない。
ここは何としても、今は帰ってもらおう。
「毎日休みなく仕事に没頭するのもいいが、身体は悲鳴をあげている。
その為にも、定期的に診せないといけないと言った筈だ」
「…それはわかっている。
しかし__」
ホストも見た目以上に身体の負担が大きい仕事で、みんなにも自己管理はするようによく言っている。
中には肝臓を患って、そのまま引退した知り合いも昔いたものだが、僕はそんなドジはしない。
「悪いけど、今日は時間が取れそうもないんだ。
診察は必ず受ける。でも、またの機会にしてもらうよ」
何にしても、僕の計画はもう進行中なんだ。
今夜だけは、必ず遂行させてもらう。
「薬代は、明日にでも振り込んでおくから」
僕は掴まれた腕を振り払うと、強引にドアを閉めてドクターを追いやった。
…これも全ては、僕の中の彼女への気持ちを整理する為なんだ。
「…………………ふぅ」
ドアを閉めた僕は一度息をつくと、すぐに自分の部屋へと足を向けた。
RIKU☆を部屋に呼んでいるんだ。
早く戻ろう。
「…………………!」
ところが。
いざ部屋に戻ってみると、既にRIKU☆は僕のいない間に来てしまっていた。
しかも、それが何故かソファの上で、グゥグゥと寝息をたてている。
…どういう事だ?
だがどちらにしても、どのみち目的は同じである事には変わらない。
彼女に見立てた彼と、しばらく一緒にいたい。
それを叶えようと思ったら、初めから眠っていてくれた方がRIKU☆に余計な事を知られずにすむからな。
「…やっと、また会えたね。
でも、これが最後だ…」
僕はゆっくりとソファで眠る彼女へと近寄ると、けじめの為の愚かな妄想を開始した。
…の、だが。
「時間が取れないと言うから、さぞ忙しいのだろうと思っていたら。
…君もそういう仕事があったんだね」
「___っ!!」
僕の許可なしには誰も入れる筈がないと思って油断していたが、まさかそんな型破りな奴がいるなんて!
そんな奴がうちのスタッフにいるわけが…
そう思いながら声のした方を振り向いて見ると、今まさに追い返した筈の真っ黒なドクターがいて僕は飛び上がるほど驚いた。
「そんないつの間に!?
しかも、どうしてここに……っ」
それに、バイトのRIKU☆を姉である彼女に見立てようとした所を、まさか見られた…?
「気にする事はない。アルコールを多量に摂取すると、人は時に正常でいられなくなる事があるものだからね。
君の仕事は、本当に身体を酷使しているようだよ」
「………………っ」
変な所を見られてしまった。
何とか言い訳してごまかさないと。
「…彼はこの仕事の経験も浅く、若いバイトホストだ。案の定無理をしているようだから、休ませてあげているだけだよ」
僕はRIKU☆から離れると、仕事用デスクの椅子に腰掛けた。
「それに僕は経営者だからね。まだこの後も仕事は残っているんだ。
とてもじゃないが、ドクターの診察を受けている時間はない」
なんて偉そうに言いつつも、デスクに置いたままにしたブドウジュースが真面目な空気を壊す。
まいったな。
忙しいと言いながら、まるで僕が飲もうとしてるみたいに見られてたりな。
「……では、診察ではなく仕事だったらいいのかな?」
しまった!
そう思った時には、もうドクターは僕の目の前にいた。
「眠っている少年と部屋に2人。何をしようとしていたのかな?」
チラリ
ドクターはソファで寝ているRIKU☆を見ながら、妖しい笑みをこぼしながら僕に言い寄った。
「……っ、………っ」
…やっぱり、バレていたのか!
だがそれは誤解で、僕はRIKU☆に対してしようとしていたわけじゃあない。
あくまでも、RIKU☆の向こう側の彼女に対してなんだ。
しかしそんな事をドクターに言った所で信じるわけはなく、またそれはそれで言うわけにもいかない。
クソッ、どうすれば…っ
「…心配しなくていい。私は君の面子を傷付ける気はない。
ただ私もまた、君に仕事として依頼したいだけだ」
ドクターはその手を僕の首に伸ばすと、指先で触れた。
「ま、待てっ
僕は男性のお客は取るつもりは……っ」
「…血液検査をすれば、大抵の病はすぐに見つかる。
だからこそ、定期的に検査を受ければ早期発見に繋がり、大事には至らなくてすむのだ」
雰囲気は医者らしくはなくとも、腕だけはまともなドクターだ。
しかし、男の癖にそのやたら色気のある容姿に発言は、時折ゾクリとさせられる。
コイツは一体何なんだ。
「だから、診察はまた今度受けるって……」
「だがこうして私の手にかかれば、医療費なんて発生させずに病を見つける事ができる。
例えば、こんな風に……」
「____っ」
そう言ってドクターが僕の首筋に顔を寄せると同時に、何かを突き立てられたような感触を感じた。
なな、何だっ
僕はドクターに、噛みつかれたのか!?
椅子に座ったままの姿勢でグッと肩を掴まれていて、身動きが取れない。
そして僕の首筋に顔を埋めたドクターから、ゴクリと水音が喉を通る音が聞こえた。
(何だっ
僕に何をしているんだ、コイツはっ)
抵抗しようにも、体勢が悪くて力が入らない。
いやむしろ、だんだんと力が抜けていくような…っ
僕は力の限り手を伸ばし、ドクターを振り払おうとばたつかせた。
その時____
「!」
デスクに置いていたブドウジュースのボトルに当たってしまったらしく、ボトルはカタンと音を立てながら倒れ、床にと落下した。
「…………………っ」
さっき睡眠薬を入れた際にキチンと口を閉めなかったのか、倒れた衝撃で開いてしまった。
そして中のブドウジュースはピシャリと飛び散り、トクトクとカーペットに血のようなシミを広げていった。
やがて、そっと僕の首筋から離れたドクターが顔を上げた。
するとその唇は血のように赤く染まっていて、ドクターはそんな唇をペロリと舐めた。
あれはまさか…僕の血!?
「…ふむ、何ともアルコールの満ちた血液だ。そんな事ばかりしては、やはり身体には良くないよ」
「ド クターっ
僕に…な にを…っ」
何故か次第に視界はかすみ、身体の力は抜けて倦怠感だけが残る。
瞼は重く、目も今にもつぶれそうだ。
「今のところ君の血液からは病は感じなかった。
処方した通り、増血剤と胃薬だけはしっかり飲むといい」
今まで貧血なんて起こしはしなかったのに、このドクターに関わってからはやたらと目眩がする事が増えた。
慢性的な貧血だなんて、一体何が原因なんだ!
「……っ、……っ
…………____」
急激な倦怠感に、いよいよ僕の意識も限界に達してきた。
身体は椅子の背もたれに預け、首にも力が入らずガクンと空を見上げる。
「…誰か来るな。
では、今回の支払いは君の口座に振り込ませてもらうよ。
ごちそうさま…」
「待…っ………………」
ニヤリと笑うその赤く染まったドクターの唇から、やたら鋭い犬歯が見えた気がした。
それはまるで、昔の映画に出て来たようなヴァンパイア…!
…んなわけ、ない か…………。
最後の力も抜け、僕は椅子にもたれながら手もダラリと宙に垂れた。
男の癖に僕に妙な真似をして、あのドクター…
一体何なんだ…………っ
「紫苑さん、お疲れ様です!
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ホストクラブ“shion”殺人事件w
*華麗に完結(笑)*
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