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高校時代の三角関係
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登下校も、休み時間も、日曜日も。
とにかく暇があればいつも一緒にいた3人の津田、市ノ瀬、佐川。
『来週花火大会あるじゃん?
ユイ、浴衣着て来いよ』
『うん!
じゃあ津田くんと市ノ瀬くんも、浴衣着てね』
『え~、俺らも?』
『ユイはいいけど、市ノ瀬は浴衣ってよりハッピって感じだなっ』
『津田!
おまっ、それどーゆー意味だよ』
『あはは…っ』
思い起こせば、いつも3人は一緒だったし、いつも3人は笑っていた。
佐川は女としてかわいかったけれど、でも決してどちらかと深い関係だったわけではなく、二等辺三角形の如く2人とは平等な友人関係だった。
けれども津田も市ノ瀬も、本当は佐川に淡い恋心を抱いていた。
『えっ
市ノ瀬くん、風邪引いちゃったの?』
『38℃の熱だってさ。
昨日までは元気だったのにな』
それは、約束していた花火大会当日の夜だった。
現地集合で先に来ていた佐川に、後から来た津田が「家を出る前に市ノ瀬から電話があって」と、市ノ瀬の体調不良を伝えた。
佐川も津田もまさか市ノ瀬がドタキャンになるとは思わず、しっかり浴衣を着て来ている。
だけどそれは市ノ瀬も予想していた事であって、「俺の事なんて気にしないで、2人で楽しんで来いよ」とまで津田に言っていた事だった。
『……せっかくだし、夜店もあるから少し歩こうか』
『そう……だね。
市ノ瀬くんにお土産、買って行ってあげようよ』
『あぁ』
津田と佐川。
いつも一緒にいる3人が、2人になるのはこれが初めてだった。
『金魚、上手くすくえなかったね』
『アイツは金魚よりも、かき氷の方が喜ぶんじゃないか?』
『じゃあ帰る前にかき氷を買って、市ノ瀬くんの家にお見舞いに行こうか!』
『熱でバテてるんだ。それがいいかもね』
2人だけの夜店。
均等なバランスで成り立ってた二等辺三角関係だったのだが、案外2人になっても違和感なく過ごせた。
いやむしろ、端から見れば普通の学生カップル。
違和感なんて、誰も感じやしない。
『あ、ユイ。ほら花火始まった』
『ホントだ!』
定刻になり、この夏の夜空に大輪の花が咲いた。
赤や緑、黄色に青。
色とりどりの花が、夜空を彩っていく。
日本人なら誰もが目や心を奪われる、夏の花火。
……それは絶妙なバランスで保たれている二等辺三角関係の津田と佐川の心を乱す要因に、充分なりえた。
『津田くん、花火キレイだねー』
『あぁ、スゴく、キレイ……』
夏の風物詩を見に来た人々が、皆揃って夜空の花を見上げている。
だけどその時に津田はもう、佐川の方しか見ていない。
『なぁ、ユイ……』
『ん?
どうしたの、津田く____』
途切れた言葉は、花火の音で聞こえなかったからではない。
キラキラと輝く七色の光が、大勢の人々の顔を明るく照らしている。
だけどその中の2人だけは、顔を向け合っていて側面しか光を浴びない。
『ん………………』
時間にして数秒が、とても長く感じる。
そしてあれだけ耳に響く花火の音も、今だけは自分の鼓動以外聞こえなかった。
『………………ごめん。
好きなんだ』
『津田くん………っ』
そっと離れた津田の唇から、放たれた言葉。
その時から、二等辺三角形は少しずつ形を変えていったんだ_____。
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