紫に抱かれたくて

むらさ樹

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そういえばあの日紫苑に抱かれて以来、出張を頼むのは初めてだ。

この後は予定もないから、あたしは大丈夫。
仕事だって夕方からだから、泊まりも問題ない。


紫苑とだったら、多少無理してても一緒に過ごしたいけれど…。
あんなにも紫苑との濃厚なセックスを知ってしまって、今更煌とじゃ逆にもの足らなく感じないかな…。


「ん…どうしようかな」

出張だって、煌への貢献の1つにはなる。
それで煌の為にもなるんなら、それくらいいいかな…。


「…愛さんに、買ってほしいんだ。おれの事」

「あぁ…」

なんだ、やっぱり。
ビールだけで長時間居座っちゃったもんね。
そりゃ採算が合わないわよ。

ま、出張ったって、必ずしもセックスが目的ってわけじゃないしね。
ホテルで朝まで話しながら飲み明かす。
ちょっとキツいけど、煌の為ならまぁいっか。


「わかった。
じゃあこの後、いつものホテルね」

身体が飢えてないかと訊かれたら、それは否定は出来ない。
紫苑と身体を重ねた時の余韻がいつまでも奥にくすぶって、また次が待ち遠しくなってしまうもの。

次に会ったら、連絡先くらい訊いておこう。
言葉も交わせないんじゃ、予定云々よりも予約すら入れられないもの。






__そんなわけで。

近くのコンビニで買った缶ビールを袋に提げてホテルに着くと、あたしは先に部屋の中で煌を待っていた。

煌と話すのは楽しいし、愚痴であっても煌はちゃんと聞いてくれる。
紫苑にあんなに指導を受けたりしてんのなら、紫苑の事いっぱい訊いちゃおう。

さすがに紫苑のケータイ番号なんて勝手には教えてもらえないだろうけど。
でも凛は…紫苑とケータイ番号を交換とか、してんだろうなぁ。



じゃあ…あたしだって…。
…なんて考えているうちに、部屋にノック音が響いた。


あたしはすぐに駆け寄ってドアを開けると、煌を招き入れた。



「お疲れさま。
ほら、ビール買っておいたよ。
早く奥に行こ」

レジ袋に入ったビールを持ち上げて見せると、あたしは煌の腕を引っ張るようにして部屋の奥へと誘導しようとした。


「…愛さんっ」

「わっ!!」

途端、背中から覆い被されるように抱きしめられ、その衝撃に思わず持っていた缶ビールの袋を落としてしまった。


「愛さんが…欲しい」

「え、え…?」

煌の手が、抱きしめたあたしの身体から服の中に入ってきた。


「も…してもいい?」

服の中に入った手が、ブラの上からあたしの胸に触れる。

夜にホテルで出張って言ったら、しなきゃいけないって煌は思ってんのかな。
悪いけど、どっちかって言うと今はそういう気分ではないんだけど…。

ギュッと抱き寄せられながら、煌の唇があたしの首筋をくすぐる。


「あ あのね、煌。
今日は、いいよ?」

確かに、今まで煌を出張に呼んでたのはセックスが目的だった。

毎日仕事で溜まったストレスを発散させる為。
会いたいのに会えない紫苑に姿を重ねて、気持ちを紛らす為。

だけど今日煌を呼んだのは、身体が目的じゃない。

煌の売り上げの貢献になればいいなってのと、一緒に朝まで飲み明かすのも楽しいかなと思っただけだ。


「いつもありがと。
今夜は、一緒に話でもしよ」

最初は出張の意味もわからなくて、新人だからってバカにしたような言い方しちゃったんだよね。

それを煌はすごく気にしちゃったみたいで、以来とてもあたしに一生懸命尽くしてくれる。
仕事熱心なのは感心だけど、そんなに気張らなくていいんだよって言わなくちゃ。
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