紫に抱かれたくて

むらさ樹

文字の大きさ
52 / 68

しおりを挟む
あたしは強く抱き寄せられた煌の腕を、ポンポンと叩いた。

まだ未経験だった煌に、女を教えたのはあたし。
ぎこちないんだけど、スゴく初々しくて楽しかった。

だけど数を重ねる度にあたしを気持ちよくしようとしてくれてるのは、よく伝わってるわよ。


「……………………」

「…………………?」

あたしを抱き寄せる煌の動きがピタリと止まった。
離すわけでもない、ただそのまま、じっと。


「…おれじゃ、ダメって事?」

「煌………?」

意外な言葉に、ちょっと驚いた。

そういえば煌との情交中に紫苑の名前を出したり、煌の計らいで紫苑との時間を得たりしたんだ。

煌は、あたしから用ナシって言われたと思ったんだろうな…。

「ダメって言うか、別にただ今夜は…」

「もうおれなんか、必要ない?」

あまりにもストレートな言葉に、ドキッとする。
まさか、そんな風に言ってくるとは思わなかったもの。

…もしかしたら、あたしが思ってる以上に煌は傷付いてるのかもしれない。
これまで散々、紫苑への想いを煌で満たそうとしたり、嘘をついてまで協力してくれたりしたんだから…っ


「必要ないだなんて、そんな事…」

「じゃあ、してもいい?
おれは愛さんに、気持ちよくなってほしいんだ」


止まっていた煌の手が動き出し、服の中であたしの身体を愛撫し始めた。

「ぁ………」

感じさせようとしてくれてるようだけど。
でもやっぱり、紫苑の時と比較してしまう。


煌の熱い息づかいが首筋に伝わる。
身体を愛撫する手つきは、まだまだ荒々しい。

煌は、紫苑じゃないっ
紫苑のような優しさや丁寧な感じは、全然ないんだ。


「ま、待って、煌。
あのね。出張に来てもらったわけなんだけど、必ずしも抱かなきゃいけないわけじゃないのよ?」

最初にそういう風に教えてしまったのはあたしだけど。
でも、紫苑との思い出が強すぎて、もう煌とじゃ満たせない。


「煌と一緒にお酒飲みながら話すのも、楽しいもの。
ね、今夜はそうしない?」

「…じゃあ…」

「うん」

「じゃあ今日は、おれが愛さんを買う」

「え?」

煌はジャケットのポケットに手を突っ込むと、何かを取り出しあたしの手に握らせた。


「おれは、愛さんが欲しい。
これで、足りる?」

煌があたしに握らせたのは、初めてあたしが煌を買った時に渡したのと同じ5万円だった。

あたしが初めて煌を買った5万円。
実際は5千って言ってたんだけどね。

ただ、いつも同じスーツにウイッグじゃあ様にならないだろうからと思って、お小遣いのつもりで渡したのだ。

だけどなかなかスーツは新調しないし、若いんだもの遊びにでも使ったのかなと思っていたら…。


「煌、何言って…」

「ごめん、これくらいじゃ安すぎるよね。
いくらかな」

「煌っ
もう、冗談ばっかり言わな…」

クルリと振り返り、あたしは煌の方に向き直った。
ふざけて笑い合った事は今までたくさんあったわけだし。

こんな事言うなんて、きっと煌なりの冗談だと…


「…………………っ」

振り向いて見上げて見た煌の顔は、ちっとも笑っていなかった。

ただまっすぐあたしの方を見ているその表情は真剣で、冗談なんかじゃないのは間違いなかった。


「愛さんが…好きなんだ。
おれ、愛さんが欲しい」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

処理中です...