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ナンバーワンの力①
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紫苑と共に過ごした夜から、1ヵ月が経過しただろうか。
あれ以来、煌からのメールは来なくなった。
紫苑が店に来た時に連絡をしてもらうようになってるから、メールが来ないという事は店に来ていないという意味だと思っていたのだけど。
でも、そうじゃなかった。
相変わらず休みの日には“club-shion”に行っているのだけど、そんなある日。
あたしと入れ違いに店を出たお客がいて、その際に外まで送りに出たホストが紫苑だったのだ。
「来週の土曜日だったわよね」
「うん、待ってるからね」
「9時にはここに来るわ。
それから夜…ね。
じゃあね、紫苑」
化粧も厚い年増のそのお客の女は、デカい宝石の付いた指輪を見せるように紫苑に手を振って帰って行った。
来週の土曜日…9時…
その時、紫苑はお店に来るって事?
夜って…さっきの女と…?
そんな事を考えていると、お客を見送った紫苑があたしに視線を移した。
「こんばんは。
来てくれてありがとう」
紫苑は、さっきのお客にも見せていた柔らかい笑みをあたしにも見せて言った。
「さぁどうぞ。
ようこそ“shion”へ」
そう言うと、紫苑は入り口のドアへと手を差し出した。
…まるで、てんで営業文句。
最後にあたしと一緒に過ごした夜の事は、覚えてくれているのかしら。
朝にはいなくなっちゃうし、何かあたしに言ってくれる言葉はないのかなぁ…。
「ね、紫苑…。
あたしの名前…覚えてる?」
ドアの前で立ったまま、あたしはお店に入る前に紫苑に訊いてみた。
今は近くに誰もいない2人きり。
お店では“愛”という名前で常連客になっているあたしだけれども。
あの日の夜、あたしは確かに紫苑に言ったわ。
2人の時は、あたしの事を“悠里”って、本当の名前で呼んでって。
あくまでも出張ホストという仕事としての一時だったかもしれないけど。
でも、ちゃんと約束を守って一日腕時計をしてくれた紫苑なら、あたしの事………!
「名前?
…ふふっ、覚えてるよ?
悠久の悠に里、で悠里。
だったね、愛さん?」
「………………っ!!」
その瞬間、あたしは胸が熱くなった。
忘れてなんかいない。
紫苑はあたしとの事、ちゃんと覚えてくれてたんだ…っ!
「ほらほら、どうしたの?
早く入りなよ」
あまりの感動に言葉も詰まってしまったあたしに、紫苑はドアを開けてお店へと誘導してくれた。
背中に優しく手を当てられ、紫苑に抱かれた夜を思い出してドキンとする。
また…また紫苑と一緒に夜を過ごしたい!
「ねぇ、紫苑っ
また一緒に…」
「紫苑!
早く早くーっ!!」
お店に入った途端に聞こえた女の声で、あたしの言葉はかき消されてしまった。
視線を声のした方へ向けると、紫苑に向かって手招きした女が見えた。
「うん、今行くよ。
…じゃあね、ゆっくり楽しんでいって」
そう言うと、紫苑はあたしの背中に当てた手を離し、その女の方へと向かって行った。
そうだよね…紫苑は忙しい人だもの。
だけど、あたしの名前は、覚えてくれていたんだ…!
紫苑が行ってしまった後、今度はあたしの前に煌が現れた。
「…いらっしゃい、愛さん。
今日来てくれるとは思わなかったな。
ありがとう」
今日は紫苑が来ている日だったのに、煌からのメールはなかった。
だから煌は、逆にあたしには来てほしくなかったと思っているのかもしれないな。
もう煌は、あたしと紫苑を応援する事をやめたって言った。
その1つが、これだったんだ。
「………あれ?
煌、その頭…」
あたしは迎えてくれた煌の方を見た。
するとスーツはいつもの白なんだけど、でも頭の方はいつものウイッグではなく、ボリュームの薄い猫っ毛を晒した地毛だったのだ。
「愛さんがこの方がいいって言ってくれたから、あれはやめたんだ。
どうかなぁ?」
些細な事なのかもしれないけど。
でもこれも、あたしへ向けた気持ちなんだと思った。
「よく…似合ってる」
「ありがとうっ」
煌は…本気なんだ。
あれ以来、煌からのメールは来なくなった。
紫苑が店に来た時に連絡をしてもらうようになってるから、メールが来ないという事は店に来ていないという意味だと思っていたのだけど。
でも、そうじゃなかった。
相変わらず休みの日には“club-shion”に行っているのだけど、そんなある日。
あたしと入れ違いに店を出たお客がいて、その際に外まで送りに出たホストが紫苑だったのだ。
「来週の土曜日だったわよね」
「うん、待ってるからね」
「9時にはここに来るわ。
それから夜…ね。
じゃあね、紫苑」
化粧も厚い年増のそのお客の女は、デカい宝石の付いた指輪を見せるように紫苑に手を振って帰って行った。
来週の土曜日…9時…
その時、紫苑はお店に来るって事?
夜って…さっきの女と…?
そんな事を考えていると、お客を見送った紫苑があたしに視線を移した。
「こんばんは。
来てくれてありがとう」
紫苑は、さっきのお客にも見せていた柔らかい笑みをあたしにも見せて言った。
「さぁどうぞ。
ようこそ“shion”へ」
そう言うと、紫苑は入り口のドアへと手を差し出した。
…まるで、てんで営業文句。
最後にあたしと一緒に過ごした夜の事は、覚えてくれているのかしら。
朝にはいなくなっちゃうし、何かあたしに言ってくれる言葉はないのかなぁ…。
「ね、紫苑…。
あたしの名前…覚えてる?」
ドアの前で立ったまま、あたしはお店に入る前に紫苑に訊いてみた。
今は近くに誰もいない2人きり。
お店では“愛”という名前で常連客になっているあたしだけれども。
あの日の夜、あたしは確かに紫苑に言ったわ。
2人の時は、あたしの事を“悠里”って、本当の名前で呼んでって。
あくまでも出張ホストという仕事としての一時だったかもしれないけど。
でも、ちゃんと約束を守って一日腕時計をしてくれた紫苑なら、あたしの事………!
「名前?
…ふふっ、覚えてるよ?
悠久の悠に里、で悠里。
だったね、愛さん?」
「………………っ!!」
その瞬間、あたしは胸が熱くなった。
忘れてなんかいない。
紫苑はあたしとの事、ちゃんと覚えてくれてたんだ…っ!
「ほらほら、どうしたの?
早く入りなよ」
あまりの感動に言葉も詰まってしまったあたしに、紫苑はドアを開けてお店へと誘導してくれた。
背中に優しく手を当てられ、紫苑に抱かれた夜を思い出してドキンとする。
また…また紫苑と一緒に夜を過ごしたい!
「ねぇ、紫苑っ
また一緒に…」
「紫苑!
早く早くーっ!!」
お店に入った途端に聞こえた女の声で、あたしの言葉はかき消されてしまった。
視線を声のした方へ向けると、紫苑に向かって手招きした女が見えた。
「うん、今行くよ。
…じゃあね、ゆっくり楽しんでいって」
そう言うと、紫苑はあたしの背中に当てた手を離し、その女の方へと向かって行った。
そうだよね…紫苑は忙しい人だもの。
だけど、あたしの名前は、覚えてくれていたんだ…!
紫苑が行ってしまった後、今度はあたしの前に煌が現れた。
「…いらっしゃい、愛さん。
今日来てくれるとは思わなかったな。
ありがとう」
今日は紫苑が来ている日だったのに、煌からのメールはなかった。
だから煌は、逆にあたしには来てほしくなかったと思っているのかもしれないな。
もう煌は、あたしと紫苑を応援する事をやめたって言った。
その1つが、これだったんだ。
「………あれ?
煌、その頭…」
あたしは迎えてくれた煌の方を見た。
するとスーツはいつもの白なんだけど、でも頭の方はいつものウイッグではなく、ボリュームの薄い猫っ毛を晒した地毛だったのだ。
「愛さんがこの方がいいって言ってくれたから、あれはやめたんだ。
どうかなぁ?」
些細な事なのかもしれないけど。
でもこれも、あたしへ向けた気持ちなんだと思った。
「よく…似合ってる」
「ありがとうっ」
煌は…本気なんだ。
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