ひな*恋 〜童顔ひな子の年の差恋愛(ノベル版)

むらさ樹

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「お疲れ様でーす。
宜しくお願いしまーす」



15時。

お昼のピークも過ぎて、今度は夕飯のピークに備えるアイドルタイムからお仕事は始まる。



「いらっしゃい、ひなちゃん。
卵、ボイルだけしといたから後はよろしくね」



「はい、了解です~。
お疲れ様でしたぁ」



朝の9時から勤めてる人と交代で、夜の9時までが私の割り当てられた勤務時間。



外は雨でジメジメしてるけど、ここは地下だからそんな雰囲気は感じない。

さぁ、今日も頑張るぞぉ!!





「おっ、ひな坊は元気じゃのう!」



まずは冷蔵もののサラダを作り始めた私に、久保店長が顔を覗かせた。



「元気って言うか、普通ですよっ」



「それで普通か。
やっぱ若い者は違うのぉ」



なんて言いながら、店長はチラリと隣で煮物を作っている小山さんを見た。



「まぁ!久保店長ったら!
どうせあたしはババァですよ!!」



「おぅ、ババァは煮物を頑張れ」



…この2人のやりとりは毎日の日課で、言葉だけ聞いたらヒドいようだけど、案外冗談が多い職場なので和むって言ったら和む。


だけど私を引き合いに出しても、お互い虚しいだけの気もしてくるけどなぁ…。





夕方も17時くらいになると、いよいよ夕飯のおかずを求めて主に主婦の方たちがお店に増えてくる。


コロッケやフライなんかは業者から仕入れた冷凍ものだけど、サラダや煮物 和え物なんかは、うちの完全な手作り。


マニュアルはもちろんあるんだけど、コレは!というアイデアがあればオリジナルの惣菜だって出す事もある。
もちろん、店長の確認は必須だけど。



今日もそんな久保店長オリジナルの、鯖を揚げて甘辛い特製タレで煮からめた…なんちゃら料理が陳列されている。


「料理は難しく考えず、センスで作る!」が久保店長の理念らしく、そんな事を言うだけあって実際作るものには「ほぉ…」と感心させらせるものが多い。



そんな私はと言うと、ここに勤めるまでは家で料理なんてした事はなかった。


母は目は悪くとも料理自体は何とか出来ていたし、それが当たり前のように私も育ってきたから、思い切り母に甘えてばかりいたわけだ。


だけど早く楽をさせたい気持ちはあったので、高校卒業してすぐここに就職し、それから私は料理というものに携わるようになったという。


つまり、私はここに来て仕事をしながら、逆に料理の勉強もしている事になっているのだ。


おかげさまで「美味しい!」と評判のうちのお店は、陳列された選り取り見取りの惣菜が次々売れていく。

ピークを超えた夜も19時くらいになると、それらは殆ど完売になっていくのだけど、今度は主婦ではないお客さんをターゲットにもう少し新しい惣菜を陳列する。



「いらっしゃいませ。
こんばんは」



このくらいの時間になると、次は単身赴任や、それこそ独り身の男性のお客さんが増えてくる。



「ここの唐揚げ、安くて美味いよね。
毎日食っても飽きんわ」



「わぁ、ありがとうございます!」



ニコニコ営業スマイルで、バーコードをレジに通す。


見た感じ50代くらいのこの男性のお客さんも、殆ど毎日ここに通う常連さんだ。



「はい、2点で760円です」


「じゃあ、ちょうど置いとくね」


「ありがとうございますーっ」



受け取ったお代をレジに入れようとした時、惣菜の入った袋を手に持ったお客さんが、チラっと私の顔を見て帰りかけた足を止めた。



「あー…ねぇ?」


「はい?」



何だろう。

お箸はちゃんと袋に入れたハズだし、何か他にやり忘れた事あったっけ?


さっきまでとはちょっと雰囲気が変わり、何だかソワソワしたような態度になったそのお客さんに、私は首を傾げて言葉を待った。


金額、間違ったかな。
私、何かおかしな事した?




「…姉ちゃん、仕事頑張るよね。何時まで?」


「…ぇ…?」


「良かったら、その後カラオケとかどう。
俺、無料券持ってんだよ」


「……………っ」



え えぇ─────!!?

そ それってナンパ!?
しかも、こんな中年のおっさんにーっ!?




「あ……はは…っ」



なんて対応していいかわからず、とりあえず空笑いが口から漏れた。


もちろん行く気なんてサラサラないし、だからって常連のお客さんに冷たく断るのも………っ



「い 忙しくて、なかなか………っ」



精一杯のスマイルで返してみたけれど、多分きっとその笑顔はひきつっていると思う。


そうよ、私は忙しいの!
どうか諦めて下さいぃ!




「…あ そう。
じゃ、また今度ね。
ありがと」


「あ あありがとうございまー…す」



惣菜の包まれたレジ袋を軽く上に上げて見せながら帰って行ったその常連のおっさんの背を、私は遠い目をしながら見送っていた。


今の間にもう口の中はカラカラ。



だって、まさかこんな私にそんな声がかかるなんて、夢にも思わなかったもん!

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