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しおりを挟む背の低い私からすれば、隣に立つ彼は大きく見える。
実際ホントに高い方なのか普通なのかは、わからないんだけどさ。
「へぇ。いつも買ってるあのサラダ、ひなが作ってたんだ」
ジリジリと照りつける太陽の光も苦に思わないくらい、彼と並んで外を歩くのは何だか心地よかった。
「そうですよ。
あ、昨日のリンゴサラダどうでした?」
「あぁ、あれね!ちょー絶品だったよ!
何か普通にリンゴ食べるよりも、やけに美味いんだよっ。
リンゴとマヨネーズって意外と合うんだね~」
「わぁ、よかったぁ」
思ってた以上の反応に、私も何だか嬉しくなった。
リンゴサラダ、気に入ってくれたんだ!
「また夜に買いに行くけどさ、あれは試作品なんだっけ?
なら今日は、普通の奴しかないのかな」
「………じゃあ、ナイショだけど…」
お客さんを特別扱いなんてしちゃ、いけないんだけどね。
でもそんな風に言われたら、俄然応えたくなっちゃうじゃない!
今日も昨日と同じように、彼の分だけリンゴ入りを用意して取っておいてあげよう。
これは店員だからこそできる、特権だもんね。
お昼に待ち合わせた、本屋さんの前を通りかかった。
後はこの道をまっすぐに行けば、うちのアパートだ。
だからって、さすがに家の前まで送らせる気はない。
「あの、私そろそろこの辺で…」
「あ、ねえねえ。あそこに見える青い屋根の家があるだろ?
あれ、うちん家なんだ」
「え?」
ふいに彼に指差された方を見てみたけれど、確かにある青い屋根の家。
だとすると…以前言ってた通り、この本屋さんからはホントに近いだけじゃなく、うちの家からもスゴく近いんだ!
「な?近いって言ったろ?
じゃ、俺また夜に行くから例のアレ、よろしくね」
「…あ、はいっ。
て言うか…」
青い屋根…。
割と大きな家みたいだけど、まさか彼は1人暮らしなわけないよねぇ。
でも晩ご飯に毎日うちの店を利用するくらいだから、ご飯を作ってくれる人はいないんだと思うけど…。
──『でも、今日も来る予定なんでしょ?
だったら本人に訊いてみたらいいんじゃない?』
「あの…」
そんな事、知りたいだけのただの余計なお世話かもしれないけれど。
でもどうしても、気になって仕方ないのよ。
「キミの家って、普段ご飯は誰が作ってんの…?」
「………………」
「………………」
変な沈黙に、襲われてしまった。
…いけない。
やっぱり、訊いちゃ悪い事を訊いちゃったんだ。
ご飯を作ってくれる人がいないから、こうやってうちの店に買いに来てくれてるってわかってたのに。
それをわざわざ本人の口から言わせるだなんて、私ってばどんだけ無神経な…
「…ぷっ」
「?」
まるで急に何かを思い出したかのように、彼は吹き出した。
「あっはははは…っ
ひなってば、おかしっ」
尚もお腹を抱えてケラケラ笑い出す彼に、私は理解できずにキョトンとした顔で見返す事しか出来なかった。
「あの、えっと…っ」
え。
私ってば、そんなにおかしな事を訊いた?
普段ご飯は誰が作ってるって、やっぱりお母さんがいるって事なのかな。
それをわざわざ訊くから、おかしいって…?
「前から思ってたんだけどさ、その“キミ”って呼び方。
今時そんな言い方する人、どこ探してもいなくなくない?」
「────へ?」
いなくなくない?って…
いなくないの反対の反対だから…いない?
いや、いないの反対かな。
つまり…いる?
「えっと、結局……
いるって事ですか?」
若者言葉って言うべきものなんだろうか。
その変な文法で成り立った言葉を懸命に解読してみたつもりなんだけど、そもそも何を訊かれたんだかわからなくなってきた。
「ほらまた、その敬語。
何で俺に敬語で話すわけ?」
「えっ
何でって…」
だって、私と彼はあくまでも店員とお客さんの仲なだけで、別に友だちってわけじゃないもの。
確かに今は仕事中なわけじゃないから、店員でもお客さんでもないけど。
でも知り合って日も浅いのに、いきなりタメ口だなんて…。
「普通年下に敬語なんて使わないだろ。
俺なんか、めっちゃタメ口なのにさぁ」
「私が年上って、わかるんですか!?」
まさか、こんな顔を見ても年上だとわかってくれたんだろうか。
今までみんなから、ベビーフェイスだなんて言われてきたってのに…!
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