ナイショのお見合いは、甘くて危険な恋の駆け引き!

むらさ樹

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「あの…本当に、ごめんなさい…。
高梨さんにはとてもとても良くして頂いたのに、私…」


私にはもったいなくて…と適当にお断りを入れればいい。
なんて考えてた。

だけど、実際はお見合い相手の高梨さんを傷付けたり、高梨さんのお母さんにはガッカリさせたり、勇さんには裏切ったみたいな事にもなった。


こんなにも考えが甘かったって事、私だってスゴく反省してる…。



「ごめんなさい…高梨さん…」


ジワッと視界が歪み、やがてうつむく顔から垂直に涙がポロッとこぼれ落ちた。


泣けば許してもらえるなんて、思ってない。
だけど、その罪悪感からどうしても涙は出てしまったの。



「…ごめ…なさ……」


何度も何度も謝っていると、黙って聞いていた高梨さんは私の座るソファーの横に添うように座り、そっと私の頭を撫でてくれた。



「…高梨さん…?」


側に座る高梨さんは私の頭を優しく撫でながら、反対の手で涙で濡れた目を拭ってくれた。



「謝らなくていいって言ったろ?
優さんは何も悪くないよ。
僕が優さんを振り向かせる事ができなかっただけだ」


「高梨さん…」


私の気持ちを理解してくれた高梨さんはそう言った。
謝るだけで、許してくれるなんて…っ



「あの、だからこれも…お返ししようと思って持ってきたんです…」


私はショルダーバッグからシュシュの入った包みを取り出した。

リボンだって元通り付けてきた。

薄ピンク色に赤いリボンとかわいくラッピングされているシュシュ。


きっと高梨さんが、私の事を考えながら店員さんと相談して選んだ色合いなんだろうな…。

そんな事なんて全く思わなかったあの日。
今思えば、そんな事1つ取っても胸が痛むよ…。



高梨さんは私の手から包みを取ると、リボンをほどいて中のシュシュを取り出した。


それから撫でる私の頭から髪をすくい、そのシュシュで結わえた。



「…とってもかわいい。
そのピンク色、優さんによく似合ってるよ」


「……………っ」


それでも優しすぎる高梨さんに、私は何も返せなかった。


まだ怒ってくれた方がマシだった。

恋人がいながらお見合いする非常識な私を、指差して罵ってくれた方がよかった。

なのに…




「ねぇ、優さん。
忘れてない?」


「え…?」


「優さんは僕に気はないみたいだけど、僕は言ったよね。
…奪い取るぐらいの気でいるって」


「高梨…さん…?」


私の側でじっと見つめる高梨さん。
その顔が、いつもの柔らかい表情と違って見えて…

…ゾクっと、した。



「だ だから私…あの、今日はお付き合いのお話をなかった事にしてもらおうと思って…」


反射的に、私は身体をのけぞった。

いくら奪い取るだなんて言われても、私の気持ちは変わらないもの。

どんなに高梨さんに迫られても、私は高梨さんを好きにはならないんだよ…?



「何言ってんの。
こんな所に1人でのこのこついて来て。
本当にごめんなさいの一言で帰るつもりだった?」


「のこのこ、って……っ」


ここは高梨さんの家であり、高梨さんの部屋。

下には高梨さんのご両親もいるだろうけど、こんな広い家だとなかなか音だって届かないかもしれない。


今、私は…高梨さんの部屋に2人きりでいるんだ…!



「本当、その天然な所かわいいね。
……優?」


「……………ん…っ!」


頬に触れられたかと思った瞬間の、キスだ。

身体をのけぞって逃げようとしたけど、一緒のソファーに座っていればそれも意味はなさなかった。


唇を奪われたまま、私は高梨さんに押し倒されるようにソファーに背中を沈めた。



「…ん…ん……ゃあっ
ダ ダメですっ、高梨さん!」


他の男性に簡単に唇を奪われるなんて、私ってばどんだけ隙が大きいのよっ。

しかも、これでもう2回目だ!



「すみません! 私にはちゃんと恋人がいるんですっ
あの日はお見合いなんかしちゃったけど、でもそれには事情があったわけで…!
だから私、高梨さんとはお付き合いできないんですっ
お願い、わかって下さい…っ」


私は上になっている高梨さんに、精いっぱい説得を試みた。

いくら私の方が悪くても、2回もキスされたなんて勇さんに知られたら…!

想像しただけで怖いよぉっ。


だから、どうかわかって!
私は高梨さんとはお付き合いできないという事を!
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