47 / 76
➄
しおりを挟む
複雑な心境のまま、私は晩ご飯の支度を再開しようとした。
炊飯やら調味料のニオイに酔いそうだけど、ガマンしなきゃ…
「優」
包丁を持ってキッチンに立つ私に、勇さんが後ろから抱きしめた。
「わぁっ
ビックリしたぁ!」
そう言ったのに、勇さんは抱きしめる私の身体を離さない。
背中をすっぽり包み込まれあったかい。
こめかみ部分には唇もあてられる。
何の言葉も放たないんだけど、抱きしめる腕だけはしっかりと強い。
「……優…いつもありがとな……」
「うん、勇さん」
こんな私を、こんなにも捕まえててくれるんだ…。
今、言っちゃおうかな。
私のお腹ね、勇さんとの赤ちゃんがいるんだよって。
…でも、いらないって言われるかもしれない。
だけどどちらにしても、ずっと言わないわけにはいかないから…っ。
「…ね、勇さん…」
「ん?」
私の身体を離さないまま、勇さんは返事をした。
今から私が言おうとしてる事、多分予想すらできないと思う。
結婚もしてないのに赤ちゃんなんて言われても、きっと困るよね。
だったら、勇さんには秘密にしたままおろしちゃった方がいいのかな…。
でも、そんなの……
…♪♪♪ ♪♪♪…
「!」
急に鳴りだしたケータイに、私はハッとした。
私、今なに考えてたのよっ
「…電話、鳴ってるな。
お袋さんからじゃねぇのか?」
「あ…うん、そうだね」
抱きしめていた勇さんも、私が電話に出るように腕を離した。
お母さんからの電話かぁ…。
ずっと出てないから、きっとヒドく怒られるなぁ。
側で勇さんも聞いてるから、あんまり険悪な雰囲気がバレないように話さなきゃ。
そう思いながら、まだショルダーバッグに入れてたケータイを取り出した。
「……………!!」
けれども、取り出したケータイを開いて画面を見て凍りついた。
てっきり“お母さん”の文字が書いてあると思っていただけに、すっかり油断していた。
もちろんそれなりに、ずっと絶交していたお母さんとはどう話そうかと覚悟もしたんだけど、それはある意味取り越し苦労だったかな。
それよりも、一度はピンチだと思っていた状況に今度こそ陥ってしまった今をどう切り抜けようかと焦る。
「どうしたんだ?
お袋さんからなんだろ?」
鳴り続けるケータイになかなか出ない私に、勇さんが言った。
「あ、うん…」
…何度も見てきたこの番号。
これは、高梨さんからの電話だったのだ。
鳴ってるケータイを開いているのに出ないなんておかしいって思われるよね。
ましてや、勇さんはこの電話をお母さんからだと思ってる。
その電話に出なかったら、今お母さんとケンカしてる事が勇さんに伝わっちゃう。
お母さんの所に一緒にあいさつに行くって話を勇さんには聞かせちゃってるもの。悪い雰囲気を感じさせたくないっ。
だけど、本当にお母さんからならともかく、高梨さんからの電話にどう対応したら…
「…もぉ、お母さんったら…」
なんて言いながら、震える指で通話ボタンを押し私はケータイを耳にあてた。
「…もしもし?」
『優、身体の具合はどう?
心配してたんだよ』
甘く優しい声色で、高梨さんが応答した。
もちろん側で勇さんが私の反応をうかがっている。
電話の相手を、お母さんだと思い込んだまま。
炊飯やら調味料のニオイに酔いそうだけど、ガマンしなきゃ…
「優」
包丁を持ってキッチンに立つ私に、勇さんが後ろから抱きしめた。
「わぁっ
ビックリしたぁ!」
そう言ったのに、勇さんは抱きしめる私の身体を離さない。
背中をすっぽり包み込まれあったかい。
こめかみ部分には唇もあてられる。
何の言葉も放たないんだけど、抱きしめる腕だけはしっかりと強い。
「……優…いつもありがとな……」
「うん、勇さん」
こんな私を、こんなにも捕まえててくれるんだ…。
今、言っちゃおうかな。
私のお腹ね、勇さんとの赤ちゃんがいるんだよって。
…でも、いらないって言われるかもしれない。
だけどどちらにしても、ずっと言わないわけにはいかないから…っ。
「…ね、勇さん…」
「ん?」
私の身体を離さないまま、勇さんは返事をした。
今から私が言おうとしてる事、多分予想すらできないと思う。
結婚もしてないのに赤ちゃんなんて言われても、きっと困るよね。
だったら、勇さんには秘密にしたままおろしちゃった方がいいのかな…。
でも、そんなの……
…♪♪♪ ♪♪♪…
「!」
急に鳴りだしたケータイに、私はハッとした。
私、今なに考えてたのよっ
「…電話、鳴ってるな。
お袋さんからじゃねぇのか?」
「あ…うん、そうだね」
抱きしめていた勇さんも、私が電話に出るように腕を離した。
お母さんからの電話かぁ…。
ずっと出てないから、きっとヒドく怒られるなぁ。
側で勇さんも聞いてるから、あんまり険悪な雰囲気がバレないように話さなきゃ。
そう思いながら、まだショルダーバッグに入れてたケータイを取り出した。
「……………!!」
けれども、取り出したケータイを開いて画面を見て凍りついた。
てっきり“お母さん”の文字が書いてあると思っていただけに、すっかり油断していた。
もちろんそれなりに、ずっと絶交していたお母さんとはどう話そうかと覚悟もしたんだけど、それはある意味取り越し苦労だったかな。
それよりも、一度はピンチだと思っていた状況に今度こそ陥ってしまった今をどう切り抜けようかと焦る。
「どうしたんだ?
お袋さんからなんだろ?」
鳴り続けるケータイになかなか出ない私に、勇さんが言った。
「あ、うん…」
…何度も見てきたこの番号。
これは、高梨さんからの電話だったのだ。
鳴ってるケータイを開いているのに出ないなんておかしいって思われるよね。
ましてや、勇さんはこの電話をお母さんからだと思ってる。
その電話に出なかったら、今お母さんとケンカしてる事が勇さんに伝わっちゃう。
お母さんの所に一緒にあいさつに行くって話を勇さんには聞かせちゃってるもの。悪い雰囲気を感じさせたくないっ。
だけど、本当にお母さんからならともかく、高梨さんからの電話にどう対応したら…
「…もぉ、お母さんったら…」
なんて言いながら、震える指で通話ボタンを押し私はケータイを耳にあてた。
「…もしもし?」
『優、身体の具合はどう?
心配してたんだよ』
甘く優しい声色で、高梨さんが応答した。
もちろん側で勇さんが私の反応をうかがっている。
電話の相手を、お母さんだと思い込んだまま。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される
アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。
花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。
日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。
だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる