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…ふと、高梨さんは急に変な事を言い出した。
「見た所、君は求職中なのかい?
ずいぶん張り切って就活してるようだけど」
その視線の先には、勇さんが持って帰った求人情報の書類が部屋の角にある。
私がアパートに帰って来るまでの間、2人で会話こそはしてなかったんだろうけど、高梨さんは黙って部屋の中を物色していたんだ。
「…そんな事、お前に関係ねぇだろっ!」
あまり触れられたくない話であったろう勇さんは、ちょっぴりバツの悪い表情を見せた。
「関係あるさ。
これはきっと、君にもおいしい話だと思うよ」
「?
一体何が…」
「僕の経営する会社。
まだまだ小さなもんで、年商たった3億なんだけどさ。
それと同じ額の3億、君に譲ろうと思うんだ」
な、何を言い出すの?
高梨さん!!
「何の真似だ」
3億って、どんだけ膨大な額か高梨さんはわかって言ってるのかしら。
会社の年商額を、いきなり人に譲るなんて。
お金持ちの人の考える事は、やっぱりよくわからないよ…。
「想像してごらんよ。
普通の人間が3億なんて、よっぽど運良く宝くじで当てるか銀行でも強盗しない限り、手になんかできない額だよ」
普通の家庭に生まれて普通の人生送ってたら、なかなか目にする事も出来ないのは確かだ。
宝くじなんて買った事もないから、私には尚更縁がないとは思うけど。
だけど、どうしてそれを…
「それをね、君に譲ってあげるよ。
…優と、交換でね」
「…!!!」
高梨さんの言葉に、ゾクッと悪寒がした。
私を…3億で勇さんから譲ってもらおうって事を言ってたんだ!
「金で…優を買うってのかっ!?」
「買うだなんて。
僕は譲歩してほしいって言ってるだけだよ。
君みたいな一般人なら3億なんてお金、見た事も触った事もないだろ?
僕は決して悪くない話だと思うよ」
買うとか買わないとか、どちらにしても同じ意味だよぉっ
それにしても、3億円なんて大金。
確かに高梨さんの言う通り、普通の人生送ってたら目にも手にも触れる事はない。
3億円なんて、いきなり自分にそんな話を持ちかけられたら、普通の人ならどう思うのかな。
…でもね、私にはわかるの。
そんな話を持ちかけられても、きっと勇さんならこう言ってくれるって。
朝アパートを出る前に仕掛けたお米が、炊けていってる音が聞こえてくる。
そんな蒸気のニオイにちょっぴり吐き気を感じながらも、私は2人のやり取りを聞いていた。
ううん、勇さんの言葉をジッと待っているの。
「3億…ね。
確かに一生、俺みたいな奴には遊んでいける額かもな」
「あぁ、決して安くはないだろ?
じゃあ、譲ってくれるね?…優の事」
…安くは、ない。
3億という金額は、もちろん“安い”と呼べる数字ではないよ。
年収額でもある3億を、私の為に叩き出そうとしている高梨さんなんだ。
だから私の事を、めいっぱい高く見てくれてるんだと思う。
…でもっ
逆に言えばそれは、3億あれば絆さえも崩す事ができるわけだ。
「…だけどな」
ドキン ドキン
胸が大きく鳴ってきた。
――勇さん…!!
「確かに3億は大金だし、駆け引きには良い額かもしれねぇけどよ…」
でも、お金なんかじゃ譲れないものがあるの。
3億でも10億でも、譲れない絆があるんだよっ
「だが、残念だったな。
お前にとっては優は3億の価値と思ってるんだろうが、俺にとっては3億じゃ譲れねぇんだよ!」
「おっと失礼。安すぎたかな?
いくらを要望か、聞かせてもらおうか」
「ふざけるな!
それくらい、どこにもやれねぇ大事なもんなんだって言ってんだっ!
そもそも優に値段をつけるような奴が、優を守っていく資格なんてあるわけないだろうが!!」
「______________っ」
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「見た所、君は求職中なのかい?
ずいぶん張り切って就活してるようだけど」
その視線の先には、勇さんが持って帰った求人情報の書類が部屋の角にある。
私がアパートに帰って来るまでの間、2人で会話こそはしてなかったんだろうけど、高梨さんは黙って部屋の中を物色していたんだ。
「…そんな事、お前に関係ねぇだろっ!」
あまり触れられたくない話であったろう勇さんは、ちょっぴりバツの悪い表情を見せた。
「関係あるさ。
これはきっと、君にもおいしい話だと思うよ」
「?
一体何が…」
「僕の経営する会社。
まだまだ小さなもんで、年商たった3億なんだけどさ。
それと同じ額の3億、君に譲ろうと思うんだ」
な、何を言い出すの?
高梨さん!!
「何の真似だ」
3億って、どんだけ膨大な額か高梨さんはわかって言ってるのかしら。
会社の年商額を、いきなり人に譲るなんて。
お金持ちの人の考える事は、やっぱりよくわからないよ…。
「想像してごらんよ。
普通の人間が3億なんて、よっぽど運良く宝くじで当てるか銀行でも強盗しない限り、手になんかできない額だよ」
普通の家庭に生まれて普通の人生送ってたら、なかなか目にする事も出来ないのは確かだ。
宝くじなんて買った事もないから、私には尚更縁がないとは思うけど。
だけど、どうしてそれを…
「それをね、君に譲ってあげるよ。
…優と、交換でね」
「…!!!」
高梨さんの言葉に、ゾクッと悪寒がした。
私を…3億で勇さんから譲ってもらおうって事を言ってたんだ!
「金で…優を買うってのかっ!?」
「買うだなんて。
僕は譲歩してほしいって言ってるだけだよ。
君みたいな一般人なら3億なんてお金、見た事も触った事もないだろ?
僕は決して悪くない話だと思うよ」
買うとか買わないとか、どちらにしても同じ意味だよぉっ
それにしても、3億円なんて大金。
確かに高梨さんの言う通り、普通の人生送ってたら目にも手にも触れる事はない。
3億円なんて、いきなり自分にそんな話を持ちかけられたら、普通の人ならどう思うのかな。
…でもね、私にはわかるの。
そんな話を持ちかけられても、きっと勇さんならこう言ってくれるって。
朝アパートを出る前に仕掛けたお米が、炊けていってる音が聞こえてくる。
そんな蒸気のニオイにちょっぴり吐き気を感じながらも、私は2人のやり取りを聞いていた。
ううん、勇さんの言葉をジッと待っているの。
「3億…ね。
確かに一生、俺みたいな奴には遊んでいける額かもな」
「あぁ、決して安くはないだろ?
じゃあ、譲ってくれるね?…優の事」
…安くは、ない。
3億という金額は、もちろん“安い”と呼べる数字ではないよ。
年収額でもある3億を、私の為に叩き出そうとしている高梨さんなんだ。
だから私の事を、めいっぱい高く見てくれてるんだと思う。
…でもっ
逆に言えばそれは、3億あれば絆さえも崩す事ができるわけだ。
「…だけどな」
ドキン ドキン
胸が大きく鳴ってきた。
――勇さん…!!
「確かに3億は大金だし、駆け引きには良い額かもしれねぇけどよ…」
でも、お金なんかじゃ譲れないものがあるの。
3億でも10億でも、譲れない絆があるんだよっ
「だが、残念だったな。
お前にとっては優は3億の価値と思ってるんだろうが、俺にとっては3億じゃ譲れねぇんだよ!」
「おっと失礼。安すぎたかな?
いくらを要望か、聞かせてもらおうか」
「ふざけるな!
それくらい、どこにもやれねぇ大事なもんなんだって言ってんだっ!
そもそも優に値段をつけるような奴が、優を守っていく資格なんてあるわけないだろうが!!」
「______________っ」
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