ソラマメ

ソラマメ

ソラマメと七海

「おはよう、ソラマメ」

山里七海やまさとななみ、28歳（正しく言うと、もうすぐで29歳）普通の会社員。私が朝起きて、一番初めに発する言葉だ。この街に引っ越してきた３年前のある日からの日課である。

毎朝8時丁度に現れる野良猫のソラマメ。野良猫には思えない漆黒の毛並み。茹でたてのソラマメの様に、鮮やかなグリーンの瞳。私は、毎年実家から送られてくるソラマメが大好きだ。塩で茹でて、茹でたてをビールと頂く。あれ程至福な時はない。そんな大好きなソラマメに似ていると思って、ソラマメと名付けた。名付けたと言っても飼ってる訳ではない。

私がこの街に引っ越して来たのは丁度３年前。その翌朝から、毎日この猫は8時丁度にやって来た。初めは、ここに居ついている猫なんだ。くらいにしか思っていなかった。でも、毎朝会う度に愛着が湧き、しかもよく見たらお目目が大好きなソラマメによく似ていて、とても綺麗だった。

その日からソラマメと名付け、毎朝出勤前の朝8時に声を掛ける。最近ではお徳用のカリカリも買い、あげている始末だ。でもカリカリはいつもものの5分でなくなり、食べたらソラマメはどこかに行ってしまう。それでも、私にとってその5分間は幸せな朝の始まりだった。