訳ありメイドは女嫌いなはずの主人に求愛される

水無月瑠璃

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23話



ルークとセレナはこうして正式に付き合うことになった。未だにどこか現実味がなく、フワフワとしている。あの時のあんな気持ちをまた味わうくらいなら一生一人の方が良いと頑なになっていた半年前の自分が知ったら、とても驚くだろう。初対面の印象が良いとは言い難かったルークと、こんな関係になるとは思ってもみなかった。

(恋人って何をするものなの……?買い物?それだと普段とあまり変わらないわね)

あとは同じ部屋で過ごす、だろうか。そういった情報を遮断、聞き流してきたからか全く分からない。一人頭を悩ますセレナに、隣に椅子を移動させたルークが話しかけてきた。

「……あのさ……セレナって呼んで良い?俺のこともルークって呼んで欲しい」

早速名前で呼ぶようお願いされた。恋人ならいつまでも「旦那様」呼びは距離がある。セレナは異性を名前で呼ぶのは数年ぶりの事だ。ただ名前で呼ぶだけなのに、妙に緊張してきた。

「わ、分かりました……ル、ルーク様……」

「……セレナ」

互いに名前を呼び合う。二人の顔がじわじわと朱に染まっていく。

「……段階すっ飛ばしてるのに今更名前呼びで照れるとか」

「っっっ!」

あの日のことを匂わされ、セレナの肩は思い切り跳ねた。ルークの言うことは尤もなのだが、照れくさいのだから仕方ない。

「まあ、そのうち慣れるか……それで、その……セレナさえ良ければ、一緒に住まない?」

悶えるセレナにルークは更に爆弾を投げつけてきた。さらりと名前で呼ばれていることを指摘する余裕はない。セレナは衝撃のあまり口を開けたまま固まった。一瞬遅れて、セレナは声を上げた。

「え、あ、す、すむ……?一緒に?」

「うん」

「な、なぜ」

「何故?毎日あんたの顔見たいからだよ。今は週3、半日しか会えない。そんな状況にもう、俺が耐えられる気がしない」

ストレートに気持ちを告げてくるルークにセレナは狼狽えた。付き合うというだけでもセレナはいっぱいいっぱいなのに、ここに一緒に住むという話まで加わったら。展開が早すぎてついていくのがやっとだ。

「セレナにとってのメリットは、家賃が浮くからその分貯金に回せるくらいしかない……それに住むとなると今の契約をどうするかって問題が出てくる」

「契約ですか……あ、そうですよね」

通いで家事をしていた時と違って、住むとなると色々勝手が変わってくる。依頼人と恋仲になった場合の対処法はマニュアルにはなかったので、適切な方法が分からない。

「俺は今まで通り契約したままで良いんだけど、セレナはどうしたい」

「私としては一緒に住むのに週3、半日契約のままだと仕事とプライベートの線引きが難しいと思います」

週3日は仕事として完璧に、あとは適宜自室を掃除するような感じでというのも面倒だ。ルークは完璧を求めているわけでないので、契約にこだわる必要もないのではないかと思う。

「契約、解除した方が良いのではないでしょうか。給金が発生すると仕事の気分が抜けないと思いますし、一緒に住むのでしたら家事くらいやりますよ」

そう提案するとルークは不服そうに眉間に皺を寄せる。

「俺、家事をして欲しくて一緒に住もうって言ったわけじゃない」

「それは最初から疑ってません。この前所長から働き過ぎだと指摘されたんです。これを機に仕事量をセーブするべきかと考えていたところなので、丁度良いです」

契約先が一つ減ってもセレナの給料に然程影響はない。家賃が浮くのなら尚更、無理にルークとの契約を継続させる理由はない。

「……あんたがそれで良いなら。でも、まかせっきりなのも悪いから俺もやるよ……料理以外は」

料理、と口にした瞬間ルークの表情が暗くなった。フランクから包丁を持つことすら禁止されているルークだが、実際の腕前は分からない。これを機に聞いてみようと思う。

「あのルーク様、料理が全く出来ないとおっしゃってましたがどの程度の腕前ですか」

「……スープを作ろうとしたら鍋から火柱が上がって、当時住んでたアパートメントで火事を起こしかけたレベル」

「え」

スープって、火柱が立つほど油を使う料理だっただろうか。しかし、ルークが嘘を吐くとの思えないので本当なのだろう。肉を焼いていたのなら火柱が上がるのも分からなくはないが、スープは本当に意味が分からない。

「料理の本を買って手順通りにやっても、変な物体が出来上がったり、真っ黒に焦げたり味がしなかったり全く上手く出来なかったから、諦めて外食か市販品を買っていた。あと包丁で盛大に指を切って診療所に駆け込んでからはフランクに料理自体禁止された。あれから結構経っているけど……腕前は確実に退化している」

ルークはふっと諦めたように笑った。これは下手とかそういうレベルではないな、とセレナは悟る。多分セレナが見守る中で料理を手伝ってもらっても、ハラハラし過ぎて寿命が縮む未来が見えた。

「……料理は私がするので、掃除や洗濯はルーク様と私で分担しましょう」

セレナが静かな口調で提案すると、ルークは無言でコクリと頷いた。

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