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13話
しおりを挟むシャワーを浴びた後葉月と花村は朝食を食べに部屋を出る。このホテルは宿泊客以外でも朝食、夕食を規定の料金を払えば食べることが出来るので折角なら、と葉月は誘ってみた。花村は快く承諾してくれたので内心小躍りしていた。しかし、当然宿泊客優先なので混んでいる場合は断念するしかない。が、時間が早かったからかまだ空いていたようですんなり席に座ることが出来た。
バイキング形式の朝食では、葉月も花村も洋食メニューを中心に選んでいる。
「自炊する時はほぼ和食なので、こういう時はパンを選ぶんですよ」
「私もです。それにしても…優吾さん朝からガッツリ行くんですね」
花村のお盆にはロールパン2つにライ麦パン2枚、サラダ、スクランブルエッグ、ウインナー、ベーコン、マッシュポテト、ミニハンバーグが長方形の皿にバランス良く盛られ、その上コーンスープにフルーツヨーグルトまで並べられている。朝はあまり食べない葉月は彼の食欲には驚く他ない。昨夜は酒を飲むところしか見てなかったから、こんなに食べる人だとは知らなかった。
「俺結構食べる方なんですよ、それより葉月さんその量で足りますか?」
葉月のお盆には小さな食パン2枚、丸い皿にウインナーにベーコン、フライドポテトが盛られ、サラダとヨーグルトが並んでいた。どれも少しずつなので、全体的に見ても量は少ない。
「私、あんまり量食べれないんですよね。これでも多いくらいです」
そう答えると「そうなんですね」と納得したように頷くとさらりとその話題を流し、食べ始めた。葉月は食え食えと押し付けてくる人が少し苦手なので、花村がそうではなくてホッとした。葉月も彼に倣って食べ始める。互いに選んだ料理の感想を言い合ったり、この後の予定を話していたらあっという間に食べ終わってしまった。
花村の方が先に食べ終わったが、こちらを急かす雰囲気は全く出さず普通に話題を振ってくれる。まだ腹に余裕があったのかミニパンケーキを取りに行った時は「まだ入るの!?」とフォークを持つ手が止まってしまった。あれだけ食べてるのに無駄な肉は付いていないのは、普段から鍛えているからだろう…とまたも昨夜のことを思い出しかけた葉月は1人で悶絶する羽目になった。花村が席を離れていて心底良かったと思った。
花村は店の準備のため食べ終わるとすぐ帰ってしまったが夜には会えるので寂しくはない。彼から行くべき観光地やカフェ、レストランの情報を仕入れておいたので有効的に使おうと思う。ちょっと腰に違和感があるが、歩けないほどではないので颯爽と外に繰り出した。
夜に合わせて体力を温存しつつあちこち歩き回っていると時間が経つのが早い。葉月は事前に決めていた通り18時前にはホテルに戻り、シャワーを浴びる。期待しているわけではなく身だしなみの為だ。汗臭く化粧も取れた顔で会うのは失礼だからである。
18時半過ぎにエントランスに現れた花村は急いでいたのか薄らと汗を掻いていた。その姿ですら絵になる人であり、感嘆のため息を溢しそうになる。
「今朝ぶりですね、早く会いたかったです」
葉月の前に立った花村はストレートな言葉をぶつけてきて、衝撃で少しよろめいた。ここで「私も」と返せる度胸があれば良かったが、残念ながら無い。あはは、と曖昧に笑うことが精一杯だった。花村は流れるように甘い台詞を言う。この見た目だ、経験豊富なのは間違いない。過去の恋人にも同じことを言ってきたのか…と考えるとモヤモヤしてしまう。今の葉月は期間限定の相手に過ぎないのに、図々しいにも程がある。胸の痛みを誤魔化して、葉月は花村のお薦めしてくれる居酒屋へと向かった。
花村お薦めの居酒屋はこじんまりとした隠れ家のような外観で、1人では入りづらい感じだ。彼は何度か足を運んでいるようで、メニューについても詳しい。葉月は花村がお気に入りだと教えてくれた料理を頼む。
「酒、飲みますよね。俺がいるから飲み過ぎで潰れても大丈夫ですよ」
「いえいえ、今日はセーブしますよ。昨夜のようにダル絡みする訳にはいきませんから」
「…」
何故か花村の顔には不服だ、と大きく書かれている。散々迷惑をかけられた側である花村からしたら、葉月が飲む量をセーブした方が助かるはずなのに。首を傾げていると花村が昨日葉月が飲んでいたカクテル(度数高め)をサラッとタブレットで注文している。すさかず葉月は問いかけた。
「え、私のこと酔い潰す気ですか」
花村は本心を悟らせない、飄々とした態度でこう答える。
「いいえ?潰れたらそのままホテルに送って終わりですからね。俺としては程々に酔っ払った葉月さんが見たいんです」
「…酔った私、延々と話し続けて最後には泣き始める面倒な奴でしたよね?」
「そこが可愛いんですよ」
可愛いどころかウザい要素しかないと当の葉月は突っ込みたかったが、花村が蕩けるような眼差しでこっちを見るものだから何も言えなかった。花村にドS疑惑と共に「趣味が変わっている」疑惑が加わった。彼ならば葉月とは比べ物にならない美人の誘いを受けることもあるだろうに。
(あれかな、高級料理ばかり食べていたら偶に庶民的な料理が食べたくなるってやつ)
葉月は1人で勝手に納得していた。
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