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12話
しおりを挟むちょっと意味が分からない、と葉月は瞠目したが花村は気にせず話を続ける。
「俺達身体の相性が良いことは分かったけど互いの事、まだ良く知らないじゃないですか」
身体の相性、その言葉を聞いた葉月の顔がボン、と赤くなる。そうか、昨夜あんなにも醜態を晒してしまったのは相性が良かったから。そう考えると元彼とは相性が悪かったのかもしれない、と今になって思い至った。
「相性…良いんですかね」
「え?葉月さんあんなに気持ちよさそうに喘いで、乱れまくっていたじゃないですか。相性が良い以外にないでしょう」
花村はワザとなのかこっちの羞恥心を煽る言葉を敢えて選んでいる気がしてならない。今だってプルプルと恥ずかしさで震えている葉月を、それは楽しそうな顔で見ている。葉月の中の花村ドS疑惑が更に強まった瞬間だった。この話題を早く終わらせたくて葉月はコクコクと頷いた。
「それでですね、もっと互いのことを知るべきだと思うんですよ。嫌ですか?」
嫌か、と聞かれても。そんな捨てられた子犬のような顔でお願いされたら断れる人間は居ないと思う。葉月は花村の意図が何となく分かってきた。
(店長.…優吾さんは相性が良い私とこれっきりにするのが惜しい。けどストレートに誘うと私が断ると思ったから、こんな遠回しな言い方で誘っているんだ)
流石気遣いが出来る男花村、食事という願ってもないオプション付きでこちらを誘惑してくるとは。断る術があるわけがない。確かに葉月の存在は彼にとっても都合が良い。一週間後にはここを去るから後腐れがない。それでいて人畜無害そうで、間違ってもストーカー化しない女。思い余っても葉月に人としての一線を越える度胸はないので、色んな意味で花村にとって「丁度良い」相手だ。
しかし、一度だけのつもりがズルズルと続けてしまったら帰る日に未練タラタラになり綺麗にお別れするのが辛くなってしまう。
(…それでも、もう少し一緒に居たい。どうせ暫く恋愛出来そうにないし、この旅を思い出にして生きて行こう、うんそれが良い)
訪れる辛さを引き換えにしても、この期間限定の関係を続ける選択を取る。葉月はそう決意し、キリッとした顔つきで花村を見据えた。
「嫌では、ありません」
「そうですか、良かったです。あ、そうそう明日の予定は決まってますか?」
「?いいえ、一人旅なので行き当たりばったりで、当日決めようかと」
「明日店休みなんですよ、ガイド代わりにこの辺の観光地案内しますよ」
更なる花村の提案に葉月は驚きを隠せない。
「え、定休日は日曜では」
「普段はそうですけど、俺が代理をしている間の休みは不定期にしてるんです。流石に1人でずっとは厳しくて。父には元々休みにするつもりだったから好きにしろと言われていたので、好きにしています。本当道楽者みたいな働き方をしてますよ」
苦笑しながら、3日働いたら1日休む形にしていると教えてくれた。そういえばレジに日付に丸の書かれたカレンダーと注意書きのようなものが貼られていた気がする。あれに休みが不定期であることが書かれていたのだろう。
「葉月さん来週の月曜帰られるんですよね。木曜と月曜は休みなので、俺と一緒に過ごしてくれませんか?退屈させないよう、努力します」
花村は葉月の意思に委ねる誘い方をしてくる。決して強引ではない、でも断らせない雰囲気を醸し出していた。理由は彼の瞳だ。獲物に狙いを定めた肉食動物の瞳をしており、彼にずっと見つめられているとゾクゾクとしてくる。こちらに選ばせているように見せて、最初から自分の望む答えを引き出そうとしているのだ。葉月はこの先が辛くなると分かっていても、断ることは出来そうになかった。
「分かりました、お言葉に甘えて…」
「ありがとうございます、楽しみですね」
葉月が誘いを受けたことを心の底から喜んでいると、自分にとって都合の良い解釈をしてしまう。
「…あ、葉月さんずっとその格好だと風邪引いてしまいます、風呂入った方が良いですよ」
ハッとした花村に指摘され、葉月は自分が素っ裸であることを思い出した。胸まで布団で隠しているとはいえ、途端に恥ずかしくなり布団を身体に巻き付ける。そんな葉月に花村は呆れ気味だ。
「今更隠しても、全部見ましたよ?」
「そういうこと言わないでください!」
キッと睨むが花村には全く効いておらず、何故か彼の目が鋭く光った。本能的に身の危険を感じた葉月は散らばった服を回収して、そそくさと洗面所に向かう。その際花村は着替える葉月の姿を見ないよう顔を背けていた。意地悪な態度を取っていたのに、バーでの紳士的な姿を思い出させる彼の気遣いに葉月は募る思いを抑えるので精一杯だった。
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