11 / 23
11話
しおりを挟む目を開けた葉月の視界に飛び込んできたのは見慣れない天井、薄暗い部屋。閉め切ったカーテンの向こう側は明るくなっている。
(あれ、朝)
いつの間にか寝てしまっていたのか、と寝返りを打った葉月の目の前にすうすう、と気持ち良さそうに眠っている裸の男…花村がいた。その瞬間ぼんやりとしていた葉月の意識は完全に覚醒した。
(そうだった、店長さんのこと誘ったんだ…!)
昨夜は気が大きくなっていたからどうにかなっていたものの、シラフに戻ってしまうと何て大胆なことをしてしまったのだと頭を抱える。ここで記憶が飛ぶタイプなら困惑するだけで済んだが、葉月は飲んでも記憶が飛ばないタイプだ。なので昨夜下手くそな誘い文句で花村を誘ったこと、生々しい吐息、互いの汗の匂い、熱いキス、別人のような荒々しさで葉月を延々と貪った花村の姿もバッチリ覚えてしまっているので朝から思い出して顔が熱い。それどころか下腹部が疼く。これではとんだ変態だ、と葉月は布団に顔を埋めて悶える。
(店長さん起きたら謝ってお礼を伝えて…今度こそお別れしよう)
花村は不憫な葉月のことを慰めてくれたに過ぎない。彼の優しさにこれ以上縋っては迷惑だ。既に多大な迷惑をかけているのだから、葉月は速やかに彼の目の前から去るべきなのだ。
(一番の思い出になったわ、あいつらが性懲りも無く話しかけてきたら自慢してやろう)
ふふふ、と性格の悪いことを企んでいると隣の花村がモゾモゾと動き、目を薄らと開けた。むくり、と身体を起こした彼は朝が弱いのかぼーっとして辺りを見渡す。そして葉月の存在を確認すると、少しだけ目がシャキッとして「おはようございます…」と挨拶してくれた。寝起きのせいか声が掠れていて色っぽい。もう今の葉月はそんな些細なことにも反応してしまうようだ。朝から妙な気分になっていることを悟られたくない葉月は上擦った声で「お、おはようございます…」と返してしまった。花村はまだ頭が働かないのか、葉月の様子がおかしいことに気づいてない。ふああ、と大きなあくびをすると葉月を見据えた。
「身体大丈夫ですか。すみません、昨夜は年甲斐もなくがっついてしまい」
気遣う言葉をかけてくれ、謝る花村に葉月は顔の前で手を振った。
「大丈夫ですし、謝らないでください…その、とても良かったので」
尻すぼみになりながらも昨夜の感想を恥ずかしさから顔を逸らして告げる葉月。花村は安心したのか表情を綻ばせた。
「それは良かった。嫌なこと、忘れられました?」
昨夜、嫌なことを忘れさせると宣言した時と違い葉月を容易く頷かせるような圧は感じず、あくまで葉月が憂いを解消出来たかを気にしていた。
「はい、おかげさまで…あの、本当にありがとうございました…」
短い間でしたが、お世話になりました。もうお会いすることもないと思いますがお元気で。そう続けなければいけないのに、喉の奥がつっかえて言葉が出ない。だが言わなければいけない。葉月はどうにか言葉を絞り出そうと、深呼吸をした。そして、遂に決心がついた。顔を上げ、無理矢理口角を上げる。最後は笑顔で別れる方が良い。
「短い間で」
「葉月さん、今日の夜予定はありますか」
ほぼ同時で、だが花村の声が葉月の加細い声を上回ったので掻き消されてしまった。葉月は突然の質問に呆気に取られるも、つい「ありませんけど…」と答えてしまう。すると花村は良かった、と穏やかな笑みを向けて来る。
「夕飯一緒にどうですか?店が終わるのが18時で、そこから色々とすることがあるので迎えに来られるのは18時半頃と遅くなってしまいますが…駄目ですか?」
「だ、駄目なんてそんな、是非!」
あれ、と気づいた時には口が勝手に動いていた。今さっきまで別れの言葉を告げるつもりだったはずなのに誘いを承諾している…何が起こったんだ?と首を傾げそうになる。しかし、それよりも葉月は花村の意図が気になって仕方がない。何故一夜の相手を誘うのか?と。
「あの店長さん」
「優吾」
「え」
「店長呼びは他人行儀で寂しいので、是非名前で」
ね?と笑顔なのにそこ知れぬ圧を発する花村に葉月は頷くしかなく「はい…優吾さん」と初めて下の名前で呼んだ。花村は名前を呼ばれ大変満足そうである。葉月は気を取り直して再度疑問を投げかけた。
「それで、何故私を誘ったんですか」
「そんなの、葉月さんともっと話したいからですよ」
「へ?」
34
あなたにおすすめの小説
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる