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最終話
しおりを挟む葉月が乗る電車の時間が近づいて来たので、2人揃って駅へと向かう。お盆最終日なだけあって駅構内は帰る人でごった返している。来た時もこんな感じだった、一週間しか経っていないのに懐かしく感じた。葉月は花村に持ってもらった荷物を受け取り彼に向き直る。
「それじゃあ、一足お先に帰りますね。戻ったら連絡するので…どうしたんですか」
花村の表情が何故か曇っている。さっきまで普通に話していたのに何があったのか。
「…俺も早めに東京戻ろうかな」
そんなことを言い出した花村に葉月は思わず声を上げた。
「はい?ご両親が戻るまではこっちにいるのでは?」
彼の両親は数週間の旅行に出掛けており来週戻る予定だ。その間閉めるはずだった店を長期休暇中の花村に任せることになった、と聞いているが。
「うん、そのつもりだったけど…あと1週間以上葉月と物理的な距離が出来るのがきつい、耐えられない」
花村は捨てられた犬のようにシュン、とした。えーー!と葉月は驚愕を露わにした。薄々察していたが、花村は見かけに寄らず結構情熱的だ。先ほど彼がさらりと今までの恋愛遍歴を語ってくれたが、彼の中で恋人の優先順位が高くなくそれが理由で振られ続けたという。てっきり淡白な人だと思ってたが、思い違いだったようだ。葉月は顔がにやけるのを抑えられない。しかし、いや待てと冷静になった。
「あの、嬉しいんですけど…お店はどうするんですか。ご両親から留守を任されたんですよね?」
花村がすぐにでも東京に戻ってくれたら嬉しいが、彼の性格上任された店を途中で放棄する真似はしたくないはずだ。葉月も花村にその選択をさせてしまった後ろめたさから、早めに戻って来たとしても心の底から喜べない。すると花村の表情が悩ましげに歪む。
「…やっぱり、父から店任された立場で責任放棄するって最低だよな。悪い今の忘れてくれ」
「はい…実は、ほんのちょっぴり早く戻ってくれたら嬉しいなって思っちゃいました。駄目なことなんですけどね」
あはは、と冗談めかして告げると花村が真顔になる。
「…俺が早めに戻りたいって言ったの8割は本気だったぞ」
「え」
「なんて、冗談。本気だったのは2割」
笑う花村だが目と声のトーンが本気のそれだった。もしや葉月が先に店をどうするかについて触れなかったら、本気で店を閉めて東京に戻る気だったのでは?という疑問が過る。いやそんなわけない、と否定しつつも葉月は花村のことを全て知ってるわけではない。淡白だと思い込んでいたのに、葉月と離れたくないと告げてくれた花村。葉月がまだ知らない、これから知ることになる花村の色んな一面があるのだろう。
それらを知ることの出来る立場になった幸運を、葉月は噛み締めた。すると葉月が乗る予定の電車が到着するというアナウンスが聞こえて来る。今度こそ本当にお別れだ。改札に向かおうとする葉月を花村は呼び止める。
「新幹線に乗ったら連絡してくれ。心配だから。あと、酒。強いのは知っているけど飲み過ぎるなよ、特に1人の時。ぶっ倒れたら冗談抜きで危ない。友達と飲んでる時もべろんべろんになるまで飲むのは控えること、あと…」
「分かってます、大丈夫です。そもそも私前後不覚になるまで飲んだことないんで、心配いりません」
胸を張って答えるとジトっとした目を向けられる。これは、信用されてないなと瞬時に悟った。5つも下だと庇護する対象に見えるのかもしれないが、もう25。立派な大人であり自分のアルコール量の限界は今回のことで把握している。心配はいらないのだが、葉月の自信は花村には伝わらなかったようだ。
「…一人旅で来た先のバ-でヤケ酒して、俺が止めないと飲み続けていた奴が言っても説得力ねぇよ」
花村の正論が葉月にダイレクトに刺さる。事実だがそんな葉月の誘いに乗ったのは何処の誰だ、なんて言い返したら面倒なことになりそうだから言葉を飲み込むが、言われっぱなしも癪だったので言い返した。
「それ言わないでくださいよ!正論は時に人を傷つけるんです、というか優吾さん…お母さんみたい」
「おかあ…」
遠回しに口煩いと、お母さん発言が思いの外ショックだったのか固まってしまった。が、直ぐに体制を立て直し不敵な笑みを向けて来た。
「お母さんね…ふーん、そう。向こうに戻ったら色々と覚えてろよ」
背後に黒いオーラを発する花村にひっ!と悲鳴を上げそうになるがタイミング良く電車が到着したようだ。葉月は逃げるように踵を返し改札を通る。
「ま、また東京で!」
一瞬だけ振り返り、言い逃げしてエスカレーターに駆け込んだ。
(優吾さん怒った?流石にお母さん呼びはアレだったかな。でも信用してくれない優吾さんも悪いし…それに覚悟しとけって何する気?え、怖くなってきた…)
ドアにもたれ掛かり、先ほどの花村の言葉を思い出し悶々と悩んでいると鞄に入れたスマホが振動した。すぐさま確認すると花村からのメッセージが届いている。恐る恐る内容を確認した。
「道中気を付けて。駅弁買うのなら、おすすめいくつか知ってるから参考にして」
そんなメッセージと共に店と弁当に名前が記されている。さっきの不穏な雰囲気は全く見られず葉月が取り越し苦労だった、とホッと胸を撫でおろした。
(怒ってなかった、やっぱり優しい)
またも花村にキュンとしている葉月。後日東京で再会した花村が「お母さん」発言をそこそこ気にしており今まで以上に激しく、ねちっこく執拗に責められることになる。そんなことを知る由もない葉月は花村に会える日を心待ちにしていたのだった。
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