君がいないと、息が出来ない

遥彼方

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彩菜の決心

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 翌朝。いつものように君の家のインターホンを押す。
 いつも通り、代わり映えのない朝。なんだけど、ちょっとだけドキドキする。

 もう、昨日君が変なことを言うからだよ。
 何にも考えてなかった私だって悪いんだけどさ。

 インターホンを押して少しすると君が玄関から出てくる。

「おはよう」
「おう」

 君の挨拶はいつもより短い。照れ臭いんだろう。こっちを見ない。
 私だって照れ臭い。けど、素知らぬ顔で切り出した。

「昨日のことだけどさ」
「ん」
「鈴木先輩のこと聞いてくれるように、田中くんにちゃんと頼んでよね」

 私が念を押すと君は肩透かしを食らった顔になった。

「は? そっちかよ」

 照れくさいのを忘れたらしい君が私に顔を向けてくる。

「そっちもこっちもないでしょ。大事な友達のことなんだから」

 私はしらばっくれて、他に何があるのとばかりに君を見る。

 昨日の間接キスうんぬんはもう忘れた。消去。それがいい。
 だって私は君とのこの空気が好きだ。肩に力が入らない、気兼ねもいらない。そんな君との時間が。

 変に意識して壊したくない。
 ずっとこのままでいたいって思う。

「あー、そうだったな。頼んどいてやるから安心しろって」
「よし頼んだ」
「へいへい」

 君は頭の後ろで腕を組み、適当な返事。こんな風に言っていても、わりと真面目な君はちゃんと聞いてくれるだろう。

 秋らしく大分温度の低くなった朝の空気を切って、私と君は学校へ向かった。


 また日が変わっての翌々日の朝。私は彩菜の姿を見かけると、挨拶もそこそこにぐっと親指を立てて見せた。

「千尋、それって」

 そそくさと私に駆け寄ってきた彩菜に、小声で君から聞いた内容を話した。

「大丈夫。鈴木先輩、付き合ってる人も好きな人もいないって」
「よかったぁ」

 彩菜の体から力が抜ける。ここ数日、ずっと緊張してたもんね。

「おはよう」

 そこへすみれも合流してくる。私はすみれにも同じことを話す。

「そうかあ。よかったね、彩菜。まずは第一関門突破だよ」

 すみれがほっと目元を柔らかくした。
 やっぱりすみれも心配していたんだね。私も結果を聞くまでドキドキしていたもの。

「えへへ、うん。ありがとう!」
「ここで安心しちゃだめよ。今度は先輩にアピールしないと」
「うん、そうだね。頑張る」

 彩菜がぐっと拳を握ってみせた。

「そうそう、その意気よ」

 私とすみれはそんな彩菜の肩をぽんぽんと叩いた。

「けど、どうやってアピールしたらいいのかな」

 鈴木先輩と一緒になるのは体育祭の練習の時のみ。それも学年ごとの練習がほとんどなので回数は多くない。

「廊下とかですれ違った時に挨拶するとか」
「階が違うのにすれ違わないよ」

 私の意見に彩菜が首を横に振った。うちの中学校の場合、一年生は一階、二年生は二階、三年生は三階という風に分かれている。

「じゃあ、朝、校門で挨拶とかは? 先輩が来る時間に合わせたらいいじゃない」
「あ、それなら」

 彩菜の頬がふわっと染まる。恥ずかしそうにうつむいた。

「それなら、してるの。おはようございますって言ったら、先輩いつも手を振って笑いかけてくれるんだ」

 凄い。彩菜、自分から積極的にいってるんだ。
 私だったらきっと出来ないなあ。

「わ、いいじゃない」

 すみれも驚いたようにぱちぱちとまばたきをした。

「でもでも、それくらい普通だしっ。他の先輩といるからそれ以上話かけられなくて。リレー練習で一緒の時はなるべく話しかけてるんだけど、私ばっか一方的に話しちゃうし」

 彩菜がもじもじと自分の指をこねくりまわす。この言葉に、私とすみれは顔を見合わせた。

 そこまで出来てるなら、私たちの出る幕なんてないんじゃない?

 すみれの目も私と同じことを語っている。二人でうん、と頷きあった。

「それでいいよ、彩菜。頑張れ」
「うんうん。その調子だよ。応援してるからね」

 それから毎日のように彩菜からは先輩の話題が出た。

 今日も挨拶を返してくれた。その時の笑顔が素敵だった。と頬に手をやってうっとりと。
 今日の部活は少しだけ調子が悪そうだった。大丈夫だろうか。と心配そうに眉を下げて。
 今日はたまたま階段でばったり会えた。すっごくラッキーだった。と花が咲いたみたいな顔で。
 今日はリレーの練習の日だった。けどあまり話せなかった。としょんぼり項垂れて。

 などなど。

 彩菜は先輩の事で一喜一憂。ころころと表情を変えてみせる彩菜は、とても生き生きしていて、可愛くて私とすみれまで幸せな気分になった。恋ってすごいなって思う。


 そんな風に日々が流れていき、いよいよ体育祭が近づいてくると、彩菜がぐっと右手を握って宣言した。

「決めた! 私、体育祭の日に先輩に告白する」
「えっ!?」
本気マジで?」

 いつもの昼休み、突然の宣言にびっくりした私とすみれの声は、思わず裏返った。
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