君がいないと、息が出来ない

遥彼方

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中学卒業。まだまだ子供の私と君

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 中学三年目の春。やはり緊張と共に迎えた三年生、そこからはあっという間だった。

 春季大会では私と彩菜のペア、君と清水くんペアが県大会に進んだ。それが終わればいよいよ引退だ。三年間。いや、二年半の部活が終わる。
 部活はもちろん、日曜日もコートが借りられる時は4人で練習した。勝っても負けても悔いは残したくないから。

 だけど現実は無情だ。私も君も一回戦であっさり負けて引退。

 部活を引退してしまえば一気に受験の空気に入れ替わる。
 今まで真面目にやっていなかったテスト勉強もしっかりやるようになった。いまいち分かっていなかった数学も一度仕組みを理解してしまえば、面白いように解け始めた。漢字だってうろ覚えにしていたものをしっかりと叩き込み直した。

 いつになく勉強を頑張っているわけだけど、当然周りのみんなも同じだ。順位がぐっと上がるわけでもなく全員の学力が底上げされていく。そんな三年生の後半だった。

「徹はさ、高校どこ行くの?」
「別に。近ければどこでもいい」

 いつもの帰り道、予想通り返ってくるのは気のない返事だ。

「ふうん。近いなら、城が丘しろがおか?」

 城が丘高校はここから近くて普通科の進学校だから一番無難だ。うちの中学からもそこへ行く人が多い。

「まあな」
「そっか」

 そういう私も城が丘を受ける予定だ。

「じゃ、また一緒かもね」
「だな」

 私も君もにやりと笑い合い、ぱちんとハイタッチする。幼少時からのこの関係がどうやら高校でも続く。無意識に繰り返す呼吸のように。当たり前に。

 特に深く考えるでもなく、私と君は城が丘高校と滑り止めに他の高校も受け、結局は二人とも城が丘高校に進学が決まった。

 高校の合格発表の日、どきどきしながら自分の番号を探しあて、私はすみれと喜び合った。
 二人で手を握ってぶんぶんと振る。
 ひとしきりきゃあきゃあ言ってから、君の姿を探した。

 君は騒ぐ私たちを見ていたようで、目が合うとにっと笑った。
 無理なんてしてない自然な笑顔。よかった。君も合格したんだ。

 高校が決まってしまえば、今までが嘘みたいにゆったりとした時が流れた。涙の卒業式が終われば、部活も勉強もなくなった春休み。
 特にすることもなくゆるく過ごしているのに、新しい生活にどきどきそわそわする。

 そんな気分を持て余して、私は君をテニスに誘った。

「なんだよ、かったりぃ」
「どうせ暇してるんでしょ、付き合いなさいよ」
「へいへい」

 そんなこと言ってるけど、君はばっちりやる気満々だ。きっちりストレッチした後、感触を確かめるようにラケットでポンポンと球を弾ませる。

 私もストレッチを終えてコートに入る。構えると、あれ?

 君は真っ直ぐトスを上げると、ラケットを振った。
 パコン!
 景気のいい音と共に高速で球が打ち出される。本気のサーブだ。

「ちょっと、乱打じゃないの!?」

 慌てて体を反応させるけど、間に合わなかった。目だけが球を追う。

「フォールト!」

 球の行方を目で追った私はふふんと勝ち誇った笑みを浮かべた。君のサーブはラインを越えてアウト。つまりフォールトだ。

「ちっ、久しぶりだから狂った」
「ぷぷぷ。だっさ」

 もし入ってたら取れる自信なんてないけど、私はめいっぱい笑ってやった。

「言ったな、だったら取ってみろよ」
「きなさい」

 直ぐにむきになる君。あおる私。
 なぜかど本気の試合が始まった。

 私は粘って粘って、ミスをしないテニス。君は多少無茶でも決めにくるテニス。
 私は左右に振り回して、寄せたところをコースを狙って決める。君は力強いストロークで私を振り切る。

 悔しいな。

 君の球は普通に打っただけでも深くて鋭くて強い。私の球は軽々と打ち返される。だからよく動きを見て予測してコースを狙い、君の予測の逆をつく。
 君は反射神経と身体能力であっさりと追いつく。その代わりミスは多いんだけど。

 二人して全力で球を追っかけ、打ち合った。

「はあっ、はあっ、もう無理。休憩」

 先に根を上げたのは私だった。
 毎日部活をやっていた頃とは明らかに違う。息が上がるのが早い。体だって、動けていない。手足が重い、だるい。

「情けねぇなー」

 私の隣にどかっと腰を下ろした君は両手を後ろ手にベンチにつけ、だらんと両足を投げ出すようにした。はーっ、と大きく息を吐く。

「なによ、徹だって疲れてるじゃん」
「っせーな、お前ほどじゃないっての」

 私がそう言うと君は唇を尖らせて座り直した。
 全く。君のそういうとこ、子供。

「私だってまだいけるもんね」

 私も子供だ。
 君といると、子供っぽくなっちゃう。うん。君のせいだ。

「俺だってまだまだいけるね」
「私はまだまだまだまだ、いける」
「俺はまだまだまだまだまだまだ、だ」
「私はまだまだ……」

 くだらない言い合いは続く。

 どちらがよりまだいけるかという、とてつもなくどうでもいい意地の張り合い。これも全力で。

 彩菜やすみれとは、こんな馬鹿な言い合いはしない。全力でむきになんてならない。
 君といる時だけ、私は馬鹿になる。

 「まだ」を言い過ぎて、回数が分からなくなった私たちはまた試合をした。お互い疲労で動きが鈍って、へろへろになるまでやり合った。

「今日は、ここまでに、しておいてやる」
「ふん、それは、こっちの、セリフ」

 私も君もぜえぜえ言いながら、引き分けということにした。

 だるくてだるくて、動けなくて二人してベンチで長いことぐったりして。

 そろそろ帰ろうかという頃、君がぽつっと呟いた。

「また、やろーぜ」
「うん」

 動いた後の倦怠感も、汗も、ひどく心地よかった。またこんな風に君と馬鹿やりたい。まだまだ子供でいたいって思う。

 へとへとの帰り道。自転車をこぐのもしんどくて、やっぱりもうやりたくないって思った。
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