23 / 36
ゆるっと高校生活
しおりを挟む
高校生活は思っていたよりもバラ色じゃなかった。
まず部活。テニス部に見学に行ったけれど、中学校の時とはまるで違った。コートは人工芝で硬球。
それはまあ、問題ない。
私がひっかかったのは活動が毎日じゃないことと、見学に行った時の人数の少なさ。所属している部員数が少ないのではなく、真面目に部活に来る人数が少ないらしい。
要するにお遊びなのだ。それがどうにも、私は嫌だった。
君も同じだったらしい。テニス部に入らずにサッカー部に入った。どうせお遊びなら、他のスポーツで楽しもう、そんなノリだと言っていた。
私はというと、入りたい部がなくて宙ぶらりんになった。ぐるぐると色んな部を回ってみたけど、ピンとくるものがなくて困ってしまった。
このまま帰宅部かな、と思っていたらすみれに家庭科部へ入らないかと誘われた。特にやりたい部活のなかった私は、結局家庭科部に入った。
そんな経緯で入った家庭科部だけど、やってみればそれなりに楽しい。
活動は火曜日と木曜日の週二回。お菓子作りがメインだ。
火曜日に次回に作るものを決め、作る手順や材料とかかる費用を調べる。木曜日までにそれぞれ手分けして材料を買ってきて代金は人数割り。木曜日に作って実食だ。
「次はチーズケーキ作りたいなー」
「だめだめ、クリームチーズ使うでしょ。予算オーバーだよ」
「時間がかかりすぎるものも駄目だよね」
お菓子のレシピ本をめくり、皆であーだこーだいいながら決めるのは楽しい。
作るのももちろん、作ったものを食べるのも。
中学校の部活のようにかーっと熱いものではないけど、ゆるゆると楽しく過ごす毎日。
私がそんな風なのに対して、君が入ったサッカー部は毎日練習があった。終わる時間も違う。だから同じ高校だけど、君と一緒に帰らなくなった。
駅まで歩いて電車に乗り、降りた駅から家まではまた徒歩。
一人の帰り道はなんだか味気なかった。
さて。うちの高校には一人、とびぬけて可愛い子がいた。
彼女の名は有栖川麗奈。
なんだか名前まで可愛い。
まず顔が小さい。色が白くて細い。すらりと手足が長くて、腰まで伸ばしたさらさらのストレートな髪がとても似合っていた。目はぱっちりと二重で、唇の形も綺麗で色もつやつやピンク色。
スタイルもよくって、モデルみたいに身長も高い。スレンダーなんだけど、出るとこは出てる。アイドルだって言われても、そうなんだと頷いてしまうほどだった。
彼女はなんとサッカー部のマネージャーだ。もちろんサッカー部員は彼女にデレデレ。君も例外じゃなかった。
彼女がサッカー部のマネージャーをするようになってから、部員の数が倍増したそうだ。
高校に入ってから君と話をする機会はめっきり少なくなったけど、彼女の名前は時々君の口から飛び出した。
テスト期間中、部活が休みの君は部屋でごろごろしながら彼女の話をする。ちなみに教科書とノートは開いただけ。君の手にはゲーム機がおさまっている。
私だって君と真面目にテスト勉強する気はさらさらなくて、夜にちゃちゃっとやってしまうつもりだ。だけどここにいるのは、お母さんやおばさんへのやってますよ、というパフォーマンスみたいなもの。
「タオルを渡してくれた時、彼女すげーいい匂いがすんだよな」
「ふーん」
「しかも胸でけー。お前とは違うな」
「悪かったわね」
胸のくだりで私は思いきり、にやにやする君の脇腹に肘鉄を食らわせてやった。
「ってーな、この暴力女」
脇腹を押さえて転がる君へ、私は思い切りさげすんだ冷たい目を向ける。
「さいってー」
テーブルに置いた皿をさっと取り上げる。
さらには食べかけのレモンケーキが2つ乗っていた。一つは私の、一つは君のだ。
レモン一個、果汁も皮も入れたケーキで、焼きあがってからもレモンシロップをしみこませてしっとりとさせてある。
この間部活で作って美味しかったから家でもやってみた。それを形ばかりの勉強会のおやつにしていたのだ。
せっかく手作りのケーキを持ってきてあげたというのに。
しょうもない話をするからだよ。
「悪かったわね、スタイル悪くて。これは要らないらしいから持って帰る」
ついでに転がったままでいる君の脇腹を、足でぐりぐりとやった。
「ぐへっ、すんませんでした! 俺が悪うございました、千尋さま」
ノリで下手に出る君。ケーキを乗せた皿を持った手を、反対の手でつかんで腕組みの姿勢の私。
うん。気分は女王さまだ。
「欲しい?」
「欲しい、欲しいです!」
「どうしよっかなぁ」
わざとらしく悩んでいるふりをして天井を見つめる。
本当に取り上げる気はないし、そろそろ許してあげようか。
などと思っていると、足の裏から君の体温が消える。
えっ?
「この。あんま調子に乗んなよ」
私の足から抜け出した君はさっと立ち上がった。
それはいいんだけど。
ちょっと、急に抜けられたらバランスがっ。
「わわわっ」
ぐらりと傾きかけた私の肩ががしっと掴まれ、手から皿の重みが消失する。
「もーらいっ」
私の手から見事皿をゲットした君が、私の肩から手を放してケーキにかじりついた。
唖然としている私の目の前であっという間にケーキが消える。
「あっ、ちょっと私の分まで!」
「へへーん。早いもん勝ちだね」
もう。一緒に食べようと思って持ってきてたのに。
っていうか、食べるのはやっ。
「うめー!」
私は怒ろうと君を睨んだけど。
「うまかった。また作ってくれよな」
嬉しそうな君を見たら、怒りがどこかへ行ってしまった。
まあ、いいか。
美味しそうに食べてくれた君の笑顔に免じて許してあげよう。
だからもう、しょうもない話はやめてよね。
まず部活。テニス部に見学に行ったけれど、中学校の時とはまるで違った。コートは人工芝で硬球。
それはまあ、問題ない。
私がひっかかったのは活動が毎日じゃないことと、見学に行った時の人数の少なさ。所属している部員数が少ないのではなく、真面目に部活に来る人数が少ないらしい。
要するにお遊びなのだ。それがどうにも、私は嫌だった。
君も同じだったらしい。テニス部に入らずにサッカー部に入った。どうせお遊びなら、他のスポーツで楽しもう、そんなノリだと言っていた。
私はというと、入りたい部がなくて宙ぶらりんになった。ぐるぐると色んな部を回ってみたけど、ピンとくるものがなくて困ってしまった。
このまま帰宅部かな、と思っていたらすみれに家庭科部へ入らないかと誘われた。特にやりたい部活のなかった私は、結局家庭科部に入った。
そんな経緯で入った家庭科部だけど、やってみればそれなりに楽しい。
活動は火曜日と木曜日の週二回。お菓子作りがメインだ。
火曜日に次回に作るものを決め、作る手順や材料とかかる費用を調べる。木曜日までにそれぞれ手分けして材料を買ってきて代金は人数割り。木曜日に作って実食だ。
「次はチーズケーキ作りたいなー」
「だめだめ、クリームチーズ使うでしょ。予算オーバーだよ」
「時間がかかりすぎるものも駄目だよね」
お菓子のレシピ本をめくり、皆であーだこーだいいながら決めるのは楽しい。
作るのももちろん、作ったものを食べるのも。
中学校の部活のようにかーっと熱いものではないけど、ゆるゆると楽しく過ごす毎日。
私がそんな風なのに対して、君が入ったサッカー部は毎日練習があった。終わる時間も違う。だから同じ高校だけど、君と一緒に帰らなくなった。
駅まで歩いて電車に乗り、降りた駅から家まではまた徒歩。
一人の帰り道はなんだか味気なかった。
さて。うちの高校には一人、とびぬけて可愛い子がいた。
彼女の名は有栖川麗奈。
なんだか名前まで可愛い。
まず顔が小さい。色が白くて細い。すらりと手足が長くて、腰まで伸ばしたさらさらのストレートな髪がとても似合っていた。目はぱっちりと二重で、唇の形も綺麗で色もつやつやピンク色。
スタイルもよくって、モデルみたいに身長も高い。スレンダーなんだけど、出るとこは出てる。アイドルだって言われても、そうなんだと頷いてしまうほどだった。
彼女はなんとサッカー部のマネージャーだ。もちろんサッカー部員は彼女にデレデレ。君も例外じゃなかった。
彼女がサッカー部のマネージャーをするようになってから、部員の数が倍増したそうだ。
高校に入ってから君と話をする機会はめっきり少なくなったけど、彼女の名前は時々君の口から飛び出した。
テスト期間中、部活が休みの君は部屋でごろごろしながら彼女の話をする。ちなみに教科書とノートは開いただけ。君の手にはゲーム機がおさまっている。
私だって君と真面目にテスト勉強する気はさらさらなくて、夜にちゃちゃっとやってしまうつもりだ。だけどここにいるのは、お母さんやおばさんへのやってますよ、というパフォーマンスみたいなもの。
「タオルを渡してくれた時、彼女すげーいい匂いがすんだよな」
「ふーん」
「しかも胸でけー。お前とは違うな」
「悪かったわね」
胸のくだりで私は思いきり、にやにやする君の脇腹に肘鉄を食らわせてやった。
「ってーな、この暴力女」
脇腹を押さえて転がる君へ、私は思い切りさげすんだ冷たい目を向ける。
「さいってー」
テーブルに置いた皿をさっと取り上げる。
さらには食べかけのレモンケーキが2つ乗っていた。一つは私の、一つは君のだ。
レモン一個、果汁も皮も入れたケーキで、焼きあがってからもレモンシロップをしみこませてしっとりとさせてある。
この間部活で作って美味しかったから家でもやってみた。それを形ばかりの勉強会のおやつにしていたのだ。
せっかく手作りのケーキを持ってきてあげたというのに。
しょうもない話をするからだよ。
「悪かったわね、スタイル悪くて。これは要らないらしいから持って帰る」
ついでに転がったままでいる君の脇腹を、足でぐりぐりとやった。
「ぐへっ、すんませんでした! 俺が悪うございました、千尋さま」
ノリで下手に出る君。ケーキを乗せた皿を持った手を、反対の手でつかんで腕組みの姿勢の私。
うん。気分は女王さまだ。
「欲しい?」
「欲しい、欲しいです!」
「どうしよっかなぁ」
わざとらしく悩んでいるふりをして天井を見つめる。
本当に取り上げる気はないし、そろそろ許してあげようか。
などと思っていると、足の裏から君の体温が消える。
えっ?
「この。あんま調子に乗んなよ」
私の足から抜け出した君はさっと立ち上がった。
それはいいんだけど。
ちょっと、急に抜けられたらバランスがっ。
「わわわっ」
ぐらりと傾きかけた私の肩ががしっと掴まれ、手から皿の重みが消失する。
「もーらいっ」
私の手から見事皿をゲットした君が、私の肩から手を放してケーキにかじりついた。
唖然としている私の目の前であっという間にケーキが消える。
「あっ、ちょっと私の分まで!」
「へへーん。早いもん勝ちだね」
もう。一緒に食べようと思って持ってきてたのに。
っていうか、食べるのはやっ。
「うめー!」
私は怒ろうと君を睨んだけど。
「うまかった。また作ってくれよな」
嬉しそうな君を見たら、怒りがどこかへ行ってしまった。
まあ、いいか。
美味しそうに食べてくれた君の笑顔に免じて許してあげよう。
だからもう、しょうもない話はやめてよね。
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません
藤原遊
恋愛
「私は処刑される運命の悪役令嬢――そう信じて、死を望んでいた。
けれど、幼なじみの騎士は『この命に代えても守る』と離してくれなくて……?」
侯爵令嬢アメリアは、幼い頃から「悪役令嬢」として囁かれてきた。
その冷たい視線と噂の中で、彼女は静かに己の役目を受け入れていた――。
けれど、すべてを遠ざけようとする彼女の前に現れたのは、まっすぐに想いを示す幼なじみの騎士。
揺らぐ心と、重ねてきた日々。
運命に逆らえないはずの未来に、ほんの少しの希望が灯る。
切なく、温かく、甘やかに紡がれる悪役令嬢物語。
最後まで見届けていただければ幸いです。
※ 攻略対象の叔母である悪役令嬢に転生したけれど、なぜか攻略対象の甥に激重に愛されてます
にて、親世代の恋愛模様を描いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる