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魔法使いと精霊
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ドレスや髪の毛を掴まれて、地面に引き倒される。
それでもゼゾッラは、手足をめちゃくちゃに振り回して抵抗した。
「こいつ!」
頬を殴られて、手足から力が抜ける。もともと空腹でふらついていた体だ。限界はすぐそこだった。
「手こずらせやがって」
こうなったら舌でも噛みきってしまおう。そう覚悟を決めた時。
「なんだ? 鳩?」
暗闇に鮮やかな白い鳩が一羽、男たちをすり抜けてゼゾッラの肩にとまった。男たちもゼゾッラもぽかんと口を開ける。
なぜ鳩が。ゼゾッラの肩に?
『もう大丈夫だぜ、お嬢さん』
「え!?」
注目の中、白鳩が器用に片目をつむる。
その瞬間、突風が吹いた。
「きゃああ」
「うわっ」
「ぎゃっ」
目を開けていられなくて、ぎゅっと閉じた。あちこちでゼゾッラと同じように悲鳴が上がる。
髪の毛やドレスを風が巻き上げるが、不思議と心地よかった。
やがて風が止んで、ゼゾッラはそろそろと目を開ける。
「え? え? えええ?」
目に飛び込んできた光景に、ゼゾッラは混乱した。男たちが伸びてきた木の枝に縛られている。全員ぐったりとしていて、気を失っていた。
『ほらな。もう安全だ』
ゼゾッラの肩で、白鳩が得意気に胸を張っていた。この声は白鳩のものらしい。
「あなたがやったの?」
『風でぶん殴ったのはな! 縛ったのは俺じゃない』
「ヴェント!! アルベロ! 急にどうしたんだ」
男の声がして、茂みから人影が飛び出してきた。
ボサボサ頭のひげ面で、くたびれたローブをまとっている。目つきが鋭く、盗賊の仲間だと言われても違和感がない。
『遅いぞ、バジーレ。見てみろ。お前が遅いからお嬢さんが殴られた』
「なんだ。盗賊に襲われたのか。おい、面倒ごとはごめんだぞ」
『面倒ごとだか何だかなんて知らん! このお嬢さんを助けて差し上げろ』
「はあ?」
『助けなかったらもうお前とは絶交だ。アルベロもそうだろ?』
白鳩が広げた翼を男たちを縛っている木に向けると、しゅるしゅると伸びて人の形をとり、こくんと首を縦に振った。
「あの。ヴェントさん、アルベロさん。助けて下さってありがとうございました」
『礼には及ばねーよ。これくらいどうってことないぜ』
えへん、と鳩胸をさらに張るヴェントと、こくこくと頷く木の人形アルベロ。さっきの風といい、魔法生物だろうか。だとすると彼らの主人はバジーレと呼ばれたひげ面の男のようだ。
「ありがとうございました。バジーレ様。何も持っていないので感謝しか出来なくて申し訳ありませんが、これ以上ご迷惑はおかけしません。厄介者はすぐに消えますので」
立ち上がったゼゾッラは、ふらつきを抑えて淑女の礼を取った。
盗賊たちから、生きて逃げることが出来ただけで感謝しきれない。その感謝を形にして返せないのが心苦しいけれど、ゼゾッラのような疫病神は、さっさと離れた方がバジーレたちにとっていい。
少し休んでから近くの町まで歩いていけば、きっとなんとかなるだろう。少なくとも売られるより悪いことにはならない。
「ちょっと待った」
去ろうとするゼゾッラの腕を掴んだバジーレがひげ面をしかめた。
「うわ、なんだこれは。折れそうな腕だな」
「申し訳ありません」
「なぜ君が謝る」
バジーレがゼゾッラの頬に手を伸ばすと、ほわっと温かくなった。殴られた頬から痛みと熱が引いていく。温かい波動は頬だけでなく、じわじわと全身に広がっていった。とんでもなく気持ちがいい。あまりに気持ち良くて、すうっと意識が白くなっていく。駄目だ。寝てしまう。
音も景色も遠くなっていく中、背中に回された腕が力強かった。
それでもゼゾッラは、手足をめちゃくちゃに振り回して抵抗した。
「こいつ!」
頬を殴られて、手足から力が抜ける。もともと空腹でふらついていた体だ。限界はすぐそこだった。
「手こずらせやがって」
こうなったら舌でも噛みきってしまおう。そう覚悟を決めた時。
「なんだ? 鳩?」
暗闇に鮮やかな白い鳩が一羽、男たちをすり抜けてゼゾッラの肩にとまった。男たちもゼゾッラもぽかんと口を開ける。
なぜ鳩が。ゼゾッラの肩に?
『もう大丈夫だぜ、お嬢さん』
「え!?」
注目の中、白鳩が器用に片目をつむる。
その瞬間、突風が吹いた。
「きゃああ」
「うわっ」
「ぎゃっ」
目を開けていられなくて、ぎゅっと閉じた。あちこちでゼゾッラと同じように悲鳴が上がる。
髪の毛やドレスを風が巻き上げるが、不思議と心地よかった。
やがて風が止んで、ゼゾッラはそろそろと目を開ける。
「え? え? えええ?」
目に飛び込んできた光景に、ゼゾッラは混乱した。男たちが伸びてきた木の枝に縛られている。全員ぐったりとしていて、気を失っていた。
『ほらな。もう安全だ』
ゼゾッラの肩で、白鳩が得意気に胸を張っていた。この声は白鳩のものらしい。
「あなたがやったの?」
『風でぶん殴ったのはな! 縛ったのは俺じゃない』
「ヴェント!! アルベロ! 急にどうしたんだ」
男の声がして、茂みから人影が飛び出してきた。
ボサボサ頭のひげ面で、くたびれたローブをまとっている。目つきが鋭く、盗賊の仲間だと言われても違和感がない。
『遅いぞ、バジーレ。見てみろ。お前が遅いからお嬢さんが殴られた』
「なんだ。盗賊に襲われたのか。おい、面倒ごとはごめんだぞ」
『面倒ごとだか何だかなんて知らん! このお嬢さんを助けて差し上げろ』
「はあ?」
『助けなかったらもうお前とは絶交だ。アルベロもそうだろ?』
白鳩が広げた翼を男たちを縛っている木に向けると、しゅるしゅると伸びて人の形をとり、こくんと首を縦に振った。
「あの。ヴェントさん、アルベロさん。助けて下さってありがとうございました」
『礼には及ばねーよ。これくらいどうってことないぜ』
えへん、と鳩胸をさらに張るヴェントと、こくこくと頷く木の人形アルベロ。さっきの風といい、魔法生物だろうか。だとすると彼らの主人はバジーレと呼ばれたひげ面の男のようだ。
「ありがとうございました。バジーレ様。何も持っていないので感謝しか出来なくて申し訳ありませんが、これ以上ご迷惑はおかけしません。厄介者はすぐに消えますので」
立ち上がったゼゾッラは、ふらつきを抑えて淑女の礼を取った。
盗賊たちから、生きて逃げることが出来ただけで感謝しきれない。その感謝を形にして返せないのが心苦しいけれど、ゼゾッラのような疫病神は、さっさと離れた方がバジーレたちにとっていい。
少し休んでから近くの町まで歩いていけば、きっとなんとかなるだろう。少なくとも売られるより悪いことにはならない。
「ちょっと待った」
去ろうとするゼゾッラの腕を掴んだバジーレがひげ面をしかめた。
「うわ、なんだこれは。折れそうな腕だな」
「申し訳ありません」
「なぜ君が謝る」
バジーレがゼゾッラの頬に手を伸ばすと、ほわっと温かくなった。殴られた頬から痛みと熱が引いていく。温かい波動は頬だけでなく、じわじわと全身に広がっていった。とんでもなく気持ちがいい。あまりに気持ち良くて、すうっと意識が白くなっていく。駄目だ。寝てしまう。
音も景色も遠くなっていく中、背中に回された腕が力強かった。
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