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依頼1ー熱気と闇を孕む商業国ナナガ
依頼の後で
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威勢のいい呼び込みや値切り交渉するおばさん、楽しそうにお喋りして通りすぎる若者たち、車輪を軋ませて進む商人など今日のナナガ国も雑多な賑わいを見せている。
前に進むのも苦労するナナガ国の大通り、例外のようにある人物の側だけ人々が避けていく。
肩までの黒髪、小柄な体を包む黒い衣服、黄褐色の瞳の中には茶色の破片が舞う。左右から合わせて着るミズホ国特有の衣服は、様々な国の文化が交わるナナガ国でも浮いていた。
妖魔を使い妖魔と共に生きるというかの国の民は、不吉の象徴であり畏怖の対象だった。隣を歩く赤髪の男の冷たい美貌と、抜き身の刃のような佇まいも人を寄せ付けない原因の一つかもしれない。
そんな二人の前を歩く青年は、大きく肩を落として項垂れた。しょんぼりと歩く背中にコハクは声をかける。
「どうしたの?」
「なんだか申し訳なくて、情けなくて」
ホムラと真逆で人を安心させて懐に入れてしまう青年は、うっすらとそばかすの浮く顔に陰りを落とした。
「私たちを避ける人たちが?」
遠巻きに眉を潜めてひそひそ話している者たちを見る。彼らはコハクの視線に気付くと、ばつが悪そうな表情で足早に去っていった。
「いいえ。あの人たちと同じ考えだった僕が情けないんです」
複雑そうな顔でポルクスはコハクと一緒に去っていく人たちを見送る。昨日までのポルクスなら、きっと同じような反応をしていた。
「僕は今回で知りもしないで勝手に思い込んでいたことや、知らないことの多さを思い知りました」
ポルクスの制服の中に潜り込んで顔だけ出しているミソラは、元気付けるようにシャツの上から頭を擦り付ける。ありがとうの気持ちを込めて子猫の喉を撫でると、ごろごろという音を鳴らし緑の目を細めた。
「それは誰だって同じじゃないかしら。私は妖魔のことしか知らない」
こんな時どうするべきなのか。慰めの言葉をかけるのか、励ました方がいいのか、はたまた同意して寄り添うべきなのか、コハクは知らない。妖魔や妖魔関連以外の普通の人間との付き合いというものを、コハクは知らないのだ。
少し考えてコハクは手を差し出した。慰めも励ましも同意もコハクには出来ない。ならば気分を変えて今を楽しもうと思った。
「行きたいところがあるの。案内してくれるんでしょう?」
依頼の後は好きに観光していいとコンゴウに許可を貰っている。コハクの案内役は引き続き第四部隊の新米隊員だ。
「はい。何処へなりとご案内します!」
話題を変えたコハクの不器用な気遣いにポルクスは破顔した。コハクの手を取り元気よく歩き出す。他愛もないことを喋って進んでいるうちに、遠巻きに道を開けていた人々の距離がいつの間にか少し近付いていた。
「いらっしゃい!って、あんたらかい」
浅黒い肌に、濃い茶色の瞳、艶のない黒髪を無造作に一つに纏めた中年の女は、からりと揚がった肉を容器に移しながら小さな目を丸くした。
「ご無沙汰してます。大変長くお待たせいたしました」
背筋を伸ばし勢いよく頭を下げるポルクスに女は慌てる。
「大変長くって、昨日の今日じゃないかい。顔を上げとくれ。ってことはなにかい? 妖魔は退治されたのかい?」
ナナガ国の通りに軒を連ねる露店の一つに、女の店はあった。数日前に妖魔に夫を殺されてから涙ばかりが出ていたが、この少女から渡された石を持っているとふつふつと気力が沸いてきた。久しぶりに開けた惣菜の店は好調で、猫の手も借りたいほど忙しい。
「ええ。旦那さんを殺した妖魔は封じたわ。それともう一つ、この間渡した石を少しだけ貸してほしいの。すぐ返すから」
横合いからこれとこれをくれという客に対応している女へコハクが頼み事をした。
「ん? ああ、大事な旦那の形見だ。丁寧に扱っとくれよ」
女が石を取り出そうとポケットをごそごそやっている間に、ポルクスは容器に入れた揚げたての肉を袋に詰めて手渡す。ありがとうございました、と笑顔で客へ挨拶した。
無造作にポケットに入れていた小さな石を、女は慎重にコハクへ手渡した。コハクは右手で受け取った石を、左手に持っていたペンダントの台座へ嵌める。
「はい。これで持ち歩きやすくなったでしょう?」
台座に空いた穴は、ここへ来る前にポルクスに教えて貰ったアクセサリー屋で石がぴったり収まるように加工して貰ったものだ。接着剤も着けたから、乾けば取れない筈だ。
「こんなもん貰えないよ!」
「そんなに高価なものではないわ。安物よ」
高価なものは遠慮するだろうし、盗難の恐れあるからとわざと安物を選んだ。そういったことに疎いコハクへのポルクスの提案だった。
「貰って下さい。旦那さんも喜びます。代わりと言ってはなんですが、これ買うんでちょっとおまけして下さい」
容器へ詰めた揚げたての肉を顔の前に持ち上げポルクスは、ね? と笑いかけた。女の顔がふっと和み、ペンダントを首にかけて揚げた肉を一つ余分に入れてくれた。
人混みにはぐれないよう、自然に差し出された青年の手を握り、コハクとポルクスは女に手を振って店を後にする。軽く引かれるままに歩けば、斜め前のポルクスは実にあちこちの人間から声をかけられた。
露店の店主、道行く行商人、道の隅で休む老人、母親に手を引かれた子供、買い物袋を下げたおばさん、昼間から酒を引っかけたおじさん。皆が親しげに彼に話しかけ、コハクへ胡乱気な視線を向けた。
その度にポルクスは屈託ない笑顔でコハクを紹介する。そして毎度、彼女なのかと問われ赤面し、あたふたと否定した。
「彼女なんてコハクさんに失礼ですよ。そりゃ、コハクさんは綺麗で可愛くて優しいから僕としては嬉しいですけど」
バタバタと手を振りそう言っては、顔を赤らめて後半の台詞を付け加える。綺麗で可愛くて優しい、の言葉にコハクまで頬に血が昇った。そんなことを言われた事などないし、こんな風にからかわれたこともなかった。何故この青年の言葉はいつも直球なのだろうと、繋いでいない方の手で熱くなった頬を冷やす。
その様子を見て皆が視線を生温かくさせて、コハクへも普通に接するようになるのだから不思議だ。
繋いだ手は大きくて温かい。ホムラの指のように細く長くないポルクスの手は、すっぽりとコハク手を包んで心地よい。もっとこのまま手を繋がれていたいと思う反面、何だか少し怖くもなって、コハクは思わずホムラを振り仰いだ。
「ホムラ?」
いつものように見上げた先に赤髪の妖魔が居らず、コハクは困惑してその名を呟いた。
※※※※
「ええ、ええ。そうでさァ。今のところ分かっているのはシキという仮名と、能力が認識を使ったものだということ、高位妖魔の集団が存在するってことでさァ」
マギリウヌ国の携帯通信機器を耳元に当て、ハヤミは事の顛末を報告していた。ハヤミはダグスを通してマギリウヌ国の製品をミズホ国にも取り入れている。
「試作品の対妖魔銃ですが、どうやら第一部隊隊長へ流したのはバルミット商会」
第一部隊が高位妖魔を狩ったとなればナナガ国初の快挙、歴史にも名が残るし次期総隊長の座も近付く。結果はお粗末だったが。
「まァ、そこまではいいんですがねェ。問題はバルミット商会を動かしたのが例のシキなんでさァ」
『マギリウヌ国のデンキの情報では、シキはマギリウヌ国の上層にもくい込んでいる。とはいえこっちはシキという名前にすら辿り着かなかったがな』
唸るようなコンゴウの返答にハヤミは頷く。
レイモンドという執事に成り代わっていたように、何処でどう暗躍しているのかが非常に掴みづらい。
「今まで取り逃がした妖魔はシキの仲間の可能性が高いでしょうなァ」
高位妖魔というものは、力がある分普通は堂々と人を狩る。隠れてこそこそするような存在ではないのだが、ここ数年各国の防衛を突破した高位妖魔がやけに大人しい。調査を進めるうちに、ちらちらと見えていたある高位妖魔の影に、今回で『シキ』という名前が付いた。
『妖魔は群れぬ。この前提があるからこそ我々人間が優位に立っていたというのにな』
通信機器の向こうから聞こえるコンゴウの声は苦い。
『徒党を組み連携をとられれば『珠玉』とて危うい。なんとしても尻尾を掴め』
「最善は尽くしやしょう」
自然とハヤミの声に力が籠った。『珠玉』がやられる事態だけは避けねば、ミズホ国そのものが危険に晒される。
「ついでの報告といっちゃあなんですが、普通の人間が妖魔を従えちまってねェ」
『ほう。にわかには信じられんが、お前が言うのならそうなのだろう』
ハヤミは通信機器を持つ反対の手に石を三つ乗せて転がす。黒い、その辺の道端に転がっていそうな普通の石だ。
「ただし使役出来たのは一体のみ。それも不完全な契約でねェ。それも懸念材料ではありやすが、もう一つ。使役出来なかった妖魔なんですが」
手に持った石を軽く擦り合わせると、バチリと小さな音と共に青白い光を放った。
「全部石になったんでさァ。それも『電気石』、アタシら『デンキ』の石でさァ」
デンキは『珠玉』ではない為、瞳に封じて妖魔を使役することは出来ない。電気石という名の通り、電気を発生させ武器に纏わせて妖魔を殺すことは出来る。しかしその場合妖魔が石になることはないのだ。
『成る程、興味深いな。力も宿っているのか?』
「さァて、そいつは誰かに持たせてみやせんとなんとも言えませんや」
ミズホ国では電気石、他国ではトルマリンと呼ばれているこの石は大して価値のある石ではない。しかし力が宿るとなれば別物になってくる。
「身元を洗いざらい調べて本人も観察しましたがね、三年前の事を除けば気持ち悪いぐらい綺麗なモンでさァ。どうしやすか?」
『今のところ何もせん。が、目は離すな』
「了解しやした。当面はシキの足取りを追うのと、坊主の監視ですねィ」
通信機器を切り、ハヤミは石を懐へ仕舞う。代わりに一枚の写真を取りだし小さく溜め息を吐く。
「こりゃァ、暫く帰れそうにもねえさなァ」
写っているのは大人しそうな女性と二人の少女、ミズホ国にいるハヤミの妻と二人の娘だった。
前に進むのも苦労するナナガ国の大通り、例外のようにある人物の側だけ人々が避けていく。
肩までの黒髪、小柄な体を包む黒い衣服、黄褐色の瞳の中には茶色の破片が舞う。左右から合わせて着るミズホ国特有の衣服は、様々な国の文化が交わるナナガ国でも浮いていた。
妖魔を使い妖魔と共に生きるというかの国の民は、不吉の象徴であり畏怖の対象だった。隣を歩く赤髪の男の冷たい美貌と、抜き身の刃のような佇まいも人を寄せ付けない原因の一つかもしれない。
そんな二人の前を歩く青年は、大きく肩を落として項垂れた。しょんぼりと歩く背中にコハクは声をかける。
「どうしたの?」
「なんだか申し訳なくて、情けなくて」
ホムラと真逆で人を安心させて懐に入れてしまう青年は、うっすらとそばかすの浮く顔に陰りを落とした。
「私たちを避ける人たちが?」
遠巻きに眉を潜めてひそひそ話している者たちを見る。彼らはコハクの視線に気付くと、ばつが悪そうな表情で足早に去っていった。
「いいえ。あの人たちと同じ考えだった僕が情けないんです」
複雑そうな顔でポルクスはコハクと一緒に去っていく人たちを見送る。昨日までのポルクスなら、きっと同じような反応をしていた。
「僕は今回で知りもしないで勝手に思い込んでいたことや、知らないことの多さを思い知りました」
ポルクスの制服の中に潜り込んで顔だけ出しているミソラは、元気付けるようにシャツの上から頭を擦り付ける。ありがとうの気持ちを込めて子猫の喉を撫でると、ごろごろという音を鳴らし緑の目を細めた。
「それは誰だって同じじゃないかしら。私は妖魔のことしか知らない」
こんな時どうするべきなのか。慰めの言葉をかけるのか、励ました方がいいのか、はたまた同意して寄り添うべきなのか、コハクは知らない。妖魔や妖魔関連以外の普通の人間との付き合いというものを、コハクは知らないのだ。
少し考えてコハクは手を差し出した。慰めも励ましも同意もコハクには出来ない。ならば気分を変えて今を楽しもうと思った。
「行きたいところがあるの。案内してくれるんでしょう?」
依頼の後は好きに観光していいとコンゴウに許可を貰っている。コハクの案内役は引き続き第四部隊の新米隊員だ。
「はい。何処へなりとご案内します!」
話題を変えたコハクの不器用な気遣いにポルクスは破顔した。コハクの手を取り元気よく歩き出す。他愛もないことを喋って進んでいるうちに、遠巻きに道を開けていた人々の距離がいつの間にか少し近付いていた。
「いらっしゃい!って、あんたらかい」
浅黒い肌に、濃い茶色の瞳、艶のない黒髪を無造作に一つに纏めた中年の女は、からりと揚がった肉を容器に移しながら小さな目を丸くした。
「ご無沙汰してます。大変長くお待たせいたしました」
背筋を伸ばし勢いよく頭を下げるポルクスに女は慌てる。
「大変長くって、昨日の今日じゃないかい。顔を上げとくれ。ってことはなにかい? 妖魔は退治されたのかい?」
ナナガ国の通りに軒を連ねる露店の一つに、女の店はあった。数日前に妖魔に夫を殺されてから涙ばかりが出ていたが、この少女から渡された石を持っているとふつふつと気力が沸いてきた。久しぶりに開けた惣菜の店は好調で、猫の手も借りたいほど忙しい。
「ええ。旦那さんを殺した妖魔は封じたわ。それともう一つ、この間渡した石を少しだけ貸してほしいの。すぐ返すから」
横合いからこれとこれをくれという客に対応している女へコハクが頼み事をした。
「ん? ああ、大事な旦那の形見だ。丁寧に扱っとくれよ」
女が石を取り出そうとポケットをごそごそやっている間に、ポルクスは容器に入れた揚げたての肉を袋に詰めて手渡す。ありがとうございました、と笑顔で客へ挨拶した。
無造作にポケットに入れていた小さな石を、女は慎重にコハクへ手渡した。コハクは右手で受け取った石を、左手に持っていたペンダントの台座へ嵌める。
「はい。これで持ち歩きやすくなったでしょう?」
台座に空いた穴は、ここへ来る前にポルクスに教えて貰ったアクセサリー屋で石がぴったり収まるように加工して貰ったものだ。接着剤も着けたから、乾けば取れない筈だ。
「こんなもん貰えないよ!」
「そんなに高価なものではないわ。安物よ」
高価なものは遠慮するだろうし、盗難の恐れあるからとわざと安物を選んだ。そういったことに疎いコハクへのポルクスの提案だった。
「貰って下さい。旦那さんも喜びます。代わりと言ってはなんですが、これ買うんでちょっとおまけして下さい」
容器へ詰めた揚げたての肉を顔の前に持ち上げポルクスは、ね? と笑いかけた。女の顔がふっと和み、ペンダントを首にかけて揚げた肉を一つ余分に入れてくれた。
人混みにはぐれないよう、自然に差し出された青年の手を握り、コハクとポルクスは女に手を振って店を後にする。軽く引かれるままに歩けば、斜め前のポルクスは実にあちこちの人間から声をかけられた。
露店の店主、道行く行商人、道の隅で休む老人、母親に手を引かれた子供、買い物袋を下げたおばさん、昼間から酒を引っかけたおじさん。皆が親しげに彼に話しかけ、コハクへ胡乱気な視線を向けた。
その度にポルクスは屈託ない笑顔でコハクを紹介する。そして毎度、彼女なのかと問われ赤面し、あたふたと否定した。
「彼女なんてコハクさんに失礼ですよ。そりゃ、コハクさんは綺麗で可愛くて優しいから僕としては嬉しいですけど」
バタバタと手を振りそう言っては、顔を赤らめて後半の台詞を付け加える。綺麗で可愛くて優しい、の言葉にコハクまで頬に血が昇った。そんなことを言われた事などないし、こんな風にからかわれたこともなかった。何故この青年の言葉はいつも直球なのだろうと、繋いでいない方の手で熱くなった頬を冷やす。
その様子を見て皆が視線を生温かくさせて、コハクへも普通に接するようになるのだから不思議だ。
繋いだ手は大きくて温かい。ホムラの指のように細く長くないポルクスの手は、すっぽりとコハク手を包んで心地よい。もっとこのまま手を繋がれていたいと思う反面、何だか少し怖くもなって、コハクは思わずホムラを振り仰いだ。
「ホムラ?」
いつものように見上げた先に赤髪の妖魔が居らず、コハクは困惑してその名を呟いた。
※※※※
「ええ、ええ。そうでさァ。今のところ分かっているのはシキという仮名と、能力が認識を使ったものだということ、高位妖魔の集団が存在するってことでさァ」
マギリウヌ国の携帯通信機器を耳元に当て、ハヤミは事の顛末を報告していた。ハヤミはダグスを通してマギリウヌ国の製品をミズホ国にも取り入れている。
「試作品の対妖魔銃ですが、どうやら第一部隊隊長へ流したのはバルミット商会」
第一部隊が高位妖魔を狩ったとなればナナガ国初の快挙、歴史にも名が残るし次期総隊長の座も近付く。結果はお粗末だったが。
「まァ、そこまではいいんですがねェ。問題はバルミット商会を動かしたのが例のシキなんでさァ」
『マギリウヌ国のデンキの情報では、シキはマギリウヌ国の上層にもくい込んでいる。とはいえこっちはシキという名前にすら辿り着かなかったがな』
唸るようなコンゴウの返答にハヤミは頷く。
レイモンドという執事に成り代わっていたように、何処でどう暗躍しているのかが非常に掴みづらい。
「今まで取り逃がした妖魔はシキの仲間の可能性が高いでしょうなァ」
高位妖魔というものは、力がある分普通は堂々と人を狩る。隠れてこそこそするような存在ではないのだが、ここ数年各国の防衛を突破した高位妖魔がやけに大人しい。調査を進めるうちに、ちらちらと見えていたある高位妖魔の影に、今回で『シキ』という名前が付いた。
『妖魔は群れぬ。この前提があるからこそ我々人間が優位に立っていたというのにな』
通信機器の向こうから聞こえるコンゴウの声は苦い。
『徒党を組み連携をとられれば『珠玉』とて危うい。なんとしても尻尾を掴め』
「最善は尽くしやしょう」
自然とハヤミの声に力が籠った。『珠玉』がやられる事態だけは避けねば、ミズホ国そのものが危険に晒される。
「ついでの報告といっちゃあなんですが、普通の人間が妖魔を従えちまってねェ」
『ほう。にわかには信じられんが、お前が言うのならそうなのだろう』
ハヤミは通信機器を持つ反対の手に石を三つ乗せて転がす。黒い、その辺の道端に転がっていそうな普通の石だ。
「ただし使役出来たのは一体のみ。それも不完全な契約でねェ。それも懸念材料ではありやすが、もう一つ。使役出来なかった妖魔なんですが」
手に持った石を軽く擦り合わせると、バチリと小さな音と共に青白い光を放った。
「全部石になったんでさァ。それも『電気石』、アタシら『デンキ』の石でさァ」
デンキは『珠玉』ではない為、瞳に封じて妖魔を使役することは出来ない。電気石という名の通り、電気を発生させ武器に纏わせて妖魔を殺すことは出来る。しかしその場合妖魔が石になることはないのだ。
『成る程、興味深いな。力も宿っているのか?』
「さァて、そいつは誰かに持たせてみやせんとなんとも言えませんや」
ミズホ国では電気石、他国ではトルマリンと呼ばれているこの石は大して価値のある石ではない。しかし力が宿るとなれば別物になってくる。
「身元を洗いざらい調べて本人も観察しましたがね、三年前の事を除けば気持ち悪いぐらい綺麗なモンでさァ。どうしやすか?」
『今のところ何もせん。が、目は離すな』
「了解しやした。当面はシキの足取りを追うのと、坊主の監視ですねィ」
通信機器を切り、ハヤミは石を懐へ仕舞う。代わりに一枚の写真を取りだし小さく溜め息を吐く。
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