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第一章:リスタート

端から見れば絵になる光景

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 背後できゃあ、と黄色い声が上がった。マリエッタたちだ。

「流石はイザベラ様」
「絵になるお二人ですわね」

 見た目は麗しい王子が、これまた見た目としては美しい部類に入る令嬢の髪に口づけている。はた目から見れば絵になる光景だし、彼女らは一応イザベラの信奉者だ。マリエッタたちは、きゃらきゃらとかしましく二人をほめそやした。

 今までのイザベラなら、鼻高々で有頂天の扱いだ。おべっかでしかない彼女たちの賞賛にだって、気をよくしていたけれど。

 マリエッタたちもまた、踊っている。第二夫人以降は夫だけでなく、正妃も選ぶ。正妃候補のイザベラに取り入ることで、第二、第三、側室に選んでもらおうとしているのだ。

 ちらり、とイザベラは自分の側に控えるセスを見上げた。

 彼は黙ってイザベラの髪に口づけている王子を見ている。いつもの柔らかいセスの表情が消えていて、青い目が冷たく冴えていた。

 こういう時には何の感情も見せてくれない。今も、昔も。
 嫉妬くらいしてくれてもいいのに、と拗ねた気分になる。けれどそれは筋違いなことも知っていた。

 前回もそうだった。常に側にいて、忠義を尽くしてくれたセス。彼はイザベラに危害が及ぶような事などには身を挺して守ってくれたが、王子や他の子息たちとどんな関係になっても、決して邪魔をするようなことはなかった。

 セスとイザベラは恋人同士でもなんでもない。
 セスはイザベラのことを命の恩人。忠義を尽くすべき主人としてしか見てくれていないのだ。

 イザベラはきゅうっと痛む胸に手を当てた。

「ではまたね、可愛い僕の小鳥」

 王子がイザベラの髪から手を離し、優雅に手を振った。途中でアメリアと二言三言、言葉を交わしてから教室の外へと向かう。

 隣の教室へと消えていく王子の背中を見送ってから、ふう、と息を吐いた。

 相手は王位継承権を持つ王子。邪険にするわけにはいかない。
 イザベラの非ではなく、王子自身が望んで婚約破棄をしてもらうのが望ましい。

 幸い王子もイザベラも、婚約はしているものの、付き合いは表面上のものだけ。大して執着もない。
 正規ヒロインのアメリアには、イザベラが何もしなくても王子が勝手に惹かれるだろう。それまで適当にあしらっておこう。
 具体的にいつ惹かれたのかは知らないが、きっともう少しの辛抱だ。
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