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第一章:リスタート

解けない誤解

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「あのね、セス」
「何でしょうか」

 全ての授業が終わって学園寮に帰る段になり、ようやくイザベラはセスの誤解を解くため口を開いた。なにせ教室ではマリエッタたちの目がある。休憩時間も何かしらマリエッタたちが話しかけてくるものだから、何も言えなかったのだ。

「殿下とのことだけど」
「殿下とのことでしたら、お嬢様が俺に何かおっしゃることなんてないでしょう」
「うっ」

 セスの返事が冷たい。イザベラの心はあっという間に凍らされて、ぽきっと折れそうだ。
 しかしこれくらいでくじけてはいけない。

「あのね、セス。殿下は私の婚約者よ。それ以上でもそれ以下でもないの」

 イザベラは正直な気持ちを伝える。ジェームス王子のことを称するなら、まさにそれだった。
 婚約者。それ以上でも以下でもない。恋心なんてまったくない。好きではないし正直キモいが、まあ嫌いでもない。

「そうですね。あの方はイザベラお嬢様の婚約者・・・でいらっしゃいます」

 なぜか婚約者を強調された。そのことにトゲを感じるのは気のせいだろうか。

「だ、だから殿下はただの婚約者で、殿下のことで胸を押さえていたんじゃなくて」
「俺に言い訳なんてされなくても大丈夫ですよ。あの状況で、切なそうになさる理由が殿下の他にありますか?」

 ああああっ、やっぱり誤解してる。
 イザベラは頭を抱えてその場にうずくまりたくなったが、ぐっと踏みとどまる。

 ちらちらと周りを伺った。マリエッタは先に寮に帰った。他の生徒も近くにはいない。

 よし、と拳を握る。

 なにせ自分は死から舞い戻ったくらいなのだ。今さら怖いことなんてあるものか。

 イザベラはキッと顔を上げ、ずい、とセスに近付いた。

「聞いて、セス!」
「はい?」

 イザベラの勢いに押され、セスが怯んだように一歩退いた。冷たい表情が崩れて、いつものセスの表情に戻る。年相応の、焦った少年の顔にほっとした。

 好きだと言ったら、セスはどんな顔になるだろう。戸惑うだろうか。迷惑に思うだろうか。
 早鐘のように打つ心臓が痛い。でも、言わなければ誤解は解けない。

「あ、あのね。あの、私ね。殿下のこと……」

 王子のことなどなんとも思っていない、だってイザベラが好きなのはセスなんだから。そう続けようとした矢先。

「お嬢様ぁ」

 エミリーの声が割って入った。
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