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第一章:リスタート

連れ出し成功!(エミリー視点)

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 そして休日。イザベラとエミリーは、護衛のセスと共に学園の敷地にある商業施設街に来ていた。
 クラーク学園の敷地内には校舎、広場、三つの学園寮と、小規模の街くらいに商店が立ち並ぶ商業施設街まであるのだ。

「わぁ」

 様々な店が立ち並ぶ街に入った途端、イザベラが小さく声を上げて、大きな紫の瞳をきらきらさせた。普段は背筋を伸ばして優雅に歩かれるのだけれど、今は跳ねるように歩いている。右を向いたり、左を向いたりする度に、絹糸みたいなプラチナブロンドが宙を舞った。

「もしかして、街に出るのははじめてでございますです?」

 きょろきょろと辺りを見渡していたイザベラの動きが止まる。瞳がうろうろと揺れて、白い頬がほんのりと赤くなっていく。

「……そうよ。悪い?」

 あ、図星だったみたい、とエミリーが思っていると、頬を染めたまま、つんと横を向いてしまった。

 やだ、可愛い。

「悪くなんてありませんです。ね、セス様」

 むしろ好都合だと、心の中でガッツポーズしてから、セスの方を向くと。
 セスもきょろきょろとやっていた。

「もしかして、セス様もはじめてです?」
「はい。イザベラ様が行かれるところ以外の場所に行ったことがなくて」

 恥ずかしそうに眉尻を下げて、セスが頭をかく。この方も色が白いから、頬が綺麗なピンク色だ。可愛い。

 そっぽを向いて赤くなっているイザベラと、素直に恥ずかしがって赤くなっているセス。なにこの二人、可愛い。和む。
 でもでも、まさかセス様まではじめてだとは。この後の計画がピーンチ。

 エミリーはぐっと拳を握り天を仰いだ。

 いいえ、エミリー。いつもしっかりとしていて、時々……いや、ちょくちょく自分よりも年上に感じるイザベラ様だけど、そもそも自分の方が五歳もお姉さん。今日は年上のお姉さんとして、お二人に色々教えてあげるのよ!!

「エミリーさん、エミリーさん」

 ひそかにめらめらと闘志を燃やしていると、くいくいと袖を引かれた。

「はいぃ、どうしました? 何でも聞いてくださいです!」

 さあ、何でも質問して! お姉さんが答えてあげちゃいますですよぉ。

 鼻息も荒く振り向くと困った顔の二人がいた。

「あの、大声で叫ばれると恥ずかしいです」
「年上のお姉さんならお姉さんらしくして。往来の真ん中で叫ばないでちょうだい」

 大声で叫ぶ? 年上のお姉さん? あれ、もしかしてさっきの心の声……。

「きゃーっ、思ってたこと全部言っちゃってましたですぅ」

 エミリーは頬に手を当てて叫んだ。
 まさか計画のことも言っちゃった? 自分のうっかりで、違う種類のピンチ到来である。

「あの、何て言ってましたです?」

 恐る恐る二人に聞いてみる。

「いいえ、エミリー、って言ってから自分の方が五歳もお姉さんがどうのと、独り語りをしていたわ」
「色々教えてあげるのよ! って叫んでました」

 ほっ、良かった。危ない、危ない。
 計画のことはバレていないと、エミリーは胸を撫で下ろした。
 
「コホン。それでは気を取り直して。はじめてのお買い物へゴー! ですぅっ!!」

 気合十分。ゴー! のところで勢いよく右手を垂直に上げる。

 周囲には何事かと振り返る人、微笑ましそうに生温かい視線を寄越す人。クスクスという小さな笑いも起こった。

「だからそれが恥ずかしいって言ってるんですけど」
「諦めなさい、セス。これがエミリーよ」

 頬を引きつらせたセスに、遠い目をしたイザベラがため息混じりの答えを返した。
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