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第一章:リスタート

迷子になった幼子みたい(エミリー視点)

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「えへへ。もうすぐ母の誕生日なんですぅ。プレゼント選びをイザベラ様と一緒にしたいなぁって思いましたですぅ」

 顔の前で手を合わせたまま、エミリーはにへらっと口元を緩めた。

 ごまかせた、ごまかせなかったということは頭からすっかり消えている。そんなことよりも、イザベラがいいわよと言ってくれたことが嬉しい。

「お母様の誕生日なのね。それはいいものを選ばなくてはね」

 イザベラのきつく見え勝ちな紫の瞳がほころんだ。ごくごく自然に、イザベラが母を『お母様』と言う。そのことにじんと胸が熱くなる。

「どうしたの?」

 瞳を潤ませていると、イザベラが首をかしげた。

「だって、イザベラ様。貴族のお嬢様が平民のお母さんに様つけて下さるなんて、普通は有り得ませんです」

 同じ貴族令嬢でも、イザベラ様はあの方たちとは大違い。

「それは……そうかもしれないわね」

 イザベラの、水晶みたいな紫の瞳が揺れる。
 透明に澄んだ紫、白っぽい紫、深すぎて闇みたいな紫、薄く吸い込まれそうな紫。
 紫水晶の瞳が、部屋の灯りを反射して複雑に煌いた。

 どうしてだろう。
 イザベラ様は目の前にいて。ここはイザベラ様の部屋で。こんな風に思うのはおかしいのに。

 迷子になった幼子のように見えた。

「そうですよ」

 イザベラをゆっくりと抱き締めると、そろそろと遠慮がちに、エミリーの背中に腕が回った。

 いつも見惚れてしまうような、洗練された所作なのに。こうやって抱き締めた時、頭を撫でた時、イザベラの反応はとてもぎこちなくて、不器用だ。

 綺麗で、頭も良くて、凛としたイザベラ。妹と同じ年齢と思えないほどしっかりとされていて、時々年上といるような気分になるけれど。妹と比べて甘え方が下手だとエミリーは感じる。

 さらさらと指の間から零れ落ちる金髪を撫でる。腕の中の、まだ細くて小さな肩。守って差し上げたいと思う。

「休日が楽しみでございますです。ねっ?」

 イザベラから体を離し、エミリーはことさら明るくにっこりと笑った。

「そうね」

 つられてくっきりとした目を和ませるイザベラは、年相応の表情だった。
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