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第一章:リスタート

失態だ(セス視点)

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「マリエッタ様」
「はいぃっ」

 三人ともぴくりとも動かない事を確認してからマリエッタに声をかける。
 地面にへたり込んでいるマリエッタが、体ごと跳ね上がった。構わずに左手を差し出す。

「お怪我は? 立てますか?」

 守るよりも敵の無力化優先の戦い方をしておいて白々しいが、表面上は気遣うふりをした。
 こうしておけば、悪漢から助け出した恩を売れる。イザベラがマリエッタの頬を叩いたことも不問になるかもしれない。

「な、ないですわ」
「ならよかったです」

 セスの意識は目の前のマリエッタよりも、倉庫に待機しているイザベラの方にいっていた。
 熱のない言葉を返し、おずおずと差し出されたマリエッタの手を引っ張り上げて立たせると、倉庫に足を向けた。

「お嬢様、もう大丈夫ですよ」

 倉庫に近付きながら声をかけるが返事がない。
 嫌な予感がして倉庫の中に入り、目を凝らす。いない。

「イザベラ様! エミリーさん!」

 元々使われていないのか、物が置かれていない倉庫だ。隠れる場所もほとんどない。何よりも。
 
 セスは倉庫の床に落ちていたものを拾う。イザベラと二人でプレゼントしあった、ペンダントだった。革紐が切れている。

 床の埃がかすかに踏み荒らされた跡を作っている。イザベラたちと思われる小さめの足跡と、男の大きな足跡が複数。加えて、落ちていたペンダント。
 血痕はないから、殺されたり怪我はさせられていない。
 かといって自分の意思で何処かへ行ったとは考えられない。何者かがイザベラたちを連れ去ったのだ。

「くそっ」

 落ちていたペンダント握りしめ、セスはもう一度倉庫内を見渡した。もう一つの出入り口、裏口らしきものがあった。倉庫の入り口から出入りした気配はなかったから、この裏口から連れ去ったのだろう。

 裏口の扉を開け放つ。
 扉の向こうは、同じような薄暗い路地が伸びていて、いくつかの脇道が見える。人影はなく、イザベラとエミリーはおろか、アメリアさえ見当たらない。
 セスは駆け出して脇道の一つを覗き込んだ。やはりいない。順番に見ていったが、どの脇道にも誰もいなかった。追いかけたいが、どの道を行ったのかが分からない。

 失態だ。いくらマリエッタを助けるためとはいえ、大事な主人から離れるべきじゃなかった。
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