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第一章:リスタート

何者かにさらわれたらしい

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 重いまぶたを開けると、心配そうなエミリーの顔が間近にあった。

「大丈夫でございますですか、お嬢様。ご気分は?」

「あまりよくないわ」

 直前に見ていた夢のせいだろうか。
 布団もかけずに寝ていたせいだろうか。
 それとも、揺れのせいだろうか。

 頭が痛み、胸がむかむかする。

 ガタゴトと、体の下の床が揺れる。

 明かりの類いのない、とても狭い場所だった。しかも荷物らしきものがたくさん置いてあって、イザベラは背中にある荷物にもたれかかるようにして寝ていた。そのことに微かな違和感を感じたが、はっきりと形にならなかった。

 そもそも、直前に見ていた夢って、何だったんだろう。
 もやもやと嫌な気持ちが残っているので、あまりいい夢ではなかったのは分かるが、内容は思い出せない。
 寝起きのせいか体調が悪いせいか、霞がかかったようにぼうっとしていて、上手く働いてくれなかった。

 それにしても、どうして床が揺れるのか。
 とりあえず起きよう。そうすれば意識がはっきりする。

 イザベラは床に手をついて体を起こそうとして……出来ないことに気付いた。

 両手が後ろ手に縛られている。
 それを確認した途端、一気に目が覚めた。

 はっとなってエミリーを見れば、彼女もまた同じように縛られていた。さらには、まだ起きていないアメリアもいる。

「エミリー、これは一体」

 肩と自由な足を使って半身を起こし、床に座った。
 所せましと積まれた荷物の隙間に、イザベラたちはいる。暗いから分かりにくいが、天井は幌のようだ。
 幌で囲まれた狭い空間に荷物、ゴトゴトという揺れからして馬車らしい。

「わ、私にも何がなんだか、分かりませんですぅ」

 エミリーの目にじわりと涙がたまる。今にも泣き出しそうな表情に、自分がしっかりしなくてはと、イザベラの気持ちが引き締まった。

 目を瞑り、大きく深呼吸する。

 こういう時こそ、落ち着け。こうなったのはどうしてかを思い出して、今の状況を把握しなくては。

 確か、古びた倉庫の外でマリエッタを助けるため、立ち回っているセスをハラハラと見守っていたら、急に口に布らしきものを当てられた。そうしたら意識が遠のいて、今ここに縛られている。

 つまり、何者かにさらわれたのだ。そして馬車でどこかへ連れていかれようとしている。

「そろそろ薬の切れる頃だな」

 背後から声がして、イザベラは振り向いた。幌をまくって、男がこちらを覗いている。

「よお、目が覚めたか」

 イザベラと目が合うと、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。
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