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第一章:リスタート

逃げる方法なんて山ほどあるわ

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「でもでも。逃げるってどうやってでございますですかぁっ? 無理ですよぉ」

 エミリーの青い目にみるみる涙が溜まって、そばかすの上を滑り落ちた。

「大丈夫。逃げる方法なんて山ほどあるわよ」

 にんまりと悪い笑みを浮かべたイザベラは、両手を握って開いた。それを何度も繰り返す。

「ほらね?」

 そうしているうちに、縄がゆるんで隙間が出来た。その隙間を利用して手首を抜くと、自由になった両手をひらひらと振って見せた。

「ええええええっ? お、お嬢様、どうやって抜けましたです?」

 ぽろぽろとこぼれていた涙をぴたりと止めて、エミリーの目が丸くなった。

「しいっ。静かに。手を握ったり開いたりを繰り返せば縄がゆるむから。そこから手を抜くのよ」

 唇に手を当てて咎めると、エミリーがばくんと口を勢いよく閉じた。無言でぐーぱーと手を開閉し始める。
 しかしその顔がどんどん赤くなっていった。ぐうっと肩が上がって、頬がぷくっと膨らんでいる。もしかしてこれは。

「あのね、エミリー。静かにとは言ったけど、小声でしゃべればいいだけよ。息を止めなくても大丈夫だから」

 ぷすっ。

 半眼になったイザベラは、エミリーの膨らんだ頬に指を刺した。

「ぶぷっ! ぷはぁっ、はぁっ、はぁっ。ああ、そうでございますですよね」

 えへへと恥ずかしそうに笑うエミリーを見ていると、なんだか一気に力が抜ける。

「全く。仕様がない子ね」

 ため息混じりの言葉とは裏腹に、笑みがこぼれた。
 エミリーのドジのお陰で、知らずに張りつめていた気持ちもゆるみ、空気が明るくなった。エミリーがいてくれて良かったと思う。
 反面、彼女は絶対に無事に帰してやらないといけない、とも思う。

「さあ、縄から手を抜いて。ああ、駄目駄目。力任せに引っ張ったって余計に締まるだけよ。あざになってしまうわ」

 こういう時も不器用さを炸裂するのがエミリー。忠告したのにさっそく小さな擦り傷とあざを作っていた。
 四苦八苦してやっと抜けると、エミリーが目をキラキラさせた。

「抜けましたっ。凄い! 抜けましたですっ、お嬢様っ!」

 声を抑えることを忘れてはしゃぐ。

「ちょっ、エミリー、しーっ。しーっ」

 イザベラは慌ててエミリーを叱ると、素早く縄を結び直した。
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