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第一章:リスタート
何が役に立つか分からないものね
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「あれっ、お嬢様。せっかく抜けたのに何ででございますです?」
「いいからちょっと黙ってなさい! 分かったわね?」
自分の縄も結びたいところだが、時間がない。
エミリーがこくこくと首を縦に振るのを、確認するのももどかしい。さっと縄を手首にかけて、見た目だけ偽装する。
「おい! 何を騒いでいる」
幌が上がって男が顔を覗かせた。イザベラはボロを出しそうなエミリーにぴったりとくっついて隠すと、男の方へ顔を向ける。
「ごめんなさいっ……ううっ、ひっく。これからの事を思ったら、涙が止まらなくてっ……」
しゃくり上げながら眉尻を下げ、うるうると涙をためて、出来るだけ哀れっぽく訴えた。
「お嬢様ぁ」
みえみえの嘘泣きを真に受けたエミリーが鼻をすする。黙っているようにという命令を忘れているが、ナイスだ。
「ちっ。あまり騒ぐなよ」
舌打ちさいた男が幌の向こうに戻ると、イザベラはべーっと舌を出した。
「ふぇぇ、泣きまねだったでございますですかぁ」
「当り前でしょ」
涙は女の武器で、男は女の涙に弱い。疑われたり、まだ金を搾り取っていないのに離れそうな時など、大変重宝した。さらに上目遣いに胸元などをちらつかせればもっと効果的だが、今のイザベラは幼すぎる。
「いい? この結び方は輪っかになっていない部分を引っ張ると簡単に解けるから」
片方の縄だけを引っ張ると解けるのが一般的な結び方だが、エミリーの場合は間違って反対を引きそうだからどちらを引いても解けるようにしておく。分かったかと念を押すとエミリーが大きく頷いた。
「それにしても……はぁ、まさかこんな形で前世の経験が役に立つなんてね」
「はぃい?」
聞こえないように小さくため息を吐いてぼそりと呟けば、エミリーが首を傾げた。彼女に向かって小さく肩をすくめる。
「何でもないわ」
父親に縛られて放置された時こっそりと抜け出していたのだが、バレると殴られるから、よくこうやって誤魔化していた。それが役に立ったのだから、本当に人生何が起こるか分からない。
普通、この世界にない医療知識で成り上がりとか、仕事の経験を活かして財政再建、行政改革で領地のピンチを救うだとか、新しい発想で魔法を使いこなし最強になるだとかだろうに。
特殊な仕事に就いていたわけでもない。文明促進に貢献できるような知識もない。そもそも少し遅れてはいるものの、文明水準だってそんなに変わらなかった。
お陰で成り上がりやチートとは無縁のよう。まあ、それは元々期待していなかったのだからいいけれど。
今はそんなことより。
「そろそろ寝たふりをやめたら?」
イザベラはエミリーから視線を移動すると、床で寝ているアメリアに声をかけた。
「へっ? 私は起きていますですよ」
案の定、話しかけた相手ではなくエミリーが首を傾げる。
「貴女じゃないわよ……」
額に手を当て溜め息を吐くと、ぱちりと開いたアメリアと目が合った。
「いいからちょっと黙ってなさい! 分かったわね?」
自分の縄も結びたいところだが、時間がない。
エミリーがこくこくと首を縦に振るのを、確認するのももどかしい。さっと縄を手首にかけて、見た目だけ偽装する。
「おい! 何を騒いでいる」
幌が上がって男が顔を覗かせた。イザベラはボロを出しそうなエミリーにぴったりとくっついて隠すと、男の方へ顔を向ける。
「ごめんなさいっ……ううっ、ひっく。これからの事を思ったら、涙が止まらなくてっ……」
しゃくり上げながら眉尻を下げ、うるうると涙をためて、出来るだけ哀れっぽく訴えた。
「お嬢様ぁ」
みえみえの嘘泣きを真に受けたエミリーが鼻をすする。黙っているようにという命令を忘れているが、ナイスだ。
「ちっ。あまり騒ぐなよ」
舌打ちさいた男が幌の向こうに戻ると、イザベラはべーっと舌を出した。
「ふぇぇ、泣きまねだったでございますですかぁ」
「当り前でしょ」
涙は女の武器で、男は女の涙に弱い。疑われたり、まだ金を搾り取っていないのに離れそうな時など、大変重宝した。さらに上目遣いに胸元などをちらつかせればもっと効果的だが、今のイザベラは幼すぎる。
「いい? この結び方は輪っかになっていない部分を引っ張ると簡単に解けるから」
片方の縄だけを引っ張ると解けるのが一般的な結び方だが、エミリーの場合は間違って反対を引きそうだからどちらを引いても解けるようにしておく。分かったかと念を押すとエミリーが大きく頷いた。
「それにしても……はぁ、まさかこんな形で前世の経験が役に立つなんてね」
「はぃい?」
聞こえないように小さくため息を吐いてぼそりと呟けば、エミリーが首を傾げた。彼女に向かって小さく肩をすくめる。
「何でもないわ」
父親に縛られて放置された時こっそりと抜け出していたのだが、バレると殴られるから、よくこうやって誤魔化していた。それが役に立ったのだから、本当に人生何が起こるか分からない。
普通、この世界にない医療知識で成り上がりとか、仕事の経験を活かして財政再建、行政改革で領地のピンチを救うだとか、新しい発想で魔法を使いこなし最強になるだとかだろうに。
特殊な仕事に就いていたわけでもない。文明促進に貢献できるような知識もない。そもそも少し遅れてはいるものの、文明水準だってそんなに変わらなかった。
お陰で成り上がりやチートとは無縁のよう。まあ、それは元々期待していなかったのだからいいけれど。
今はそんなことより。
「そろそろ寝たふりをやめたら?」
イザベラはエミリーから視線を移動すると、床で寝ているアメリアに声をかけた。
「へっ? 私は起きていますですよ」
案の定、話しかけた相手ではなくエミリーが首を傾げる。
「貴女じゃないわよ……」
額に手を当て溜め息を吐くと、ぱちりと開いたアメリアと目が合った。
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