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第一章:リスタート
探りを入れられているのだろうか
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「? どうかしましたか、イザベラ様」
脳内で再生されていた、裕助の姿が消える。目の前にはアメリアが不思議そうに首を傾げていた。
「ごめんなさい、何でもないわ」
首を横に振って意識を現実に戻すと、今度は逆にアメリアに見つめられていた。
「何?」
「あっ、いえ、その」
軽く眉をひそめると、アメリアがぶんぶんと顔の前で手を振った。
「イザベラ様って本当に雰囲気変わりましたよね。あ、いい意味でです! 今のイザベラ様の方が私は断然好きなんですけど、なんだか急に変わったからどうしてかなって」
「……」
さりげなく探りを入れられている、のだろうか。
一度死んでやり直すまで、イザベラは我儘で鼻持ちならない公爵令嬢だった。平民を馬鹿にしていたし、アメリアに嫌味だって言っていたくらいだ。
そのイザベラが平民の奴隷を侍女に召し上げ、仲良くしているのは確かにおかしく映るだろう。疑問を持たれるのも当たり前だ。
イザベラは迷った。
選択肢は二つ。
イザベラが転生者だということを、明かすべきか、隠すべきか。
「急に変わった……そうね。そうかもしれないわ」
片手で肘を掴み、もう片方の手を口元に持っていく。カリッと親指の爪を軽く噛んだ。
そもそもアメリアは小説と同じく転生者なのか、どっちだろう。
アメリア以外の登場人物はイザベラを含めて皆転生者ではなかった。けれど今現在、イザベラは転生者だ。
アメリアとイザベラと設定が入れ替わって、イザベラだけが転生者になっているのか。それともアメリアも転生者なのか。
もしもアメリアが転生者だとしたら。ジェームス王子とアメリアをくっつける協力を、堂々と出来る。
しかしアメリアが転生者でなければ、本当のことを言っても戸惑うだけ。セスとエミリーにさえ打ち明けていないのだ。アメリアに明かす利点なんてない。
イザベラは口元から親指を離し、組んだ腕をほどいた。ぽん、と隣のエミリーの肩に手を置く。
「ふふ。私が変わったのはきっとここにいるエミリーのお陰ね」
ひたとアメリアの視線を正面で受け、にっこりと微笑んだ。選んだのは、誤魔化して隠す方である。
クラスメート程度の当たり障りのない会話から近づこうとして、警戒したアメリアの友人にそれとなく阻止されている。友人抜きで接することの出来る今の状況は、ある意味チャンスかもしれないが。
アメリアが転生者かどうか探るのは後でいい。今は破滅ルートに入るか入らないかの瀬戸際。逃げることの方が先だ。
危機的状況を一緒に乗り越えれば、吊り橋効果が狙えるかもしれないのだし、焦る必要はない。
「へぁっ? 私のお陰でございますですか」
急に話を向けられて、目を白黒させたエミリーが自身の顔を指さす。
相手をだまそうと思えば、嘘に真実を混ぜ込むといい。
ループしたイザベラが目覚めたのは、高熱の後。丁度エミリーを侍女として迎え入れたばかりの頃だから、不自然ではないはず。
「そうよ。貴女みたいにおっちょこちょいの侍女なんて初めてだもの。毒気を抜かれちゃったわ。それに」
ごめんね、エミリー。
貴女をだしに使って。でも。
内心で謝りながら、ひょいと肩を竦め、悪戯っぽくエミリーの瞳を覗きこむ。
「ちょっと強引だけど、貴女みたいに私を家族として扱ってくれるのだって、はじめてだったもの」
エミリーのお陰で変われたことだって、まるっきり嘘というわけじゃない。
脳内で再生されていた、裕助の姿が消える。目の前にはアメリアが不思議そうに首を傾げていた。
「ごめんなさい、何でもないわ」
首を横に振って意識を現実に戻すと、今度は逆にアメリアに見つめられていた。
「何?」
「あっ、いえ、その」
軽く眉をひそめると、アメリアがぶんぶんと顔の前で手を振った。
「イザベラ様って本当に雰囲気変わりましたよね。あ、いい意味でです! 今のイザベラ様の方が私は断然好きなんですけど、なんだか急に変わったからどうしてかなって」
「……」
さりげなく探りを入れられている、のだろうか。
一度死んでやり直すまで、イザベラは我儘で鼻持ちならない公爵令嬢だった。平民を馬鹿にしていたし、アメリアに嫌味だって言っていたくらいだ。
そのイザベラが平民の奴隷を侍女に召し上げ、仲良くしているのは確かにおかしく映るだろう。疑問を持たれるのも当たり前だ。
イザベラは迷った。
選択肢は二つ。
イザベラが転生者だということを、明かすべきか、隠すべきか。
「急に変わった……そうね。そうかもしれないわ」
片手で肘を掴み、もう片方の手を口元に持っていく。カリッと親指の爪を軽く噛んだ。
そもそもアメリアは小説と同じく転生者なのか、どっちだろう。
アメリア以外の登場人物はイザベラを含めて皆転生者ではなかった。けれど今現在、イザベラは転生者だ。
アメリアとイザベラと設定が入れ替わって、イザベラだけが転生者になっているのか。それともアメリアも転生者なのか。
もしもアメリアが転生者だとしたら。ジェームス王子とアメリアをくっつける協力を、堂々と出来る。
しかしアメリアが転生者でなければ、本当のことを言っても戸惑うだけ。セスとエミリーにさえ打ち明けていないのだ。アメリアに明かす利点なんてない。
イザベラは口元から親指を離し、組んだ腕をほどいた。ぽん、と隣のエミリーの肩に手を置く。
「ふふ。私が変わったのはきっとここにいるエミリーのお陰ね」
ひたとアメリアの視線を正面で受け、にっこりと微笑んだ。選んだのは、誤魔化して隠す方である。
クラスメート程度の当たり障りのない会話から近づこうとして、警戒したアメリアの友人にそれとなく阻止されている。友人抜きで接することの出来る今の状況は、ある意味チャンスかもしれないが。
アメリアが転生者かどうか探るのは後でいい。今は破滅ルートに入るか入らないかの瀬戸際。逃げることの方が先だ。
危機的状況を一緒に乗り越えれば、吊り橋効果が狙えるかもしれないのだし、焦る必要はない。
「へぁっ? 私のお陰でございますですか」
急に話を向けられて、目を白黒させたエミリーが自身の顔を指さす。
相手をだまそうと思えば、嘘に真実を混ぜ込むといい。
ループしたイザベラが目覚めたのは、高熱の後。丁度エミリーを侍女として迎え入れたばかりの頃だから、不自然ではないはず。
「そうよ。貴女みたいにおっちょこちょいの侍女なんて初めてだもの。毒気を抜かれちゃったわ。それに」
ごめんね、エミリー。
貴女をだしに使って。でも。
内心で謝りながら、ひょいと肩を竦め、悪戯っぽくエミリーの瞳を覗きこむ。
「ちょっと強引だけど、貴女みたいに私を家族として扱ってくれるのだって、はじめてだったもの」
エミリーのお陰で変われたことだって、まるっきり嘘というわけじゃない。
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