絶砂の恋椿

ヤネコ

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カナートの激闘

3―4

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(強いな……それに、えげつない)
 多勢に無勢の勝負であると思われたが、カメリオの強さはその勇敢さを裏付けるに足るものであった。しかしながら、正義の味方然とした台詞とは裏腹に、その攻撃はなかなかに汚い喧嘩慣れしたものを感じさせる。これは、彼の兄貴分であるヤノが教えた護身術にカメリオが独自に改良を加えたものなのだが、そのようなことは当然知らないトゥルースは、大衆浴場での様子との落差に妙な興奮を覚えつつ――縮み上がる思いで砂地に伏していた。
「ぐぐ……なん、て……野郎だ……!」
「てめえ……人のお袋さんを……なんだと、思ってんだ」
 カメリオから強かに蹴り抜かれた股間を押さえつつ、脂汗をかいて突っ伏す襲撃者達。彼らの抗議も尤もかもしれない、とやや同情するトゥルースが見守る中、襲撃者の過半数を戦闘不能に陥らせたカメリオは、短く息を吐いた。
「まだやる気か?」
「うるせえ! このままで終われッかよ!?」
 仲間を潰された襲撃者は、酒気混じりの気勢をあげる。もはや、当初の目的であったトゥルースのことは忘れているのかもしれない。堅く握られた拳は、カメリオの頬を強かに打ち抜いた。
「おい! その子の綺麗な顔になんて――ぶふっ!?」
「うるさい」
 思わず抗議をしたトゥルースの顔に、カメリオは踵で砂を掛けた。これには、倒れている襲撃者達も忍び笑いを漏らす。鉄の味がする唾を吐いたカメリオは、口許を拭いもせずに襲撃者に躍り掛かった。
「やっちまえ!」
「そこだ!」
「が、がんばれー……!」
 カメリオと襲撃者の組み合いに、襲撃者達は仲間へと熱く声援を送り、トゥルースも控え目にカメリオへと声援を送る。カメリオとがっぷりと組み合う襲撃者――砦の男は、砂蟲を引っ掛ける鈎罠の鎖を繰るうちの一人であるため、襲撃者達の中でも一際膂力に優れている。彼らはカメリオ達よりは少し年長の青年で、父離れするには少々ガイオに愛着を持ちすぎていた。
「……誰に頼まれた?」
「あん? 俺らぁ、てめえが気に入らねえから……」
 トゥルースは、大分回復したらしい襲撃者の青年に低い声で尋ねる。先程までの情けない姿との差に、少々まごつきながらも誤魔化そうとする青年の言葉に被せるように、トゥルースは何も知らないであろう彼らにとって残酷な真実を告げた。
「俺の命を狙ったとあったら、お前らは助からん。ガイオが悲しむぞ」
「なっ――親分は、関係ねえだろが!?」
 この島の自警はガイオ達砦の男達が行っているが、咎人を罰する権限はカームビズ商会が握っている。彼らがそのつもりが無くとも、島の責任者――まして、商会の番頭格であるトゥルースの命を狙ったとあれば、厳しい罰は免れない。そして、それを執行するのは砦の親分たるガイオだ。
「いいや。お前らの処刑はガイオが執行することになる――いいのか? それで」
「いいわけねえだろ……なんだよ、話が違いすぎるぜ」
「なら、取引だ。上手くお喋りできたら俺が良いように計らってやる」
 痛みも相俟ってか、弱気になっているらしい襲撃者の青年は、ぽつり、ぽつりとトゥルースに白状を始めた。カメリオに打ちのめされた他の青年達も、回復はした様子だがしおらしく俯いて話を聞いている。
「酒場で中年の男から俺の居場所を聞いて、ここで待ち構えていた。間違いないな?」
「ああ。てめえ……いや、あんたがここに来るからちょっと思い知らせてやれって言われてよ」
「その男との面識は?」
「わりかし、俺らのいきつけで見かけるおっさんでよ……よく奢ってくれるし、羽振りは良いけど……なにやってる奴かは、知らねえ」
 そもそもが件の中年の男から奢られた、普段飲むよりは上等な酒で気が大きくなってしまったが故の蛮行であるが故、襲撃者の青年は気まずそうに押し黙ってしまった。だが、トゥルースは彼の証言に、裏で糸を引く存在の正体に目星をつけたようだ。
「すまん」
「あん? いや、俺らこそ……悪かったよ」
「いや、これは俺の不始末が原因だ」
 襲った者と襲われた者、そのどちらもが円座となって謝り合うという奇妙な光景が、カナートの裾にて繰り広げられる。一方、カメリオ達の組み合いにもようやく決着を見ると思われたが――カメリオとは組み合っていない襲撃者が、背後から両拳を組んでカメリオの頭を殴りつけようとしているのが、トゥルースの視界に飛び込んできた。
「カメリオ! 後ろだ!」
 トゥルースの呼び掛けを受け、即座に反応したカメリオは、背後の襲撃者の脛を後ろ脚で蹴り飛ばした。そして、組み合っていた襲撃者の拳を躱し、腹に拳を叩き込む。
「――お見事!」
 まるで舞踏のような動きに、トゥルースは思わず感嘆の声を漏らした。
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