絶砂の恋椿

ヤネコ

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短い雨の合間

15―4

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「もう少し、こうしていても構わないか?」
「…………大丈夫、です」
 トゥルースが肩を抱き寄せた手に触れた手を下ろすか迷っていた様子のカメリオは、頬を染めてトゥルースに了承する。トゥルースの手の甲にきゅっと指を掛けて俯くカメリオのその初心な横顔を、トゥルースは愛おしく見つめた。
 一方でトゥルースに抱き寄せられていることを実感したカメリオは、いつもより耳に響く心臓の音が、トゥルースにも聞こえてはいないかと焦るような心地で居た。お互いの混ざった体温がもたらす熱は、気まずいような恥ずかしさと甘えたように離れがたい気持ちをカメリオの心に植え付ける。
(ただくっついてるだけなのに……どうして、こんなに恥ずかしいんだろう)
 心の奥底では恋しく想っている相手から抱擁される照れくささが、カメリオの耳と頬を熱くする。想いに応えることはできないとトゥルースを拒んでおきながら、彼と温もりを分かち合うことを嬉しく思う自分自身の矛盾した心を、カメリオはずるいと感じている。それでも、カームビズ商会の方針について語る際に、どこか沈んだ様子でいたトゥルースを放っておけないとも思うのもカメリオの本心であり、身を寄せ合うこの時間がトゥルースを癒やすものであれば良いとも思うカメリオであった。
「……こうしてたら、番頭さんは元気、出ますか?」
「そうだな。君の温もりは、俺に力を与えてくれるよ」
 照れた様子ながらも慮る声で訊ねてくるカメリオの優しい心根に、トゥルースは温かな恋情を実感した。肩を抱くトゥルースの腕に身を預けるカメリオの高い体温も、腕越しに伝わる鼓動の速さも愛らしく、からかいたいような悪戯心と慈しみたい気持ちがトゥルースの心の内側を擽る。
 トゥルースがこの幸せな心地に、笑いの籠もった溜め息を漏らすと、カメリオは面映ゆさを紛らわすように瞬きをして、呟くように言葉を漏らした。
「番頭さんは、いつも……俺が知りたいと思ってることを、教えてくれますよね」
「君がそう感じてくれているなら、光栄だな」
 言いながらトゥルースがこめかみでカメリオの耳に触れれば、カメリオは恥ずかしそうに唸って言葉を継ぐ。
「だから……俺も、もっと番頭さんの役に立ちたいんです」
「だからこうして、俺に抱き寄せられてくれているというのか?」
 肌に触れたカメリオの耳は熱く、トゥルースはカメリオの言葉通りには受け取ってはいない。だが、気丈なことを言うカメリオに、トゥルースは意地悪な質問を投げかける。カメリオはトゥルースの問いに頷き掛けて、首を横に振った。
「それだけだったら……良かったのに」
 カメリオのむくれたような声色に、トゥルースは嬉しさを感じた。初心なカメリオの心に渦巻く葛藤は、トゥルースにとっては望ましいものだ。トゥルースは抱き寄せた腕に力をこめると、カメリオに甘く囁いた。
だけではない君の気持ちを、じっくり考えてくれると俺は嬉しい」
「…………番頭さんって、意地悪です」
「好きな子には意地悪をしたくなるものさ」
 すっかりへそを曲げた様子ながらも、腕の中から逃れる素振りはみせないカメリオに、トゥルースは笑い声で応える。愛しい存在とじゃれ合いながら過ごす夜は、穏やかに更けていった。
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