80 / 84
短い雨の合間
15―4
しおりを挟む
「もう少し、こうしていても構わないか?」
「…………大丈夫、です」
トゥルースが肩を抱き寄せた手に触れた手を下ろすか迷っていた様子のカメリオは、頬を染めてトゥルースに了承する。トゥルースの手の甲にきゅっと指を掛けて俯くカメリオのその初心な横顔を、トゥルースは愛おしく見つめた。
一方でトゥルースに抱き寄せられていることを実感したカメリオは、いつもより耳に響く心臓の音が、トゥルースにも聞こえてはいないかと焦るような心地で居た。お互いの混ざった体温がもたらす熱は、気まずいような恥ずかしさと甘えたように離れがたい気持ちをカメリオの心に植え付ける。
(ただくっついてるだけなのに……どうして、こんなに恥ずかしいんだろう)
心の奥底では恋しく想っている相手から抱擁される照れくささが、カメリオの耳と頬を熱くする。想いに応えることはできないとトゥルースを拒んでおきながら、彼と温もりを分かち合うことを嬉しく思う自分自身の矛盾した心を、カメリオはずるいと感じている。それでも、カームビズ商会の方針について語る際に、どこか沈んだ様子でいたトゥルースを放っておけないとも思うのもカメリオの本心であり、身を寄せ合うこの時間がトゥルースを癒やすものであれば良いとも思うカメリオであった。
「……こうしてたら、番頭さんは元気、出ますか?」
「そうだな。君の温もりは、俺に力を与えてくれるよ」
照れた様子ながらも慮る声で訊ねてくるカメリオの優しい心根に、トゥルースは温かな恋情を実感した。肩を抱くトゥルースの腕に身を預けるカメリオの高い体温も、腕越しに伝わる鼓動の速さも愛らしく、からかいたいような悪戯心と慈しみたい気持ちがトゥルースの心の内側を擽る。
トゥルースがこの幸せな心地に、笑いの籠もった溜め息を漏らすと、カメリオは面映ゆさを紛らわすように瞬きをして、呟くように言葉を漏らした。
「番頭さんは、いつも……俺が知りたいと思ってることを、教えてくれますよね」
「君がそう感じてくれているなら、光栄だな」
言いながらトゥルースがこめかみでカメリオの耳に触れれば、カメリオは恥ずかしそうに唸って言葉を継ぐ。
「だから……俺も、もっと番頭さんの役に立ちたいんです」
「だからこうして、俺に抱き寄せられてくれているというのか?」
肌に触れたカメリオの耳は熱く、トゥルースはカメリオの言葉通りには受け取ってはいない。だが、気丈なことを言うカメリオに、トゥルースは意地悪な質問を投げかける。カメリオはトゥルースの問いに頷き掛けて、首を横に振った。
「それだけだったら……良かったのに」
カメリオのむくれたような声色に、トゥルースは嬉しさを感じた。初心なカメリオの心に渦巻く葛藤は、トゥルースにとっては望ましいものだ。トゥルースは抱き寄せた腕に力をこめると、カメリオに甘く囁いた。
「それだけではない君の気持ちを、じっくり考えてくれると俺は嬉しい」
「…………番頭さんって、意地悪です」
「好きな子には意地悪をしたくなるものさ」
すっかりへそを曲げた様子ながらも、腕の中から逃れる素振りはみせないカメリオに、トゥルースは笑い声で応える。愛しい存在とじゃれ合いながら過ごす夜は、穏やかに更けていった。
「…………大丈夫、です」
トゥルースが肩を抱き寄せた手に触れた手を下ろすか迷っていた様子のカメリオは、頬を染めてトゥルースに了承する。トゥルースの手の甲にきゅっと指を掛けて俯くカメリオのその初心な横顔を、トゥルースは愛おしく見つめた。
一方でトゥルースに抱き寄せられていることを実感したカメリオは、いつもより耳に響く心臓の音が、トゥルースにも聞こえてはいないかと焦るような心地で居た。お互いの混ざった体温がもたらす熱は、気まずいような恥ずかしさと甘えたように離れがたい気持ちをカメリオの心に植え付ける。
(ただくっついてるだけなのに……どうして、こんなに恥ずかしいんだろう)
心の奥底では恋しく想っている相手から抱擁される照れくささが、カメリオの耳と頬を熱くする。想いに応えることはできないとトゥルースを拒んでおきながら、彼と温もりを分かち合うことを嬉しく思う自分自身の矛盾した心を、カメリオはずるいと感じている。それでも、カームビズ商会の方針について語る際に、どこか沈んだ様子でいたトゥルースを放っておけないとも思うのもカメリオの本心であり、身を寄せ合うこの時間がトゥルースを癒やすものであれば良いとも思うカメリオであった。
「……こうしてたら、番頭さんは元気、出ますか?」
「そうだな。君の温もりは、俺に力を与えてくれるよ」
照れた様子ながらも慮る声で訊ねてくるカメリオの優しい心根に、トゥルースは温かな恋情を実感した。肩を抱くトゥルースの腕に身を預けるカメリオの高い体温も、腕越しに伝わる鼓動の速さも愛らしく、からかいたいような悪戯心と慈しみたい気持ちがトゥルースの心の内側を擽る。
トゥルースがこの幸せな心地に、笑いの籠もった溜め息を漏らすと、カメリオは面映ゆさを紛らわすように瞬きをして、呟くように言葉を漏らした。
「番頭さんは、いつも……俺が知りたいと思ってることを、教えてくれますよね」
「君がそう感じてくれているなら、光栄だな」
言いながらトゥルースがこめかみでカメリオの耳に触れれば、カメリオは恥ずかしそうに唸って言葉を継ぐ。
「だから……俺も、もっと番頭さんの役に立ちたいんです」
「だからこうして、俺に抱き寄せられてくれているというのか?」
肌に触れたカメリオの耳は熱く、トゥルースはカメリオの言葉通りには受け取ってはいない。だが、気丈なことを言うカメリオに、トゥルースは意地悪な質問を投げかける。カメリオはトゥルースの問いに頷き掛けて、首を横に振った。
「それだけだったら……良かったのに」
カメリオのむくれたような声色に、トゥルースは嬉しさを感じた。初心なカメリオの心に渦巻く葛藤は、トゥルースにとっては望ましいものだ。トゥルースは抱き寄せた腕に力をこめると、カメリオに甘く囁いた。
「それだけではない君の気持ちを、じっくり考えてくれると俺は嬉しい」
「…………番頭さんって、意地悪です」
「好きな子には意地悪をしたくなるものさ」
すっかりへそを曲げた様子ながらも、腕の中から逃れる素振りはみせないカメリオに、トゥルースは笑い声で応える。愛しい存在とじゃれ合いながら過ごす夜は、穏やかに更けていった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる